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市場環境の刻々の急変、生き残りを賭けた連携と協調、新機軸の構築

エルピーダメモリが会社更生法の適用を申請という大々的な報道が目に入ってきて、1970年代から1980年代にかけてその前身のDRAM事業に携わった一員として、頭の中を駆け巡る上記タイトルの様々な切り口である。当時から現在に至るまで、メインフレーム、電子交換、信頼性の世界から、Consumer Electronics、量産・コスト対応の領域に怒涛の如く市場が移ってグローバルに急拡大、取り巻く急激な変化に否応なく順応せざるを得なかったという、特に変化の先兵、指標となるDRAMならではの強く感じる思いである。

≪グローバルな波及≫    

エルピーダメモリが自主再建を断念という以下の内容は、NHKテレビ晩のトップニュースとなっており、当然ながら世界が敏感に反応している。

◇エルピーダが更生法申請、負債総額4480億円−半導体市況悪化で苦境 (2月27日付け 日経 電子版)
→DRAM世界3位、エルピーダメモリが27日、会社更生法の適用を東京地裁に申請、受理された旨。負債総額は約4480億円(2011年3月末時点)、製造業では過去最大の旨。2009年に公的資金300億円を使って政府も再建を支援したが、市況低迷と円高で業績が悪化、韓国メーカーとの競争力格差が広がる中、経済産業省や金融機関も再建は難しいと判断し支援を断念した旨。

◇Elpida files for bankruptcy protection after bailout fails (2月27日付け EE Times)

振り返ると、ドイツSiemensの流れのQimondaは破綻して撤退、韓国では最近SK Hynixとして一新登場、などなどここ数年でもDRAMプレーヤーを巡る今回のような事態が繰り返されている。財政基盤の強化、一体となって進められる連携と協調、事業領域拡大に向けた新機軸の構築が是が非でも求められるが、エルピーダメモリと密接な台湾では以下の反応が見られている。

◇Taiwan seeks merger with restructured Elpida-Taiwan gov't wants ailing memory chip industry to seek merger with Micron, restructured Elpida (2月29日付け Associated Press)
→台湾政府が水曜29日、台湾メモリ半導体メーカーのElpida Memory社との統合を引き続き推進する旨。経済部ステートメントでは、米国のMicron Technology社がこの統合で引き続き重要な役割をもつと見ており、Elpidaが再構築すればこれに入る可能性としている旨。

◇Taiwan makers bracing for Elpida bad debts (2月29日付け DIGITIMES)
→Elpida Memoryの件、Powertech Technology(PTI), Walton Advanced Engineering, Rexchip ElectronicsおよびHermes Microvisionなど業界supply-chainパートナーへのインパクトについて

最高の最先端技術を追求して止まない信念でずっと突っ走ってきている半導体業界であるが、市場の規模拡大は新興経済圏が引っ張っており、市場マーケティングおよび生産拠点も合わせて傾斜していかないと伸びないという痛切な現実がある。大統領選挙を迎えている米国では、製造の回帰、仕事の確保が大きな争点の一つとなっており、次の問題意識が出されている。

◇Rebuilding America: Design moves front and center in manufacturing debate (2月29日付け EE Times)
→米国の製造の再生が、選挙の年のissueとして出てきており、今週のEnergy Department conferenceにて、新たなworkersには現代の製造に不可欠な設計スキルがcritical thinking, leadershipおよびコラボ能力のような"soft skills"とともに必要である、ということでエキスパート連が一致の旨。

欧州では、恒例のISS Europe 2012(2月26-28日:Munich, Germany:今回が25周年、テーマが"Innovation AND Competitive Manufacturing in Europe")にて、以下の議論が取り交わされている。我が国にも通じる非常に大きなジレンマと受け止めている。

◇ISS Europe: Bridging the valley of death (2月27日付け ELECTROIQ)
→初日のpresentersに共通する主題は、基礎研究と量産製造の間、いわゆる"死の谷"を欧州が如何に橋渡しするかということ。欧州が研究および新特許で世界をリードしていることは一般に同意されるが、これらのアイデアを実行にもっていくとなると世界の他に譲歩してしまっている。

◇Initiative on 450-mm moves gets Europe's full attention (2月28日付け EE Times)
→今回の場で、半導体、装置および材料メーカーが、450-mmウェーハ生産により、向こう15年のどこかで最先端半導体を生産する米国およびアジアとの競合の舞台に、欧州を勢いよく戻すことになると結論づけの旨。

連携と協調、新機軸の構築に向けたエルピーダメモリの事態の打開を心底願うところである。


≪市場実態PickUp≫

半導体業界活動の基本の一つ、統計調査について、IntelおよびAMDが担当組織であるWSTSを脱退する動きとなっている。半導体市場の拡大推移とともに歩んできて、市場の実態、行く末を議論する基本材料となっているだけに、以下の通り大きな波紋、やりとりを投げかけている。生産統計のSICASも、台湾メンバーの脱退が起点になってこのほど中止に立ち至っている。  

【半導体業界統計】

◇Intel, AMD pull out of WSTS (2月28日付け EE Times)
→Intel社が火曜28日、グローバル半導体販売高の月次報告を発行するnon-profit organization、World Semiconductor Trade Statistics(WSTS) organizationのメンバー脱退を確認、Wall Street Journalが火曜に最初に明らかにしたこの決定は、昨年後半のライバル、Advanced Micro Devices(AMD)社のWSTS撤退に続く形の旨。

◇Commentary:Why it's wrong for Intel and AMD to abandon WSTS (2月29日付け EE Times)
→IntelのWSTS撤退は、業界のすべての人に警報を引き起こすことになる旨。明らかにWSTSが発行する今後のすべてのデータの妥当性に疑問が投げかけられがちになるし、非常に大きな波及効果を及ぼす旨。

◇Opinion: Did Intel just break my glasses? (3月1日付け EE Times)

◇SIA pulls plug on fab capacity report (3月1日付け EE Times)
→Semiconductor Industry Association(SIA)が水曜29日、半導体fab capacity稼働率に綿密に注目する四半期レポートの発行を中止、Intel社とAdvanced Micro Devices(AMD)社が半導体販売高データについての別プログラム参加を止めることが明るみに出た1日後の旨。SIAが出すSemiconductor International Capacity Statistics(SICAS)レポートは、2011年にSICAS参加ベースの大きな変化があって、2012年第一四半期をもって停止する旨。

◇SIA committed to data programs, says chief (3月1日付け EE Times)
→SIAのPresident、Brian Toohey氏。SIAは、価値のある業界統計を供給するプログラムはそのまま行い、Intel社およびAdvanced Micro Devices(AMD)社とうまくいくやり方で、SIAとしてWorld Semiconductor Trade Statistics(WSTS)が蓄えるMPU販売高の正確なデータを引き続き報告できるようなソリューションを見い出せることを希望する旨。

モバイル機器の祭典、Mobile World Congress(MWC)が開催され、活況のスマホが引っ張るたくさんの話題から目につくもの、以下の通りである。

【Mobile World Congress(MWC) 2012≫(2月27日〜3月1日:Barcelona)】

◇Huawei claims quad-core chip outguns Tegra3 (2月26日付け EE Times)
→開幕前夜に驚きの発表、Huawei Devicesが、同社半導体部門の設計に成る新しいquad-coreアプリ・プロセッサを用いた世界最高速のhandsetsおよびタブレットを披露、該K3V2半導体は、Nvidiaのquad-core Tegra3はじめ競合を大きく上回る性能の旨。この1.2-1.5 GHz K3V2は、HuaweiのHiSilicon部門の2年プロジェクトによるもの、一連のbenchmarksにわたってTegra3を30-50%上回る性能、40-nm、12x12 mmパッケージの旨。

◇ソニーやHTC、次世代スマホ続々、性能パソコン並み (2月27日付け 日経 電子版)
→ソニーモバイルコミュニケーションズ(旧ソニー・エリクソン)、台湾HTCなどが26日、MWCに先立ち、スマホの新機種を発表、テレビとの連携やパソコン並みの性能をアピール、先行する米アップルや韓国サムスン電子を追撃する旨。

◇MIPS shows off $99 tablet at MWC (2月29日付け EE Times)
→MIPS Technologiesが、GoogleのAndroid 4.0(Ice Cream Sandwich)搭載の自前$99タブレットを擁して登場、Ingenic Semiconductor(中国)が、MIPSアーキテクチャーのライセンス供与を受けて、Ainovoが製造するこの7-インチタブレットを動かすモバイルアプリプロセッサを開発の旨。

Qualcommの自信を感じる以下の内容である。

◇Qualcomm not worried about mobile graphics competition (3月1日付け EE Times)
→Qualcommのインターネットサービス&イノベーションセンター、president、Rob Chandhok氏講演。Qualcommは、モバイルグラフィックスとなると競合への遅れは気にしておらず、"世界の誰よりも"数多くのGPUsを出荷しており、半導体はDX11サポートに現在不足があるかもしれないが、"モバイル向けの正しいアーキテクチャー"を有している旨。

Intelの参入を受けて、ARMの率直な気持ちの応酬が表われている。

◇ARM Takes Intel's Arrival Seriously-ARM CEO talks Intel's entry into the mobile-phone chip business (3月1日付け The Wall Street Journal/Tech Europe blog)
→ARMのCEO、Warren East氏。Intelが最近携帯電話向けに打ち上げたプロセッサは、ARM Holdingsによる現状の技術製品より1-2世代遅れているが、世界最大の半導体メーカーで、十分なリソース、優れた製造技術そして非常に素晴らしいMPUを擁するIntelであり、もちろん幾分気になると言わざるを得ない旨。

台湾の三大サイエンスパークについて、生み出す売上げの統計数値が以下の通り発表されている。

【台湾サイエンスパーク】

◇Taiwan science parks see revenues drop in 2011 (2月29日付け DIGITIMES)
→台湾National Science Council(NSC)リリースの統計。台湾政府が運営するHsinchu Science Park(HSP:新竹), Southern Taiwan Science Park(STSP:台南)およびCentral Taiwan Science Park(CTSP:台中)が生み出す売上げ総計、2011年は$62.9B、2010年から11.61%減少の旨。


≪グローバル雑学王−191≫

前回に続いて居酒屋の最盛期、ヨーロッパ中近世の後半である。ドイツからウィーンに及ぶ聖ローマ帝国(ドイツ王国)、はたまたロシアまで、

『居酒屋の世界史』 (下田 淳/著:講談社現代新書 2120)  
 …2011年 8月20日 発行

より、大衆と切り離せない居酒屋、そしてそこを彩るビール、ウォッカなど飲み物のそもそも、それから中近世の時間軸での展開ぶりを追ってみる。居酒屋を通して今とそう変わらない人間模様がだんだんと見えてくる感じがある。18世紀のドイツで長きにわたりお世話になる「つけ」の証拠があるとのこと。


第二話【後半】 ヨーロッパ中近世 − 居酒屋の最盛期

○ワインの大衆化は18世紀
・18世紀になってワインが大衆化、居酒屋の数も激増
 →フランスのルーアンの居酒屋 …1556年89軒⇒1742年478軒
・18世紀フランス革命直前のパリを描いた作家、メルシエ
 →居酒屋はいかがわしい下層民の行く場所

○サンティヤゴ巡礼者を襲う危険
・スペインでの有名なサンティヤゴ・デ・コンポステーラ巡礼
 …エルサレム、ローマと並ぶ三大巡礼地の一つ
 →12世紀頃から、巡礼街道沿いに宿屋兼居酒屋が発達
・街道の宿屋「ベンタ」、設備も貧弱で悪質な営業が横行

○最古のビール醸造所−ドイツ
・フライジングのヴァイエンシュテファン醸造所
 →世界最古、ホップを入れた最初の醸造所
 →フライジング司教が、1021年、郊外に創設したベネディクト会修道院

○「純粋令」
・1516年、バイエルン公ヴィルヘルム四世の出したビール令
 …ホップ、麦芽、水だけでビールを製造しなければならないという「純粋令」
・1784年、匿名で書かれたドイツビールの本
 →よいビール醸造には五つのものが必要:
  …麦芽、ホップ、水適量、風土と空気、こなせる人物
 →地域ごとに違うから多くの地ビール
・チェコのピルスナー醸造所が1842年に開発したラガー(現ピルスナー・ウアクヴェレ)
 →現在日本に流通しているビール醸造法

○修道院居酒屋
・ドイツでも教会や修道院がビールやワインを醸造
 →居酒屋が成立
・バンベルク近郊のシュリュセルアウ修道院の「修道院居酒屋」
 →巡礼者が、巡礼後あるいはその前に一杯
・ライン川沿いのエーベルバッハ修道院の敷地にも居酒屋

○ワインからビールへ−皇帝所在地ウィーン
・15世紀から19世紀までのウィーン
 →神聖ローマ帝国(ドイツ王国)の皇帝所在地
・15世紀以来、ウィーン市経営のシュピタール(施療院)がビール醸造権を独占
・ドイツ南部は、16世紀までぶどうを栽培できるほどの気候
 →その後寒冷期、徐々にビールの消費が増えていく

○村の居酒屋の「多機能性」
・18世紀、ドイツの村の居酒屋
 →多くの土地を所有、農業にも従事、家畜も多く所有、使用人雇用
 →ドイツ農民戦争(宗教改革に刺激された農民たちが武装蜂起)では、集合
  ・拠点基地に
・農民同士が貨幣を媒介に人間関係を構築
 →ヨーロッパ文明に特徴的
・居酒屋の借金についての裁判資料
 →居酒屋での「つけ」が一般的であった証拠

○盗賊団のアジトにも−街道の居酒屋
・都市から離れた街道沿いの居酒屋は、盗賊団のアジトにも
 →都市や村の居酒屋より危険

○「悪への誘惑と罪の場所」
・宗教改革以前の神学者・聖職者の文献
 →居酒屋は悪魔の発明品との描写
・16世紀以後の知識人も、居酒屋を悪魔の業と描く
・居酒屋への否定的な評価が、上流階級や知識人の頭の中に深く

○スラヴ人と東方植民
・ドイツの東のスラヴ人地域
 →ドイツ東方植民の影響を受けた地域では、都市はもちろん農村にも居酒屋が成立

○大衆の飲み物ウォッカ
・ロシアの代表的酒、ウォッカ
 →アラビアから蒸留技術が伝わって誕生した酒
・16世紀、ウォッカを飲ませる居酒屋、「カバキ」が都市に成立
 →国営であり、国庫収入源
・大衆の飲み物としてウォッカが定着するのは19世紀になってから
 →農村に居酒屋が増加

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