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最先端半導体プロセス開発&事業化、丁々発止の最前線

三次元トランジスタ、fin-FET、tri-gate技術といろいろ称されるキーワードをもつ新型トランジスタに成るインテルの22-nm製造プロセス技術プロセッサ、Ivy Bridgeが発表されている。前回はスマートフォン、タブレットの市場需要にTSMCはじめ28-nmノード生産が追いつかない事態を取り上げたが、このような最先端プロセスの事業化についてインテルとTSMCの間のジャブ応酬が垣間見える様相である。最先端の先鞭はつけている我が国であるが、肝心のビジネス収穫期でのプレゼンス、あり方がはたまた課題である。

≪インテルのIvy Bridge発表≫

新しいトランジスタ構造ということでひと際注目される発表となっているが、その記事のいくつか、次の通りである。

◇Update: Ivy Bridge narrows AMD's graphics lead (4月23日付け EE Times)
→Intelが本日、同社22-nm tri-gate技術を用いる初めてのプロセッサで極薄、軽量のnotebooksに向けたIvy Bridge CPUsファミリーを展開、アナリスト連の見方として、該半導体はグラフィックス性能におけるライバル、AMDのリードを狭め、Apple iPadなどタブレットの攻勢を受けているnotebook市場に新たな息吹を注ぎ込む旨。
・≪チップ写真≫ Ivy Bridgeのトランジスタ14億個の約1/3がグラフィックス用
http://www.eetimes.com/ContentEETimes/Images/Ivy%20Bridge%20die%20x%20420.jpg

◇Intel launches Ivy Bridge processor (4月23日付け EE Times)
→Intelが本日23日、同社Ivy Bridgeプロセッサを市場に対し正式打ち上げ、Ivy Bridgeは、同社22-nm製造プロセス技術で正式にリリースされる最初のデバイス、シリコンの垂直finに作り込まれるトランジスタ、FinFETsが含まれる旨。

◇Intel officially rolls out Ivy Bridge chip-Ivy Bridge processor models are available starting today, aimed at high-end desktop, laptop, and all-in-one designs. (4月23日付け CNET/Nanotech)
→Intelの"Ivy Bridge"プロセッサが、日曜22日からdesktopコンピュータおよびportable PCsに入り、また同社は、ultrabooksに向けた"Ivy Bridge"ラインのdual-core版も開発している旨。

◇インテルが新MPU、処理能力高め電力抑える (4月24日付け 日経 電子版)
→インテルが23日(米西海岸時間)、MPUの新製品を発表、パソコン向けMPUの主力製品「Coreプロセッサ」の新製品(開発名:Ivy Bridge)を月内に発売する旨。回路線幅を22-nmに縮めるほか、従来は平面であったトランジスタの構造を立体的にする旨。

◇To preserve Moore's Law, Intel abandons conventional transistor design (4月26日付け Knovel)
→最新世代の半導体でIntelは、明らかに一層困難になってきているプロセッサ速度の改善の継続をもう一度可能にしている旨。

Moore則の申し子という評され方を感じるインテルのMark Bohr氏から、TSMCを標的とするコメントが出されている。

◇Intel exec says fabless model “collapsing”(4月24日付け EE Times)
→Intelのミスタープロセス技術と称してよいと思うMark Bohr氏。ファブレスモデルの終わりが始まっており、20-nmプロセス技術は1種類に絞って供するというTSMCの最近の発表は失敗を自認している旨。TSMCは、次の主要ノードでleakage電流軽減に必要となる3-Dトランジスタの類が作れていない様相の旨。

このコメントについて次の表わされ方も見られる。設計と製造を一貫してもつIDMならではと強烈な風向き、風情である。

◇Intel claims the fabless model is failing-Intel says "real men" still have them (4月26日付け TechEye)

22-nm製造プロセスについてインテルは、気鋭のファブレスFPGAベンダーに対してファウンドリー製造を請け負っており、以下その動きの1つである。

◇Achronix reveals 22-nm FPGAs, courtesy of Intel (4月24日付け EE Times)
→ファブレスFPGAベンダー、Achronix Semiconductor社(Santa Clara, Calif.)が、22-nm製造プロセス技術に成る初のFPGAs、Speedster22i HD(high density)およびHP(high performance)製品ファミリーの詳細を発表、該デバイスは2010年11月に発表されたIntel社とのファウンドリー合意によるもの、最初のデバイスは2012年第三四半期にサンプル出しの運びの旨。

このAchronixのchairmanからのコメントである。

◇Achronix chairman: Intel foundry gambit poised for payoff (4月26日付け EE Times)
→ファウンドリービジネスをTSMCからIntelのこれから飛び立つファウンドリーoperationに切り替えたAchronix Semiconductor社の2010年の決定は、半導体業界の大方を驚かせた大胆な動きであった旨。Intelの22-nm FinFETプロセス技術に生き残りを賭け、勝算を描く同社のfounder and chairman、John Lofton Holt氏「Intelの22-nmプロセスにより我々は競争相手に対し2.5年先行と思っており、現在はIntelの14-nmプロセス技術に投資している。」

今回披露されたIvy Bridgeチップのブロックレイアウトについて、1970年代まで遡ってそれになんらか脈絡つながりのある11のプロセッサが次の通り示されている。

◇11 Chips That Paved the Way for Intel's Ivy Bridge (4月25日付け PC Magazine)
→今回のIntelのIvy Bridgeは、以下のプロセッサにより可能となっている旨。

[発表年]
Intel 8086
1976
Intel 386
1985
Sun SPARC
1987
S3 86C911
1991
  グラフィックス
DEC Alpha
1992
ARM6
1992
Intel Pentium
1993
3DFX Voodoo
1996
  3Dグラフィックス
AMD K6
1997
Transmeta Crusoe
2000
AMD Opteron
2003

標的となったTSMCであるが、早速に設備投資計画を最高レベルに引き上げている。今後の成果のほどに注目である。  

◇TSMC raises capex to record $8.5 billion, pulls in 20-nm (4月26日付け EE Times)
→Taiwan Semiconductor Manufacturing Co. Ltd.(TSMC)(Hsinchu, Taiwan)が、28-nmウェーハの需要が予想以上に力強く、また20-nm R&Dプロセスライン構築"pull in"を決めたことから、2012年の設備投資計画を $8B〜$8.5Bに上方修正の旨。

上記インテルMark Bohr氏のコメントをもとに、50年の流れがある半導体scaling、Moore則を三次元トランジスタがさらにひき続けていく、という以下解説記事の一部である。

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○Moore's Law Lives Another Day (4月25日付け MIT Technology Review) 

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Intelの最新プロセッサライン、Ivy Bridgeが月曜に打ち上げられて、Mooreの予測は依然健全に見えている。該半導体は22-nmのfeaturesを擁して真っ先に出てきており(現在の半導体で最も微細なものは32-nmである)、トランジスタがさらに小さく一層密に収められている。Ivy Bridge半導体は、先行世代品より処理速度が37%上回り、半分のエネルギーを用いて同じ性能が得られる。

Ivy Bridgeプロセッサ上のトランジスタは、最新ラインのIntel半導体の約2倍の密度で収められ、212mm2チップ上の1.16 billion個から160mm2チップ上の1.4 billion個となっている。ここ何十年ほとんど変わっていない現状のトランジスタ設計は、22-nm featuresでは単純には縮小といかなかった。そうするとリーク電流が増していって、トランジスタがオフのときもいくらかの電流が抑えられなくなる。Intelは、トランジスタに余分のdimensionを加えてその困難を上手く避けた。Intelはこの三次元トランジスタを"tri-gate"設計と称している。

この同様な設計は、1980年代にまず日本で示され、1990年代からUniversity of California, Berkeleyで何年もの間開発された。Intelは2000年頃にこの設計を調査し始めた、とBohr氏は言い、2008年に採用することを約している。「研究用のデバイスを作ることは1つあるが、低コストおよび多量に半導体を確実に生産できるようにすることはまったく違うことだ。」とBohr氏は言う。Intelは多くの現存する工場プロセスを再利用しており、その結果としてIvy Bridge設計でのSiウェーハpatterningは、前世代半導体で行ったものから約2%のコスト増に抑えれている、と同氏は言う。

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「さらに難度が高まっていくが、Moore則の終わりは見えていない。」Bohr氏は言う。
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≪市場実態PickUp≫

GlobalFoundriesは貫通電極(TSV:through-silicon vias)で先端を切ろうと、20-nmでの生産対応を進めている。ここでもTSMCとの鬩ぎ合いが見られる。

【GlobalFoundriesの20-nm TSVs対応】

◇GlobalFoundries installs gear for 20-nm TSVs(4月26日付け EE Times)
→GlobalFoundriesが、同社Fab 8(New York)にthrough-silicon vias(TSVs)を作る設備を据え付けており、順調にいけば20-nmおよび28-nmプロセス技術を用いる3-D半導体stacksについて2013年後半に生産受注に応じる期待の旨。

◇GLOBALFOUNDRIES installs TSV fab tools for 20nm stacked die (4月26日付け ELECTROIQ)
→GLOBALFOUNDRIESが同社Fab 8(Saratoga County, NY)にて、20-nmノード半導体ウェーハでthrough-silicon vias(TSV)を作り込むために半導体生産ツールの特別な一式を据え付けている旨。TSVsを擁する最初のfull-flowシリコンは、2012年第三四半期にFab 8で走り始める見込みの旨。

◇GlobalFoundries Enters 2.5D/3D Chip Foundry Market (4月26日付け SemiMD.com)
→新興途上市場での競争力強化の布石、GlobalFoundries社が木曜26日、2.5D/3D chip-stackingファウンドリー領域に正式に参入、同社の2.5D/3Dファウンドリー戦略はライバル、TSMCとは大きく違っている旨。

半導体製造装置業界のBB比が、北米と日本で大きく分かれる動きとなっている。今後の推移、情勢に注目である。

【半導体製造装置ベンダーBB比】

◇Equipment book-to-bill ratios diverge in U.S., Japan (4月23日付け EE Times)
→SEAJ発。日本の半導体装置ベンダー、3月のBB比(3ヶ月平均ベース)が0.78、2月の0.98から低下の旨。6ヶ月連続上昇、3月1.13の北米とは分かれる形の旨。

今まで気づいていないものからエネルギーを発する、すなわち無から有を生じさせる趣きを感じるが、エネルギーharvesting(環境発電)について以下の動きである。

【エネルギーharvesting(環境発電)】

◇ISO/IEC wireless standard optimised for ultra-low power consumption and energy harvesting (4月22日付け EE Times)
→International Electrotechnical Commission(IEC)が、超低電力消費のワイヤレス応用向けの新しい標準、ISO/IEC 14543-3-10を批准、エネルギーharvesting(環境発電)ソリューション、したがってEnOcean(Siemens AGの中央研究所で生まれた技術を利用して同社のアントレプレナープログラムにより2001年に起業された会社)のself-poweredワイヤレス技術(従来自然界に存在していてこれまで利用されたいなかった微弱なエネルギーを無線信号の出力エネルギーに利用するもの)についても最適化された最初で唯一のワイヤレス標準である旨。

◇Wearable human motion energy harvester (4月22日付け EE Times)
→Riga Technical University(Latvia)が、"Human Motion Energy Harvester for Wearable Applications"を設計、発電機を伴うジャケット、人間の動きからエネルギーを発生するhuman motion energy harvesterが衣服の中に含まれている旨。

アップルの最高づくめの業績発表、説明は要せず、以下の通りである。

【アップルの四半期業績】

◇Apple beats estimates, but expects sales decline (4月24日付け EE Times)
→Apple社(Cupertino, Calif.)の3月31日締め四半期販売高$39.2B、前四半期比15%減、前年同期比59%増。四半期販売高としては最高を記録した前四半期に次いで2番目となる旨。

◇アップル純利益94%増、iPad2.5倍、iPhone88%増−1〜3月、売上高ともに最高 (4月25日付け 日経 電子版)
→米アップルが24日発表した2012年1〜3月決算、売上高が$39.186B(約3兆1860億円)、前年同期比59%増、純利益が$11.622B(約9450億円)、同94%増。売上高、純利益ともに1〜3月期としては過去最高を更新の旨。


≪グローバル雑学王−199≫

古代オリエント・ギリシア・ローマの誕生期から、ヨーロッパ中近世の最盛期、そして機能分化していく近現代と、居酒屋の世界各地域でのあり様とともに、関係深いテーマ別の推移を、

『居酒屋の世界史』 (下田 淳/著:講談社現代新書 2120)  
 …2011年 8月20日 発行

より見てきたが、今回で本書の読み修めとなる。人々が集まって心の拠り所を求める教会、寺院からお酒造りが発生し、そして居酒屋に分かれていく過程を世界各地けっこう相通じる形で理解するとともに、時代を超えた人間の本性というものを感じている。


第十話 犯罪・陰謀とと居酒屋

・居酒屋での犯罪 →賭博と喧嘩は頻繁に
・陰謀の拠点であったか? そういう場合も

○賭博の温床
・ヨーロッパの居酒屋賭博への規制はすでに16世紀から
 →特に啓蒙主義時代の18世紀に厳しく
・すべてを禁止するのではなく、一定範囲に限定することで賭博の広がりを防止へ
 →公娼制度と同じ論理
 →やがてカジノの創設へ

○喧嘩は日常茶飯事
・居酒屋のちょっとした喧嘩は、日常茶飯事
 →時折取締りの対象になったが、氷山の一角
・18、19世紀パリの居酒屋は激増。以下ブレナンの著作より:
 →喧嘩をとめるガードマン(用心棒)
 →パリ警察による定期的見回り

○窃盗と名誉心
・18世紀のヨーロッパ …些細なことで、すぐに裁判所に告発する社会
 →友人、知人同士でも告発
 →仲間同士でも不信感
・18世紀後半のパリの1/4以上の暴力犯罪が、居酒屋ないしその入口で発生(ブレナン)

○居酒屋は謀議の拠点か
・居酒屋では宗教的・政治的会話、権力批判
・19世紀、パリの居酒屋はストライキの拠点にも
 →ベルリンでは、カール・マルクスなどの社会主義者も

○居酒屋での当局批判はご法度
・18世紀、下層農民が激増、蜂起の拠点が居酒屋
 →秩序を回復するために軍隊の介入が必要に

○社会秩序の安定装置
・18世紀、階層別居酒屋が都市に出現
 →下層階級用居酒屋と並んで中流階級が集まった居酒屋も

○犯罪・陰謀の棲み分け
・現在、賭博はカジノなど公認施設へ
 →また、喧嘩・暴力や窃盗の場は居酒屋に特徴的なものではなくなった

≪おわりに≫

○農村貨幣経済と居酒屋
・ヨーロッパ圏は、大中小さまざまな権力が分散、絶対的権力が不在
・非ヨーロッパ文明圏は、農村に貨幣・商品経済の普及を阻止できる強力な中央権力が存在
 →中国やイスラムの皇帝、日本の江戸幕府
・「農村への貨幣経済の早くからの浸透」
 →ヨーロッパ近代文明飛躍の鍵

○下賤な居酒屋と無償接待
・どの文明圏でも、程度の差はあれ、居酒屋は下賤な場所、少なくとも健全ではない場所として認識
 →客人は無償で接待するのが当然とする精神の裏返し

○居酒屋の多機能性
・居酒屋は人びとのコミュニティセンター
 →情報収集、商談、職業斡旋から金貸しや裁判所の機能まで

○棲み分けの時代
・「多機能性」の衰退は、工業化と連動して進行
・「空間や時間の棲み分け」→ヨーロッパ文明のもう一つの特徴

○近代資本主義と居酒屋
・居酒屋の歴史から眺めるヨーロッパ文明の特徴
 →「農村への貨幣経済の浸透」と「棲み分け」

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