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一気に熱気、次世代製造装置の"連携"と特許訴訟の"せめぎ合い"

真夏真っ只中の我が国、ロンドンオリンピックの興奮が相次ぐなか、半導体・エレクトロニクスの世界では注目を集める2つの熱気が渦巻いている。オランダのASMLが打ち上げたequity-plus-researchプログラムにインテルに続いてTSMCが出資を表明する一方、ニコンがインテルから開発費を得るという次世代半導体製造装置業界の"連携"が1つである。もう1つ、モバイル機器市場を引っ張るアップルとサムスンの間の特許侵害を巡る議論の応酬が、一層の熱気を帯びてきていて"せめぎ合い"が続いている。

≪注目を集める2つの熱気≫

真夏の夜の夢ならぬ現実の世界で耳目を集める2つの熱気の渦となっている情勢模様を感じているが、次世代製造装置の"連携"については、TSMCの以下の動きが今回の引き金になっている。

◇TSMC Joins ASML's Customer Co Investment Program-TSMC to take 5% stake in ASML, help fund lithography R&D (8月5日付け The Wall Street Journal/Dow Jones Newswires)

◇TSMC to invest $1.4 billion in ASML (8月6日付け EE Times)

◇TSMC joins Intel to play part of ASML co-investment program (8月6日付け DIGITIMES)

◇台湾TSMC、蘭ASMLに出資、総額1080億円 (8月6日付け 日経 電子版)
→TSMCが5日、半導体製造装置最大手、ASML(オランダ)に総額11億1400万ユーロ(約1080億円)を投資すると発表、ASMLが主導する次世代の半導体製造技術プロジェクトを支援、半導体の低コスト生産などにつなげる狙いがある旨。TSMCは、投資総額のうち8億3800万ユーロでASMLの株式を5%取得、さらにEUVを使った装置や、450-mm大口径Siウェーハに対応可能な装置の開発に、今後5年間で2億7600万ユーロを提供する旨。

インテルに続く動きであるが、ASML、キヤノンと相並んできているリソ装置大手、ニコンは、そのインテルから開発費を得る連携を進めている。

◇Report: Nikon to work with Intel to develop 450-mm wafer steppers (8月7日付け EE Times)

◇ニコン、インテルから開発費、次世代半導体装置で (8月8日付け 日経 電子版)
→ニコンがインテルと共同で、450-mmウェーハに対応できる露光装置を開発する旨。インテルは数百億円の開発費負担を決めた模様、ニコンは最大顧客、インテルからの資金支援を得て開発を加速させる旨。
世界シェア8割のASML(オランダ)もインテルからの出資などによる最大41億ドル(約3200億円)の資金協力を取り付けたばかり、半導体メーカーと装置メーカーの連携が進んできた旨。

まさに次世代リソ装置開発促進を巡って、次の様相の業界模様となっている。

◇半導体大手と半導体製造装置大手、「次世代」開発で連携−露光技術めぐり合従連衡 (8月9日付け 日刊工業)
→次世代半導体をめぐって、半導体大手と半導体製造装置大手の連携が進んでいる旨。システムLSIなどの演算素子に限ると、次世代半導体は米インテルと韓国サムスン電子、台湾TSMCの3社に集約された旨。一方、先端露光装置はオランダのASMLとニコンの一騎打ち、5社が入り乱れた合従連衡が進んでいる旨。

もう1つ、前回から日毎推移を取り上げているアップルとサムスンの間の議論のやりとりであるが、以下の通り一段とボルテージが上がっている。

◇Expert says Samsung phones, tablets infringe (8月6日付け EE Times)
→Appleのために証言するエキスパートの証人が、Samsungの電話11ほど、およびタブレット2つがApple設計特許を侵害している旨。30以上の設計特許をもつ業界設計のコンサルタント&講師、Peter W. Bressler氏が、11のSamsungの電話がAppleのD618,677設計特許を侵害、該特許は主にiPhoneの前面の外観に関し、コーナーが丸い長方形型および平坦で黒い表面などの旨。

◇Market expert: Samsung diluted, copied Apple (8月7日付け EE Times)
→Apple側証人のmarketingエキスパート、Stern School of Business at New York Universityのmarketing教授、Russell S. Winer氏。Samsungが、iPhoneおよびiPadのtrade dress(製品のデザイン要素特性)をぼやかしてコピーを試みたと思う旨。Samsung社内レポートが、Apple製品がそうであるように市場で目立つよう製品デザインを高める必要性を言っている旨。

◇Samsung argues over icons, user confusion (8月7日付け EE Times)
→Samsung側主任弁護士、Charles Verhoeven氏。Samsungの電話で使われているiconsの大多数は、iPhoneのものとは実質的に異なる旨。

◇Slideshow: Apple's best evidence on Samsung (8月8日付け EE Times)
→Appleが火曜後半にSamsungが同社の特許およびtrade dressを真似たという最善の証拠、iPhoneと比較したSamsungの132ページのレポートをリリース、該レポートは、126のspecific featuresにわたってiPhoneとSamsungのS1 handsetを系統的に比較している旨。

ここで、次の表現をPC百科事典より確認している。
※トレード・ドレス trade dress
…米国で確立されている知的財産権の1つであり。ブランド名を示すブランドマークに使われている字体や特徴的なデザインや色彩、容器の形状や素材などで作り上げられる全体的な印象を指し示す。有形の商品だけでなく、店舗の内装から外観、店員のユニフォーム等も含まれる。ただし、商品の機能的な属性に基づく物はトレード・ドレスからは除外される。

San Joseでの議論応酬と並行して、韓国での両社の係争は次のようになっている。  

◇サムスンvsアップルの韓国国内訴訟 10日判決 (8月8日付け 韓国・中央日報)
→ソウル中央地裁が10日、サムスン電子とアップルが互いに起こした特許権侵害禁止請求訴訟に対する判決を出す予定の旨。サムスン電子は昨年4月、アップルがデータ受信エラーを減らす通信標準特許、携帯電話をパソコンにつないでパソコンでの無線データ通信を可能にする特許を侵害したとして提訴、これに対しアップルは昨年6月、サムスン電子がスマートフォンのデザイン、写真・文書の最後を知らせる「バウンスバック」、スライド式ロック解除の技術が自社の特許を侵害したとして訴訟を起こした旨。

どちらが優勢か、メディアの取り上げ方であるが、まずは韓国での見方である。

◇「アップルの証人が答弁に困惑、特許侵害訴訟はサムスンが優勢」 (8月9日付け 韓国・中央日報)
→米経済専門誌フォーブス(電子版)が7日、「サムスンがアップルに比べ法廷で優勢を示している。サムスン電子側の弁護人がアップルの証人の水準を低く見えさせている」と報道した旨。同誌は引き続き「アップル側の証人はサムスンの代理人がアイコンをひとつずつ比較し互いに異なる点を説明すると答弁するのに困惑していた。アップルの証人はアップル側の弁護士の質問だけ受けた後席をはずすのが良かった」と皮肉った旨。

◇特許訴訟:サムスンの反撃、アップルが守勢に (8月10日付け 韓国・朝鮮日報)
→米国でのアップルとサムスン電子による特許訴訟が中盤に入り、攻防が激しさを増している旨。相手の虚を突く論理、攻撃が相次いでいるほか、両社の企業秘密、社外秘文書も公開され、両社は互いに反発を強めている旨。これまでの状況を総合すると、ムード的にはアップルが守勢に回っている旨。アップルが法廷で自社に有利な発言をした証人に金銭を支払っていたことが明らかになったほか「アップルもソニーのデザインを参考にした」とするアップルの元デザイナーの証言も飛び出した旨。

一方、アップルに視点を置くと、上述からの論拠、データを踏まえていくトーンが感じられてくる。

◇Expert: Samsung infringed '915 patent 24 times (8月10日付け EE Times)
→Apple側で証言するUniversity of Toronto、コンピュータ科学教授、Karan Singh氏。Samsungは、その製品の24のなかでscrollingおよびzoomingについての重要なApple特許を侵害しており、24のSamsung製品が'915特許のclaim 8を侵害と結論づける旨。

◇Consumers: Samsung, Apple devices look alike(8月10日付け EE Times)
→Apple側証言でプレゼン紹介された調査:
Apple向け実施調査で、2つのSamsung handsetsを眺めた消費者の半分が、それらがiPhonesのように見えたと思った旨。
別の調査で、Samsungタブレットによりビデオを眺めた消費者の6-19%が、それがApple iPadと思った旨。

ここしばらく注目の推移である。


≪市場実態PickUp≫

このアップルとサムスンのhandset業界席巻の度合いを具体的に示す以下の内容である。

【2社が圧倒するhandset模様】

◇Analyst: Apple, Samsung snagged over 100% of Q2 handset profits (8月7日付け EE Times)
→Canaccord Genuityのアナリスト、T. Michael Walkley氏の月曜6日レポート。Apple社とSamsung Electronics Co. Ltd.を合わせると、第二四半期のセルラhandset業界の利益すべての108%を占めている旨。
Research in Motion Ltd., Nokia社, Motorola Mobility LLCおよびSony社などhandsetベンダー数社が、operating lossesを出しているための旨。

このhandset業界の熱気は、中に入るアプリプロセッサの世界にも及んでいると手前勝手に感じている。Qualcommの席巻の度合いが低下、続くプレーヤー間の競合が高まっている。

【スマホアプリプロセッサ】

◇MediaTek cracks top 5 in smartphone apps CPU sales (8月7日付け EE Times)
→Strategy Analytics社のStrategy Analytics Handset Component Technologiesサービス発。第一四半期のグローバルスマートフォンアプリプロセッサ販売高が、前年同期比55%増の$2.47B、Qualcomm社が引き続き該市場を引っ張っているが、同社の市場シェアは前年同期の51%から44%に低下している旨。このシェア低下は、Broadcom社とMediaTek社からの市場拡大および競合激化によるとしている旨。

◇Marvell drops out of top 5 smartphone applications processor rankings (8月7日付け ELECTROIQ)
→第一四半期のグローバルスマートフォンアプリプロセッサのトップ5ベンダー: Qualcomm
 Samsung
 Texas Instruments
 Broadcom
 MediaTek

またまたhandset業界であるが、半導体部品の不足がさらに売れるのに足かせになっている事態が言われ続けている。これがファウンドリー業界にも以下の通り現下の対応する動き、そして活況の業績につながっていると感じるところである。

【ファウンドリー業界】

◇Reports: Wafer discounts, rush orders from MediaTek, Nvidia -MediaTek, Nvidia reportedly order 40nm chips in place of 28nm ICs (8月7日付け EE Times)
→Taiwan Economic News発。MediaTekおよびNvidiaがSiファウンドリーが作る28-nm半導体に不足に欲求不満の様相、替わりに40-nm featuresで作るICsにvolume発注している旨。また、TSMCおよびUMCは、40-nm半導体など主流プロセス技術について5%の値引きを提示している旨。

◇SMIC hits new quarterly revenue high (8月8日付け EE Times)
→SMIC(上海)の第二四半期販売高$421.8M、前四半期比26.8%増、前年同期比19.7%増。アナリスト予想および先月の同社の改定目標を上回って、四半期販売高最高記録更新の旨。特に、65-nmおよび55-nmプロセスノード売上げが前四半期比87%増となっている旨。

◇UMC's July sales bounce 9% (8月8日付け EE Times)
→UMC(Hsinchu, Taiwan)の7月販売高NT$9,613M(約$320M)、前月比3.5%増、前年同月比9.1%増、現在最先端の28-nm製造ノードに纏わる力強い受注が追い風になっている旨。2012年1-7月累計ではNT$60,998M(約$2.0B)、前年同期比依然6.3%減。

◇TSMC 40nm supply tightens on growing demand from MediaTek (8月10日付け DIGITIMES)
→業界筋発。主として中国の顧客に供給されるMediaTekのスマートフォン半導体需要が増大しており、TSMCの40-nmファウンドリーcapacityが逼迫している旨。

◇TSMC July sales up 12% (8月10日付け DIGITIMES)
→TSMCの7月連結売上げNT$48.53B($1.62B)、前月比11.7%増、前年同月比37%増。1月〜7月累計ではNT$282.09B、前年同期比12.2%増。第三四半期は前四半期比6-8%増を見込むが、続く2四半期では減少の可能性、と最近の投資家meetingにて同社chairman and CEO、Morris Chang氏。

handset業界での熱気にとらわれがちになってはという戒めを感じるところがあるが、本年の半導体市場全体についてはマイナスの見方も出てきている。揃ってきた現時点の見方では低い方の一桁成長が大方という状況である。

【2012年半導体市場】

◇Chip market could fall by 5% in 2012, says ABI (8月6日付け EE Times)
→Allied Business Intelligence社発。2012年上半期のグローバル半導体販売高は$142.96B、前年同期の$150.59Bに比べて5.1%減、グローバル経済の不安定および半導体製造における過去の投資不足から2012年下半期も引き続き市場は軟化、2012年全体の半導体市場は5%までの低下を予想する旨。

◇Semico cuts 2012 chip market growth forecast (8月8日付け EE Times)
→Semico Research社(Phoenix)が今週、2012年グローバル半導体市場伸長予測を下方修正、今年始めの販売高8-10%増から今回6-8%増と見る旨。今年始め時点はタイの洪水から生じる鬱憤したPC需要を一つに、より楽観的であった旨。
・≪表≫ 2012年半導体伸長予測 現時点のまとめ一覧
http://www.eetimes.com/ContentEETimes/Images/120808_analyst_forecast_chart.jpg


≪グローバル雑学王−214≫

金 正恩(キム・ジョンウン)新体制への移行、固めが日々伝えられている北朝鮮の状況であるが、我が国との間の拉致問題について1980年代始めから現地に足を踏み入れた下記著者の経験、見方を通して、

『日本はなぜ世界で認められないのか −「国際感覚」のズレを読み解く』
 (柴山 哲也/著:平凡社新書 636) …2012年 4月13日 初版第一刷

より、現状の開けない背景に迫ってみる。この問題が顕在化、拉致に気づくまでの時間とともに、そうさせた大戦のいまだに落とす影を考えている。


第五章 北朝鮮拉致問題はなぜ解決できないのか

◆貧しかった北京、豊かに見えた平壌
・(著者は、)1981年、日朝音楽交流の使節団に同行して平壌へ
・持っているパスポートを国にいったん返納、北朝鮮渡航用の別のパスポートをもらう必要
 →北朝鮮の入国ビザは北京の朝鮮大使館で取得することに
・当時の中国、文化大革命の悪影響は中華料理の味や質の劣化にも表われていた
・1960年代から1970年代、日本の大学紛争や全共闘運動
 →紅衛兵を称賛、「造反有理」という立て看板
・パリで亡命中国人学生に会って、中国の文革はおかしい、と実感
 →中国政府がいかに言論弾圧と人権抑圧を行ってきたか、文革がいかに間違った非人間的な社会運動であるか、諄々と説明

◆横田めぐみさんに似た少女
・パスポートをお預かりします、と北朝鮮の対外文化協会の担当者
・ポトンガンという川辺にあるホテルが(著者たちの)宿舎
 →社民連の田 英夫氏と楢崎 弥之助氏にロビーで会った
・田氏らが要求していた金日成主席との会見も実現しないまま、ずるずると時間
 →結局、相手のいうままのお仕着せの取材コース、帰国して記事を書けば相手方の宣伝になるという旅程
・当時の北朝鮮は中国に比べれば食生活はよく、経済的にも豊かなように見える
・昼食を終えたレストランの奥に土産品や煙草の売店
 →日本語がわかる売店の売り子の少女
・それから十数年も経た1993年、横田めぐみさんが拉致されたという新聞報道
 →1981年春時点、北朝鮮拉致問題はまったく顕在化しておらず

◆なぜ拉致に気付かなかったのか
・1970年、日本赤軍の日航機よど号ハイジャック事件
 →彼らは北朝鮮に保護
・1990年、戦後初めて外務省などの政府関係者が北朝鮮入り
・1997年、産経新聞と週刊誌『AERA』、横田めぐみさん拉致問題についての報道
・日本政府は、幾度ともなく浮上する横田めぐみさん生存説に対しても、何らの打つ手を持たず

◆日本統治下時代への怨恨
・1970年代から1980年代、北朝鮮は金日成の主体思想で国が統一、韓国に比べれば平和的であるという思い込みがあったのは確か
・北朝鮮社会には、戦時下の日本統治時代への怨恨が深く根をおろしている
 →訪朝するとわかる
・日本が自前で戦前の歴史を総括せず、米国主導の東京裁判の結果だけで国際的な戦争責任を果たしたという思い込み
 →少なくとも、中国も含め、日本の侵略戦争を経験した東アジア諸国では通用していない

◆拉致問題をいかに解決するか
・北朝鮮内部の人権抑圧を告発する包囲網による国際世論の圧力
 →これこそが、拉致問題解決の最大の武器に

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