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特許係争が呼び起こすビジネスの活性化と"実態"

アップルとサムスン、エレクトロニクス業界かつ今が最も活況のhandsetを牽引する最大手間の特許侵害を巡る法廷係争が引き続き繰り広げられている。半導体のデバイス・プロセス、アーキテクチャーについても長きにわたる論争の経緯を目の当たりにしてきているが、いろいろな切り口で内実の材料が明らかになって、製品がさらに分かるとともにある意味市場が活性化される雰囲気を感じるところがある。ましてアップルはデザイン特許、サムスンは通信技術特許が主体と、組み合う難しさが見られている。

≪双方の主張と織り成し≫

今が盛りの業界、しかも主張のベクトルの矛先が異なる様相が強いとなると、すんなり裁定決着とはいかず、市場の反応との両にらみで落とし所を探る展開という、今まで目にしたパターンを予想するところではある。目を止めた範囲ながら双方の主張を見ていくと、まずアップルの方はライセンス料の支払いを次の通り訴えている。

[Apple側]

◇Slideshow: Inside Apple, Samsung patent talks (8月11日付け EE Times)
→金曜10日後半にリリースされたドキュメント発。Appleが、2010年8月の詳細なプレゼンにてSamsungがiPhoneおよびiPad特許を侵害していると警告、別の2010年10月のプレゼンでは、2010年にスマートフォン当たり$30、タブレット当たり$40、総計$250Mのライセンス料を提示している旨。

◇Survey: Apple patents worth $100 per device (8月11日付け EE Times)
→Apple側証人で市場リサーチエキスパート、MIT Sloan School of Management教授のJohn Hauser氏。Samsung製品のユーザは、Appleの'915,'163および'381特許で説明されているfeaturesを有するスマートフォンには$100、タブレットには$90を余分に支払うことになる旨。

サムスンは、特許本体のみならずいろいろな状況証拠を踏まえて以下の通りの論点である。

[Samsung側]

◇EEs says Apple design patents invalid (8月14日付け EE Times)
→Samsung側証人、前Texas Instrumentsのモバイルグループ、chief technologist、Itay Sherman氏。AppleがiPhoneおよびiPadの設計に関してSamsungが一つとして侵害しているというAppleの'087,'677および'889特許について、これら3件は前例に照らした明白さから侵害には当たらない旨。

◇Sparks fly as Intel shows up at Apple case (8月14日付け EE Times)
→Apple vs. Samsung特許侵害係争で火曜14日午前、Intelソースコードに注目しているSamsung側エキスパート証人の却下を裁判官に求めて、Intelが驚きの登場の旨。Samsungは、Intelが該裁判を混乱させてAppleを助けていると非難している旨。

◇Samsung designer details rivalry with Apple (8月15日付け EE Times)
→Samsung最初のGalaxyスマートフォンのiconsおよび画面表示に携わったMs. Jeeyeun Wang氏の証言。Apple iPhoneスクリーンのiconsあるいはlayoutsを真似ていることは全くない旨。作業最高潮の当時、設計者約300人のチームはソウルで一緒に2時間ほどの睡眠で3ヶ月を過ごし、生まれたばかりの我が子にやる乳が出なくなるほどストレスを感じていた旨。

◇アップルの「秘密」次々と、サムスンとの特許訴訟で−日本企業からヒントの証言、イメージに傷も (8月17日付け 日経 電子版)
→アップルよりも先に提案・製品を市場に投入していた日本企業の例を挙げることで、サムスンはアップルの技術やデザインの独自性に疑問を投げかけた旨。僅か数年前まで技術面で他国企業に大きく先行しながら、世界規模での事業拡大に失敗、アップルやサムスンに敗れた日本の電機・IT業界の実情も浮き彫りになった旨。

これを裁く女性判事に関連する動きが、次の通りとなっている。双方とも証言時間のリミットを迎えて、判事は3回目となる和解勧告を出している模様の現時点である。

◇Who's gaming who at Apple vs. Samsung? (8月14日付け EE Times)
→AppleそしてSamsungの弁護士が、$2.5B特許侵害裁判にて相手方が舞台裏で弄んでいると公然と非難している旨。

◇Court tensions rise as clock runs down (8月16日付け EE Times)
→AppleおよびSamsungの弁護士がともに、裁判官のLucy Koh氏から、時間が切れてお咎めを受けている旨。Koh氏は両サイドに対し25 hoursに限るとしていたが、両方ともその時間の大半を使い果たしており、Koh氏は今週末までに証言を終えるよう迫っている旨。

◇「サムスンとアップルは和解を」、3度目の勧告 (8月17日付け 韓国・中央日報)
→ 「もう和解する時期だ」(It's time for peace)。15日(現地時間)、米カリフォルニア北部連邦地裁で開かれたサムスン−アップルの特許訴訟9次審理で、ルーシー・コ判事(43才)は双方に和解を勧告、このように述べた旨。

このような係争が注目を浴びるほど市場そして売れ行きはますます活性化される側面を感じてしまうが、裏付けとなるかどうか、並行する関連の動きとして次の通りである。

◇IHS iSuppli: Apple, Samsung were biggest buyers of MEMS devices (8月13日付け Wireless Week)
→IHS iSuppli発。2011年のconsumerおよびモバイル用MEMSデバイスの最大購入元2社:
 Apple     $499.8M  139%増
 Samsung   $291.3M  45%増

◇Apple grows iPad share as court case rages (8月14日付け EE Times)
→IHS iSuppli発。特許係争の渦中、Appleが第二四半期に17M台のiPads出荷、前四半期(11.8M台)比44.1%の急増、該新カテゴリーのシェアが70%に、これに対してSamsungは累計で約13M台のmediaタブレット出荷となっている旨。

サムスンはこのタブレットでもシェアを高めようと、米国での新製品発表を行っている。今が旬の業界ならではのこの係争であるが、結果としての事業展開の損得にどう反映してくるか、引き続き注目と思う。

◇絵も描ける新型タブレット…サムスンが米で発売 (8月16日付け 読売)
→韓国サムスン電子が、タブレット型多機能端末の最新機種「ギャラクシーノート10・1」を16日から米国で発売すると発表、専用のペンを使って、画面に文字や絵を書き込め、また、画面を二つに分け、インターネットや動画を楽しみながら、別の画面で電子メールや書き込みを同時にできるようにした旨。スマートフォン(高機能携帯電話)の販売台数ではアップルを突き放すサムスンも、タブレット端末の世界シェアは約9%にとどまり、約7割のアップルに独走を許している旨。


≪市場実態PickUp≫

携帯電話およびノートPCの第二四半期ベンダーランキングより、携帯電話については上記の特許係争の渦中にあるSamsung、そしてAppleの急伸、ノートPCについては台湾および中国勢が躍進、混沌としたデータ内容に注目している。

【ランキングの顔ぶれ】

◇The top ten mobile phone companies (8月15日付け EE Times)
→Gartnerによる第二四半期の携帯電話出荷数量トップ10ベンダー:
 1. Samsung       −韓国
 2. Nokia        −フィンランド
 3. Apple        −米国
 4. ZTE         −中国
 5. LG Electronics    −韓国
 6. Huawei        −中国
 7. TCL Communications  −中国
 8. HTC         −台湾
 9. Motorola       −米国
 10. Research in Motion  −カナダ

◇Acer ranks first in 2Q12 notebook shipments, says Gartner (8月15日付け DIGITIMES)
→Gartner発。第二四半期のnotebook市場グローバル出荷台数、Acerが前四半期比1.2%増、欧州での市場シェアが20%に上昇して首位に、PCs全体ではAcerのシェアは11.4%で第3位の旨。
・2012年第二四半期notebookベンダーグローバル出荷ランキング

ベンダー
出荷(M台)
グローバル市場シェア
Acer台湾
7.567
15.4%
Lenovo中国
7.532
15.3%
Hewlett-Packard(HP)米国
7.524
15.3%
Asustek Computer台湾
5.264
10.7%
Dell米国
4.943
10.0%


北米半導体装置業界BB比関連データは、ここのところ低調な状況を表わしており、Applied Materialsの業績発表に端的に表われている。

【北米半導体装置業界】

◇Fab tool book-to-bill slips again (8月16日付け EE Times)
→SEMI発。7月の北米半導体装置ベンダーBB比(3ヶ月平均ベース)が0.87、4ヶ月連続の低下の旨。
・北米半導体装置ベンダーBB比の2012年2月7月の推移
http://www.eetimes.com/ContentEETimes/Images/semi_b2b_july2012.jpg

◇Applied sees semi equipment orders bottoming by October (8月16日付け EE Times)
→Applied Materials社(Santa Clara, Calif.)の10月締め第四四半期販売高が、前四半期比25-40%減少する見込み、半導体装置事業からの販売高が同45-50%落ち込むと見る旨。

史上最高を更新するものの飽和基調が続く半導体業界の販売高となっているが、この先5年を見据えると過去5年と比べて倍のCAGRを見込む予測が出されている。

【今後5年の半導体業界】

◇Global chip market to grow at 8% CAGR by 2016, IC Insights says (8月13日付け DIGITIMES)
→IC Insights発。半導体業界は平均年間市場伸長が精彩を欠く期間を経て、向こう5年の間に大きな戻しが待ち構えると見る旨。
・IC Insights: 改善していく半導体市場伸長率予測

06-11 CAGR
11-16 CAGR
Total semi
3.9%
8.0%


米国での製造の再生・回帰が長らく議論されており、我が国にも共通するところが多い問題意識である。他では得られない信頼性、品質管理はじめ古くて新しい先進経済圏でのあるべき製造の姿が浮かんでくる。

【米国での製造】

◇Does manufacturing create jobs, spur innovation, or both? (8月15日付け EE Times)
→米国の製造を再生する重大な必要性についてここ数年多くの論調が見られているが、製造再生が西側経済に何を意味するのか、依然正確にはっきりとはしていない旨。

◇Tech manufacturing returning, U.S. group says (8月16日付け EE Times)
→業界association、IPCの調査"On-Shoring in the Electronics Industry:Trends and Outlook for North America"。少なくとも$2.5Bの規模のエレクトロニクス製造operationsが、向こう3年で北米に戻ってくる見込み、主な理由として品質管理が挙がっている旨。


≪グローバル雑学王−215≫

世界の最先端の技術をもちながら世界標準から結局はかけ離れて、市場をリードできていない問題意識からスタートして、

『日本はなぜ世界で認められないのか −「国際感覚」のズレを読み解く』
 (柴山 哲也/著:平凡社新書 636) …2012年 4月13日 初版第一刷

より、さまざまな切り口から我が国と世界が見て受け入れている感覚とのズレに触れて考えてきたが、今回で読み収めとなる。メディアの世界に身を置いてそれぞれに現地に出向いた著者からの幅広い視点のインプットに、見方、考え方をあらたにするところ随所である。GDPで我が国を追い抜くとともに摩擦要因をいろいろ抱える中国との対比、対置が、以下の通りで締めとなる。


第六章 日本はなぜ中国に抜かれたか

◆「失われた十年」の本当の意味
・1990年代の半ば、米国・シカゴでの米国アジア研究学会に(著者が)出席
 →『ジャパン・アズ・ナンバーワン』の著者、ハーバード大のエズラ・ヴォーゲル教授
 →新しい名刺の表には英語、裏には中国語
 →米国知識人の行動力と先見の明
・1985年に米国を抜いて世界一のGNPを達成した経済大国、日本
 →色濃く残ったバブル景気の余韻
 →いち早く製造業からIT化へとシフトした世界経済の大きな変化に後れ
・システムの自己変革ができず、権力をもった組織が内部腐敗を深めたことが、「失われた十年」の本当の中身
・海外諸国の目に対して鈍感、内部改革を拒否し続けた日本
 →近隣の中国や韓国に追い抜かれるのは当然の帰結

◆天津、北京で実感した中国の躍進
・(著者が、)北京オリンピックの前年、2007年に天津や北京を訪問
 →高層ビルと道路の建設ラッシュの予想以上のすさまじさ
 →欧米の豪華なブランドショップが軒を連ねる北京中心部、王府井(ワンフーチン)
・何よりも人々の熱気と躍動感が溢れ、スケールが大きい
 →日本はもう負けている、との思いに
 →北朝鮮に行く前に立ち寄った30年前の中国との違い
・かつて政治が激動した季節に失われた中華料理は伝統の味を取り戻し
・北京の故宮博物館を見ていたとき、日本語や日本文化を学んでいる精華大学の学生
 →日本の歴史や文化について貪欲な知識欲に満ちた若者
 →最近日本の大学ではほとんど出会わない
・若い知的意欲の旺盛なマンパワーの違い
 →今の日本が中国に抜かれた真の理由では

◆ビジネスを活性化させた知の拠点・大学
・香港理工大学にて2001年末に開催、APEC(アジア太平洋経済会議)の「IT専門家会議」に(著者が)出席
 →香港理工大学にいれば、中国本土の北京大学や精華大学はじめ全国の有力大学の研究成果が、コンピュータによってそっくり入手、共有可
 →大学の先端研究をビジネスにするノウハウを蓄積して豊富な資金力
・経済特区の深センの通信機器のソフトウェア会社を訪問
 →携帯電話のほか、米国製のウィンドウズを使わないソフトウェア開発を目指す
 →米国製のソフトを使うと情報が米国に漏れる危険があるという、コンピュータの安全保障上のリスクを中国企業は意識
 →自前のコンピュータソフトを作ろうとする試み、斬新な国際企業戦略
 →「日本の大学卒は学力が落ちるのでウチでは採用していない」とそっけない返答

◆ラストエンペラーと周恩来記念館
・天津の史跡を探訪、最大の関心は、清朝のラストエンペラー、愛新覚羅溥儀の足跡
 →溥儀が住んだ天津の「張園」「静園」の跡
・満州国皇帝になった溥儀
 →建物周辺やガイドブック、博物館などの展示から溥儀の名前を発見することはできず。
・周恩来が卒業した南開大学(当時は南開中学)
 →構内の一角に、周恩来記念館
 →日本帝国主義下の中国というコーナー、展示の一部を見てびっくり
 →日本側の文化外交の怠慢を思う

◆近寄れなかった天安門広場
・北京オリンピックの前、中国政府の人権抑圧問題で、聖火リレーが世界のあちこちで妨害される事件が多発
・大勢の警官が天安門を囲むように立っていて、近寄りがたい雰囲気
・改革開放の経済主義と民主主義の抑圧、思想や信教の自由の抑圧との間のアンバランス
 →中国の発展にとって、大きな阻害要因に

◆漢民族支配に対するマイノリティの抵抗
・(著者が、)1984年、関西日中法律家交流協会の弁護士の方々に同行、2度目の訪中
 →小平の指導する改革開放経済に舵を切った中国
・同行の日本人弁護士は、中国当局が多様な人間性や思想や人権を認めない文化の在り方を危惧
 →中国に正しい法支配が根づくかどうか心配
・モスクからイスラム教の祈りが聞こえてくる中国の西域
 →無宗教の北京や上海の中国とはまったく違う中国の別の顔
 →ウイグルに入るときにはパスポートコントロール:新疆ウイグル自治区は異国の扱い
・日本は表面的な経済関係だけでなく、もっと精神的に深く中国と関わるべき立場

≪あとがき≫

・これからの日本、次の2つの解明を同時に進行、新しい日本のイメージを作る必要
 →世界に対して自身の歴史と文化をどう説明し発信してゆけばよいか
 →世界は日本という国をどう認識しているか

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