米国金融危機の波紋/最近の中国事情/グローバル雑学王−12
先週からの米国発の金融危機に対して、米国の国を挙げた対策が連日続けられる中、エレクトロニクス、そしてデバイス業界にはどのような影響、波紋、推移があるか、ここしばらくは注意してもし過ぎることのないテーマと思う。そして、オリンピックが終わった今、これもいくらアップデートしても度を越えることはあるまい、と一人勝手に思っている中国の状況である。
≪米国金融危機の波紋≫
現地米国発の記事から辿ってみると、経済全体そしてエレクトロニクス業界については以下の見方の流れとなっている。批判的な分析が見られる中、現実的な対策で埋めていかなければならない状況の推移の一端が把握できる感じがある。
◇Analysis: Capitalism's raw edge on display (EET)(9月23日付け EE Times)
→米国政府が打開を図ろうとしている金融問題についての分析: 資本主義は、政府が引っ張るプロセスではない。進化するのに何百年もかかり、単なる人間の出来心ではなく、それを形作る力により、ハリケーンのように方向づけられ、動かされるシステムである旨。
◇Opinion: $700B bailout plan repeats subprime mistakes(9月25日付け EE Times)
→米国のHenry Paulson財務長官が記録的な$700B救済措置を提案、1週間も経たずに、議会がGeorge W. Bush大統領からの要請を承認しようとしていることについて。
◇Wall Streetの苦悩が展開、アナリスト連はクールのまま。(9月26日付け EE Times)
→Wall Streetの危機はエレクトロニクス業界には強いマイナス・インパクトはないだろう、とアナリスト連は依然期待している。もう1つの銀行がつぶれた一日に成り行きを見守るアプローチをとる向きがあるし、救済パッケージ法案が依然と苦心して考え出されつつある。
◇暴落は起こりそうにない、とStanford大の経済学者−エレクトロニクスでは比較的穏やかな鈍化を予測
(9月26日付け EE Times)
→先導的な経済学者によると、全般的な経済鈍化が現在のWall Streetの危機から最も起こりそうな結果である。2001年のノーベル経済学賞受賞者、A. Michael Spence氏は、このようなシナリオの中でエレクトロニクス業界は大方よりは上手くやっていくはず、と言う。しかしながら、現在の危機がもっと広範な暴落につながる危険性は小さいながら依然とある、と同氏は警告している。
「エレクトロニクス業界は鈍化にあうが、金融分野そして経済全体よりはたぶん程度は少ない。」
◇米政府と議会、金融安定化法案の協議を続行。(9月28日付け NIKKEI NET)
→米政府・議会が27日、金融安定化法案を巡る協議を続行、公的資金を活用した不良資産買い取りに反対する下院共和党の動向が焦点の旨。アジアの株式市場が29日朝に取引を開始する前までに決着させたい考えだが、ずれ込む可能性も残っている旨。ブッシュ米大統領は27日午前の定例ラジオ演説で、超党派での合意は近いとの見通しを示した旨。
デバイス業界ではすぐに直接跳ね返る反応は見られないものの、先々に向けた厳しい景況につながる内容として、以下に注目させられている。
◇Foundry wafer starts in 'free fall,' says analyst(9月23日付け EE Times)
→HSBC Global Technology Research(香港)のアナリスト、Steven Pelayo氏。Siファウンドリーはウェーハstartsが大きく減っていき、第四四半期にはsub-75%の稼働率になりそうな様相の旨。大手ファウンドリーの第四四半期売上げ、次の予測の旨。
TSMC 前四半期比 25%以上減
UMC 同 25%以上減
SMIC 同 18%以上減
Chartered 同 18%以上減
◇Intel's Barrett berates U.S government policies(9月23日付け EE Times)
→Intelのchairman、Craig Barrett氏のBusiness Week誌とのインタビュー。同氏は、Washington(政府)がアメリカの長期的問題を打開できないことに対する怒りと不満をぶちまけ、特にR&Dプロジェクトへの$1.2Bをcorporationsおよびacademic institutionsに提示する法案を政府が通せなかったことに懸念の旨。
≪最近の中国事情≫
オリンピックの一大イベントが無事閉幕のほとぼりが十分冷めやらぬうちに、食の安全の問題という嵐が猛威を振るい始めていると感じる中国である。その実態については、いくら調べてもなかなか辿り着かないというジレンマとそれゆえの面白さがあり、複雑な思いが延々と続いている風情がある。
最近目にした阿南 前駐中国大使の今春の講演記事、「最近の中国事情」(学士会会報 2008−V No.872)は、当事者として当たられた目で率直に語られていると思う。やはりいろいろな角度から常にアップデートするに如くなし、と受け留めている。小生なりのメモで次の内容である。
[はじめに]
・中国の内情は、国外からは正確には解らない。中国が昔から「透明度の低い国」と言われる所以。
・対中国関係は日本のみならず世界全体にとっても非常に重要、中国の実体を的確に理解しておくこと。
[群盲恐竜を撫でる]
・いろいろなところからいろいろな面を見て、知見を寄せ合わせて、(急速な変化の途上にあるゆえ)「常に」一つの実体に近いイメージを作る努力が必要。
・中国が解りにくいと言われる3つの理由:
1)一概に決められない多様性 …日本とは対照的
2)党(共産党)・政府(共産党)が20年にわたって遂行している社会主義市場経済 …的確な把握が非常に困難
3)大変に低い透明性
・昔から実情を隠す傾向。総理でさえ農村の実体を見られないような仕組み。
・政府発表の統計数字は全く当てにならないと、敢えて断言。
例:失業率 4% →最近の中国では45才定年制の企業も。
・中国という国はこれまで、外の世界からは相当過大評価されているのではないか。
[中国の光と影]
・1978年当時、最高指導者であった小平が打ち出した「改革開放」政策。
・中国で社会主義市場経済という言葉が正式に憲法に謳われたのは、1993年のこと。
・今の中国の光と影:
光の部分 →経済の急激な発展 …1980年代と比較、今は本当に溢れる活気
影の部分 →特に農村部の疲弊 & 都市部の物価の急騰
・土地の代償として約束された金額が半分から1/3しか支払われない事態
→中国各地で起こっている農民による騒擾の原因
[社会主義市場経済の問題点]
・社会主義市場経済の問題点 …社会主義のもとで、計画経済でない市場経済を進めていることに無理。
1.今は法治国家ではない:人の裁量で物事が決まる
2.国有企業の優遇:健全な民間企業が育たない
3.市場経済を推進するための法制度が極めて未整備のまま現在まで推移
4.人々の意識が市場経済に馴染まない
⇒ 社会主義という競争のない社会に競争原理を持ち込んだことが問題
[おわりに]
・もう少し、地道な国づくりを進めていくことが、肝要か。
・この重要な隣国と今後、永きにわたって友好的に対応することが日本の国益に。
ここ30年くらいで一気に高度成長、近代化の波に見事に乗ったもの凄いと言える経緯を改めて認識するとともに、そのエネルギーがもたらす跳ね返り、煽りも尋常ではなかろう、との実感である。着実な時間軸への修復という視点を加えて、引き続き注目するとともに、相互理解を深めたお付き合いという末永いテーマに向けて常にアップデートという思いである。
≪グローバル雑学王−12≫
前回まで5回続けて『常識の世界地図』を広げてきたが、本当に世界は広く多彩で、行って体感しみ込ませないと実のところは分からないだろう、と感じるところ、回を重ねてしきりである。多彩といえば、今度は"色"ということで、
『色彩の世界地図』(21世紀研究会 編著:文春新書 311)
という師匠を新たに加えて、これまた奥深ーい「色の世界」を世界各地、識見を深めたく思う。
・色彩、色のイメージ →各民族が幾世紀にもわたって育んできた文化そのもの
国旗に緑が多いイスラーム教国 …天国にあるコーランの原盤が緑色
・街に色が溢れる日本。しかし世界には、今もしっかりとした仕切りのあるパレットをもっている国も。
○東西南北にも色がある
・古代中国(紀元前1世紀頃、前漢の時代)の陰陽五行説での方位
[4つの伝統上の生物]
東 ⇔青と龍 →青龍
西 ⇔白と虎 →白虎
南 ⇔朱(赤)と鳥 →朱雀
北 ⇔玄(黒)とヘビが巻きついた亀 →玄武
→相撲の土俵: 青房、白房、赤房、黒房
・インド最古の文献『リグ・ヴェーダ』
4種類のヴァルナ(種姓)[=「色」の意味] →カースト制度の初期の形
バラモン(司祭者階級) →白
クシャトリヤ(王侯・武士) →赤
ヴァイシャ(農民、牧畜民、商人など) →黄
シュードラ(先住民からなる奴隷) →黒
→1年に1度の無礼講の祭り、ホーリー祭(新年の到来を祝い、豊作を祈る)
…色粉、色水を掛け合い、何色とも表現できない色に皆が染まることで、身分の色(ヴァルナ)もなくなる。
→サリー …身分を覆い隠す
・マヤ文明 …以下の5色が生活の隅々に及ぶ
世界の中心 →緑
太陽が昇る東 →赤
太陽が沈む西 →黒
北、清純なイメージ →白
南、困難との闘い →黄
○国旗のなかの色彩の世界
・国旗の色の解釈 …公式の見解と、国民レベルでの理解、国旗制定後の歴史、政情の変化などで、様々な説。
・国旗に用いられている色の大体の分類
赤が使われた国旗 →8割近く
白 →約7割
青 →5割
黄 →5割
緑 →5割
黒 →4割
オレンジ →1割程度
オリンピック旗 …赤、黒、青、黄、緑⇒5大陸を表現
輪のつながり方 →WORLDのWの形
・色があらわすもの
赤 ⇒太陽、建国のために犠牲となった人々の血
黄 ⇒太陽、地下の鉱物資源
緑 ⇒植物の緑、豊かな緑の大地、食糧になる穀物、森林資源
青 ⇒海や川、空
白 ⇒雪、平和、正義、純潔、清浄
黒 ⇒黒人としての誇り、植民地時代の暗黒の歴史を忘れないという決意
オレンジ ⇒ヒンドゥーの教えで聖なる色、情熱と草原地帯、地下資源
※国連旗 →青と白の組み合わせ
…世界的にみても、青や白は平和、自由、調和、純潔といったイメージが強い。
・英語で国旗は、「colors」。…ほとんどの国旗は上記の7色でおさまってしまう。
・人間がもっとも好む色は、青という調査結果。対して、好ましくない色の代表は、黒、灰色。