半導体に欠かせない最先端をリードするNo.1の自信と熱気
大震災から1年経って、復旧そして復興に日夜全力を尽くしている我が国について、半導体業界のグローバル売上げに対する比率が低落し続けている現況を指摘する記事に注目している。この比率が半分以上を超えて日本勢が世界をリードする状況となった1980年代にそのまま時計の針を戻すにはあまりにも時代が変わり過ぎているが、最先端をリードする国を挙げた取り組みによるNo.1の自信と熱気が、幅広い分野の経験・ノウハウを積み重ねてこそ成就する半導体の世界ではどうしても欠かせないという考え方に辿り着く。
≪付きまとう協調と競争≫
半導体世代それぞれの受け止め方があると思うが、ここ10年近くでの日本の半導体業界のグローバル売上げ比率についての次の記事が目に入り、大震災による影響はあるものの低落傾向に歯止めがかからない推移に率直に忸怩たる思いである。むしろ大震災の影響を最小限に抑えている努力、苦労のほどを感じているが、この低落傾向は放っておけないところにきているのはこのところの我が国半導体業界の状況から明らかである。
◇Japan's aging semiconductor industry revealed by 2011 earthquake (3月20日付け ELECTROIQ)
→IHS iSuppli Semiconductor Value Chain Service発。大震災および津波の被害を1年前に受けた日本の半導体業界、しかし現実の災難としてここ何年も続く世界の主要半導体製造地域の1つとしての地位の低落傾向がある旨。
・日本に本社を置く半導体サプライヤのグローバル売上げ比率
2003 | 2004 | 2005 | 2006 | 2007 | 2008 | 2009 | 2010 | 2011 |
27.0% | 25.4% | 23.4% | 22.3% | 23.4% | 23.5% | 21.4% | 20.4% | 18.7% |
・上記のグラフ表示
⇒http://www.electroiq.com/content/dam/eiq/online-articles/2012/03/isuppli-japan-aging.JPG
ほかの見出しタイトルとして、以下が見られる。
◇Japan facing chip industry problems following quake anniversary (3月21日付け ZDNet)
◇Japan faces challenge of aging chip industry, says IHS (3月21日付け DIGITIMES)
もととなった調査レポートについて、要点を取り出す形で表わして次の通りである。
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◇One Year After Quake, Japan Faces Challenge of Aging Chip Industry (3月20日付け IHS iSuppli)
主要なグローバル半導体製造地域について、日本は今や、先端300-mmウェーハfabs数が最も少なく、成熟した6-インチウェーハfabs数が最も多くなっている。日本の各社は、旧型facilities閉鎖の流れに対抗して、製造を外部委託するか、製造facilitiesを現在の最先端に再構築している。かつては世界で最も進んだ半導体生産を行っていたが、日本の半導体製造operationsは世界の他地域に対して古くなってきている。
地震および津波のグローバル半導体市場へのインパクトは、予測筋の悲惨な見方には遥かに及ばなかったことは今や明らかである。不幸にも日本の半導体メーカーには、この災禍は知られてはいたが公然と知らされてはいない事柄を露わにしている。すなわち日本はもはや半導体コンポーネントの製造では引っ張る立場にないということである。日本の半導体業界のとっくに実現していて然るべき再生復活が、現実の問題として表面化してきている。
半導体大手、ルネサス、富士通およびパナソニックの製造operations統合を求めるという日本の半導体業界の弱点に対応する提案が2月に出された。
この計画が日本のウェーハ製造の復活再生に現実につながることは起こりそうにないと思われる。
大手半導体製造メーカーがsub-28nm製造に移行、この最先端技術ノードを用いる量産製造に対応できるメーカーが現在ないという事実に日本は直面している。
成功は経験が引っ張っているということを歴史は示してきている。力強い技術プラットフォームがないと、日本がsub-28nm生産への移行を達成するチャンスはほとんどない。
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ここまで言うか、言われるか、の思いもあるが、返す言葉に事欠く現状を感じるところも強い。製造から設計にシフトしてやっていくのか、成熟した製造ラインをどううまく転化していくのか、米国にも共通するトーンを感じるところがあるが、グローバルな協調と競争の中での国を挙げた取り組みというものがどうしても必要になってくる。
現下のエルピーダメモリを巡る状況は予断を許さず、次の通り様々な見方となっている。
◇エルピーダ、入札で支援企業決定、5月メド-米マイクロンやインテルが候補に (3月20日付け 日経 電子版)
→会社更生法適用を申請したDRAM大手、エルピーダメモリが、5月をメドに入札で支援企業を選定する旨。経営破綻前に提携交渉をしていた米マイクロン・テクノロジーなどが応募する見通し、米インテルも候補に挙がっている旨。
◇Micron Technology Shares Up After Acquiring Elpida Memory-Sources say Micron may buy Elpida for $1.5B (3月21日付け JEDEC SmartBrief)
→DigiTimesおよびThe Financial News Network発。Micronが、Elpida Memoryを買収するオファーを出しており、Intel, 東芝およびTSMCなどもElpidaに関心を示しているという憶測がある旨。
◇Rumors Swirl Regarding Fate of Troubled Elpida (3月21日付け Semiconductor Manufacturing & Design)
→Micron Technology社が買収に入札する報道が続くなどElpida Memory社を巡る噂が強まっており、Apple社が入札すると見る向きもある旨。
◇Micron reportedly offers US$1.5 billion to take over Elpida (3月21日付け DIGITIMES)
→業界筋の見方。Micron Technologyが、Elpida Memoryの事業継承に$1.5Bを提示の模様、Micronに加えて東芝およびGlobalfoundriesも最も可能性のある入札先に入る旨。
microcontrollers(MCUs)の分野では、Renesas Electronicsが下記のように大震災の影響を受けるなか世界No.1で健闘しているが、我が国半導体業界の底上げを期待するところではある。
◇Despite challenges, Renesas still dominant in MCUs (3月21日付け EE Times)
→Databeans社(Reno, Nev.)発。2011年のmicrocontrollers(MCUs)サプライヤランキングで、東日本大震災の災禍にも拘らずRenesas Electronics社が、前年比約1%減、$2.62Bの販売高で圧倒的な首位を維持した旨。
・トップ10ランキングデータ
⇒http://www.eetimes.com/ContentEETimes/Images/120320_databeans_mcus.png
1980年代の始めのころは、半導体業界は日米のまさに鍔迫り合いの様相が強く、舞台裏では、毛唐、ジャップなど今では耳慣れない敵愾心むき出しの言葉が耳に入ってきたのを思い出す。昨今のスパコンではないが、No.1でなければと日々研鑽を積んだ、積めた熱気が漂っていた。時代が流れて、電子交換、メインフレームからパソコン、携帯電話、そして今やスマートフォン、タブレットはじめ街角、電車の中、あらゆる人が使うConsumer Electronicsと、半導体の応用が及ぶ範囲が生活・人生密着で拡大するに至っている。
"グローバルな協調と競争"が付きまとう、そしてそれが欠かせない半導体の世界というのは、延々繰り返し表わされて実態もその通り推移してきているが、そのなかでも国を挙げた取り組みがNo.1の熱気を醸成するうえで必須になってくるという思いが強まる一方である。政治の世界でも、何も決められなくなるというトップの声が聞こえてきたり、選挙で根本を変える維新の動きが出たりしているが、半導体の世界は国を挙げた最先端をリードするNo.1の自信と熱気に尽きることに異論はなく、取り組むスタンスのあり方ということと思う。
≪市場実態PickUp≫
かくも時間の猶予がない我が国の現状であるが、14-nmとまさに最先端の製造の世界の現状の課題が以下の通り議論されている。協調と競争の輪に入らないと、ますます取り残される様相を感じている。
【先端製造の世界】
◇Top Five Design and Manufacturing Challenges at 20nm (3月21日付け Semiconductor Manufacturing & Design)
→先端Siファウンドリーの世界で最もホットな話題が、14-nmプロセスノードでのplanarトランジスタからfinFET構造へのシフトを軸に展開している旨。第13回International Symposium on Quality Electronic Design
(ISQED)(火曜20日:Santa Clara, Calif.)での基調講演より、20-nmでのより大きな設計/製造の課題および流れ5点:
1. The economics factors favor a select few
2. Double patterning has (unfortunately) entered the spotlight
3. New routing layers
4. Severe layout-dependent effects
5. More DFM to the rescue
・≪グラフ≫ プロセスノードによる生産開始1-3年の売上げ寄与比率
⇒http://semimd.com/wp-content/uploads/2012/03/fabmodel.jpg
今や話題を席巻するNew iPad、いろいろ露に明らかになるのがなんと早いこと、とつくづく思う下記の内容である。画像表示の市場インパクトの大きさを改めて感じている。
【New iPad解析】
◇New iPad has higher BoM than iPad 2, says IHS (3月17日付け EE Times)
→IHS iSuppli発。販売価格は同じになっているが、Apple社のnew iPadモデルは発売時点ではiPad 2より製造コストが高い旨。teardown解析速報では、この第三世代iPadの32-Gバイト版は、4Gワイヤレス対応を装備、$364.35のbill-of-materials(BOM)コストの旨。
・≪表≫ BOMコスト解析結果一覧
⇒http://eetimes.com/ContentEETimes/Images/Dylan/130316_ihs_ipad3.jpg
◇Teardown slideshow: Inside the third-generation iPad (3月20日付け Electronics Design, Strategy, News)
→UBM TechInsightsが行ったApple社のiPad mediaタブレット第3世代のteardown解析。quad-coreグラフィックスを入れてfloorplanが大きくなっているAppleのA5プロセッサ修正版、A5Xが売りのポイントの旨。標準A5の約120mm2に対し、A5Xは約163mm2のチップ面積、ともに同じARMプロセッサコアを用いているが、A5Xには4つのPowerVR SGX543MP4グラフィックスコアが加えられており、2つの対になって対称に向き合うfloorplanになっている旨。
◇The A5X Chip is Huge Compared to the A5 and A4 Chips (3月21日付け iClarified)
→Chipworksによる解析。new iPadに入っているA5X半導体は、前の世代に比べて次の通り大きくなっている旨。
・Apple A5x Polysilicon Die Photo …165mm2 (12.90x12.79mm)
⇒http://www.iclarified.com/images/news/20817/74434/74434-500.jpg
・Apple A5 Polysilicon Die Photo …122.6mm2 (10.09x12.15mm)
⇒http://www.iclarified.com/images/news/20817/74435/74435.jpg
・Apple A4 Polysilicon Die Photo …53.3mm2 (7.3x7.3mm)
⇒http://www.iclarified.com/images/news/20817/74436/74436.jpg
◇新型iPad「使用中に熱く」、米誌調査「47度に」 (3月23日付け 朝日新聞デジタル)
→米国の有力な消費者団体専門誌「コンシューマー・リポート」が、米アップルの「iPad」の新型機種について、前の機種と比べて使用中に熱くなることがあるとの調査結果を示した旨。同誌が20日発表した内容によると、ゲームや大量のデータ取り込みなど高い負荷がかかる処理を長く続けると、本体背面の一部の温度が約47度まで上がった旨。ただ、「短時間であれば特別に不快ではない」という見解を示している旨。同誌は、米国の消費者に大きな影響力を与えることで知られている旨。
半導体在庫日数のデータに注目、11年ぶりの高い水準から今年に入って改善する推移となっている。
【半導体在庫】
◇Semiconductor inventories coast at record levels into 2012 (3月21日付け ELECTROIQ)
→IHS iSuppliのInventory Market Briefレポート。2011年第四四半期の半導体days of inventory(DOI)が、前四半期比3.4%上昇の84.1 DOI、2001年第一四半期以来11年ぶりの高水準、しかし2012年第一四半期は0.5%低下、需要が回復してきている期待の旨。
・グローバル半導体サプライヤが保有する平均半導体DOI
Q1'10 | Q2'10 | Q3'10 | Q4'10 | Q1'11 | Q2'11 | Q3'11 | Q4'11 | Q1'12E | |
平均DOI | 69.1 | 72.8 | 72.6 | 76.6 | 79.9 | 83.4 | 81.3 | 84.1 | 83.7 |
change | 3.8% | 5.4% | -0.3% | 5.6% | 4.2% | 4.4% | -2.5% | 3.4% | -0.5% |
FPGAでの三次元ICへの積極的な取り組み、そしてTSMCが製造の核を受けもつコラボに注目している。
【3D IC】
◇Altera, TSMC develop 3D IC test vehicle (3月23日付け DIGITIMES)
→AlteraとTSMCが、TSMCのchip-on-wafer-on-substrate(CoWoS) integrationプロセスを用いる世界初のheterogeneous 3D IC test vehicleの共同開発を発表、heterogeneous 3D ICsは、アナログ、ロジックおよびメモリなど1個のデバイスの中にいろいろな技術をstackして業界のbeyond Moore's Law移行を可能にするinnovationsの1つ、TSMCのintegrated CoWoSプロセスは、front-end製造プロセス並びにback-end組立&テストソリューションが入ったend-to-endソリューションを3D ICsを開発する半導体メーカーに供給する旨。
≪グローバル雑学王−194≫
お酒はダメ、飲めないという理解でお付き合いに気遣うイスラム圏の方々であるが、そのイスラム圏でのお酒、居酒屋の発祥、推移というものを、
『居酒屋の世界史』 (下田 淳/著:講談社現代新書 2120)
…2011年 8月20日 発行
より辿ってみる。もちろん禍の方が多く建前はダメであるが、コーランでも禁酒と厳しく謳ってはいないとのこと。実際はどうなのか、いろいろな場面で知見を交換する話題の1つになりそうではある。
第四話 イスラム圏の居酒屋
・イスラム圏、飲酒は禁止、しかし居酒屋は存在。
○「大変な罪悪ではあるが……」−−−『コーラン』のなかの酒
・コーランは、禁酒についてそれほど厳格に定義しているわけではない
→飲酒が得することも、という下りも
→もちろん罪の方が多くサタンの業の方を強調
→建前ではイスラム社会の飲酒は禁止
○蒸留酒アラック
・詩人、アブー・ヌワース(762〜813年)のたくさんの飲酒に関する詩
→居酒屋も発達していた
・アラブ人は酒を水で割る
→現在でも水を入れると白濁する蒸留酒「アラック」
→乾ぶどう、なつめやしなどの焼酎
○下層階級の酒ブーゼー
・アラビア語で酒を「ハムル」、醸造酒は「ナビーズ」
・19世紀のはじめに書かれたレインの『エジプト風俗誌』
→上流階級は、ワインやブランデーなどを飲む
→下層階級は「ブーゼー」または「ブーザー」
…大麦のパン粉を水に混ぜ、これを醗酵させた酒、ビールの一種
○カリフたちの酒
・イスラム国家の君主、カリフ(ムハンマドの後継者の意)でさえ飲んだというお酒
→もちろん厳格なカリフも
○異教徒による居酒屋
・アッバース朝の首都、バグダード
→キリスト教やユダヤ教徒の経営する居酒屋
・『千一夜物語』も酒の話で満ちている
・イスラム圏でも酒も居酒屋も存続
→各イスラム王朝は酒税や居酒屋税を徴収
○全オリエントをおおうカフェ
・コーヒー豆の原産地はエチオピア
→コーヒーの使用の起源は半島南端のイェメン
→スーフィ教団が広く飲用
・最初のカフェは、16世紀初頭、アラビアで設立
→16世紀中葉までには、カフェはオリエント中の都市に成立
→たばこ、水たばこの習慣は17世紀から
○ワインかコーヒーか
・1511年、メッカでのコーヒーの販売、飲用の全面禁止令
→結局は、ワインの飲酒を抑えるためにコーヒーを推薦
○イスラムの居酒屋・カフェ文化
・オスマントルコ …カフェでコーヒーとともにビール、ワインが売られた
→他のイスラム圏のカフェでも酒を売っていた可能性は十分に
・居酒屋自体は現在まで、都市部に連綿と、しかし細々と存続
・イスラムの居酒屋やカフェ
→雑談、エンタテインメント、売春が主な機能
…「多機能性」はない
○コミュニティセンターとしてのモスク
・イスラム圏の居酒屋やカフェ
→都市部あるいは主要街道沿いで発達
・イスラム圏で人びとのコミュニティセンターとなったのは寺院(モスク)
→最近まで機能しつづけた
→都市ではモスクに隣接してカフェが建てられた
○インドの居酒屋
・古代インドの生活規範を定めた「マヌ法典」(紀元前200年ごろ編纂開始)
→飲酒禁止の規定があるが、場合で飲酒できる規定もあり、曖昧
・スラー酒 …穀類や蜂蜜などを原料とする蒸留酒
ソーマ酒 …神に捧げる植物、ソーマの茎を搾りミルクと混ぜて作る
・現在少ないインドの居酒屋
→近代独立運動の過程で生じた現象と言えよう