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大規模・複雑化からくる混乱、求められる広範な切り口

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ビジネス的にも技術的にも半導体の世界の規模が膨らんできて、ごちゃ混ぜ、混乱状態になってくるのは、何回か我が身に覚えのあるところである。
20-nm台、$300 Billion規模ともなると、枝分かれ、パラメータが複雑化し、データそして先行きの読みがますます難しくなってきている。技術に留まらず世界経済、地域経済はじめ広範な切り口の理解が、ますます必要になる状況を感じている。"グローバルな協調と競争"による相互理解の展開が、一つ一つのデータ把握に欠かせなくなっている。

≪9月のグローバル半導体販売高≫   

米SIAから恒例の月次グローバル半導体販売高が発表され、今回は9月分であり、以下の通りである。

○9月のグローバル半導体販売高、2.7%増−本年の販売高、2010年比2.2%増の足取り …10月31日付けSIAプレスリリース

半導体製造&設計の米国のleadershipを代表するSemiconductor Industry Association(SIA)が本日、2011年9月の世界半導体販売高が$25.8 billionで、前月の$25.1 billionから2.7%増加していると発表した。四半期ベースでは7-9月は4-6月比2.1%増、年初からの累計では2.2%増となっている。月次販売高の数値はすべて3ヶ月移動平均で表わされている。

「9月のグローバル販売高は、楽観的な第三四半期に近づけている。」とSIA President、Brian Toohey氏は言う。「残る本年、グローバルな経済不安からvisibilityが限られたものになっているが、米国および欧州での最近のプラスの指標や展開で元気づくところがある。」

「ひどい洪水による人道主義的危機に苦しむタイの人々に対して同情を申し上げたい。」とToohey氏は続ける。

日本における四半期ベース13.7%増は、復旧努力による進展が引っ張っている。加えて、車載応用およびスマートフォン、タブレットおよびeReadersなどhandheld機器でのモバイル処理に向けた力強い需要が、四半期ベースの伸びに効いている。World Semiconductor Trade Statistics(WSTS)予測の更新は、11月末にリリースされる予定である。

※9月の世界半導体販売高 地域別内訳および前年比伸び率推移の図、以下参照。
http://www.sia-online.org/clientuploads/GSR%20Table_Chart_Sep%202011.pdf
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ところが、7-9月四半期を4-6月四半期と比べるデータに誤りがあったとして、翌日見直しが発表されて、修正部分のみ示すと次の通りである。

○9月のグローバル半導体販売高、2.7%増−本年の販売高、2010年比2.2%増の足取り。世界および日本地域の前四半期比の伸びを見直し。 …11月1日付けSIAプレスリリース

半導体製造&設計の米国のleadershipを代表するSemiconductor Industry Association(SIA)が本日、9月のグローバル半導体販売高の発表について、前四半期比の伸びを昨日発表の2.1%増は誤りとして、3.5%増に修正すると発表した。加えて、日本地域の前四半期比の伸びも昨日の13.7%増は誤り、14.9%増に修正している。

・・・・・・・

日本における四半期ベース14.9%増は、復旧努力による進展が引っ張っている。加えて、車載応用およびスマートフォン、タブレットおよびeReadersなどhandheld機器でのモバイル処理に向けた力強い需要が、四半期ベースの伸びに効いている。World Semiconductor Trade Statistics(WSTS)予測の更新は、11月末にリリースされる予定である。

・・・・・・・
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細かく見ると、下記の*部分の訂正である。

【3ヶ月移動平均ベース】
市場地域
Sep 2010
Aug 2011
Sep 2011
前年同月比
前月比
========
Americas
4.79
4.58
4.61
-3.7
0.7
Europe
3.23
3.07
3.13
-3.1
2.1
Japan
4.19
3.65
3.80
-9.3
4.2
Asia Pacific
14.00
13.78
14.22
1.6
3.2
$26.21 B
$25.08 B
$25.76 B
-1.7 %
2.7 %

                                 --------------------------------------
市場地域
4- 6月平均
7- 9月平均
change
Americas
*4.70
4.61
*-1.9
Europe
*3.21
3.13
*-2.4
Japan
*3.30
3.80
*14.9
Asia Pacific
*13.67
14.22
*4.1
*$24.88B
$25.76B
*3.5 %

早速に業界アナリスト筋から反省を求めるコメントが寄せられている。

◇Email to the editor: Chip industry shambles (11月4日付け EE Times)
→9月のグローバル半導体販売高発表の見直しについて、visibilityを問題視する見解。

米SIAからのデータについては、世界半導体生産capacity統計(SICAS)の発表も今年に入ってからデータ提示が遅れており、東日本大震災の影響だけではなく、以下の状況があることはすでに示しているところである。"グローバルな協調と競争"のプラスの意識展開があってこその、ここまで大規模・複雑化のもと拡大してきている半導体の世界ということと思う。
 
◇Foundries opt out of chip manufacturing stats (10月21日付け EE Times)
→米SIA(Washington)が、第二四半期のウェーハ製造capacity統計をリリース、世界の半導体製造capacityが前四半期比14%減となっているが、以前のSICAS統計レポートと比べて参加ベースが"大きく"変わってきていると強調の旨。最も大きいのは、台湾のTSMC、UMCおよびNanya Technology社がSICASプログラムから脱退、National SemiconductorもTexas Instrumentsによる買収から消えている旨。SICAS統計が1990年代に製造統計を出し始めた頃は世界の半導体fab製造capacityの約88%を表わしていたが、今時点では約57%となっている旨。

技術面についても単純な延長線上のロードマップといかなくなって相当の時間経過があるが、パラメータ、複雑さが増したサーバ用DRAMのロードマップが以下の通り現状の一端を示している。

◇DRAM Server Roadmap Points to DDR4 and 3D (11月3日付け SemiMD.com)
→かってのDRAMサーバ・ロードマップはDDRインタフェース標準をまっしぐら、予測可能であったが、今やデータセンター・サーバ用の低電力、バンド幅急騰といった大きな問題への対応で、DDRおよび3D半導体方式の両方でごちゃ混ぜの様相の旨。
・JEDEC DRAMメモリロードマップ:2011〜2020年
http://semimd.com/wp-content/uploads/2011/11/jedec1.jpg
・SamsungのDRAM Server Roadmap
http://semimd.com/wp-content/uploads/2011/11/Samsungroad.jpg


≪市場実態PickUp≫

欧州の累積債務危機が世界経済を揺るがしているなか、上記に示すように本年9月までの世界半導体販売高は、史上最高の昨年を上回るデータ値となっている。本年の半導体業界ベンダーランキング・トップ20が、早々と次の通り予測発表されている。新興国、スマートフォン&タブレットなどがキーワードになって、インテル、Qualcommなどの伸びっぷりの一方、DRAMメーカーの苦境が浮き彫りになっている。微細化、MPU、ファウンドリーなど、トップメーカーが2位以下に差を広げる躍進を感じさせる様相も強まっている。

【2011年半導体トップ20】

◇Top 20 chip firms set to outgrow market (11月4日付け EE Times)
→IC Insightsによる2011年半導体業界トップ20ベンダー予測、下記参照。
業界全体としては2011年は僅かな伸びが予測されているが、いくつかの半導体メーカーは大きく伸びている旨。代表的には、スマートフォンの73%の伸びの追い風を受けたhandset半導体ベンダー、Qualcomm社、2011年は約33%の販売高の伸び、2010年第10位から2011年は第8位に浮上の見込みの旨。
・2011年半導体トップ20ベンダー予測
http://eetimes.com/ContentEETimes/Images/111104_top20.jpg

ファウンドリーの世界でも28-nmが大きな壁になっているようであり、以下の現状分析が見られている。

【28-nmの壁】

◇Foundries have 28-nm yield issues, say execs (11月2日付け Electronics Design, Strategy, News)
→Gartnerなど発。ファウンドリー半導体製造は向こう数年、半導体全体市場よりも引き続き早く伸びるであろうが、現時点最先端の28-nm製造ノードでの難題に直面しており、特に32-nm/28-nm HKMG (high-K metal gate)
CMOS導入に苦闘している旨。
・≪グラフ≫ 技術ノード別ファウンドリー出荷予測[出典:Gartner]
 …32/28-nmが45/40-nmと同じ立ち上がりに至るのに時間を要している
http://www.eetimes.com/ContentEETimes/Images/News/pcFoundry28nmIssue.jpg

中国のスーパーコン用プロセッサ、先端半導体製造装置の自前の開発、ないしは事業展開である。グローバルな開発の流れが、市場の色合いを強める一途の中国にますます入り込んできている様相を受け止めている。

【中国での先端アプローチ】

◇China steps up semiconductor game (10月31日付け ZDNet (Asia))
→中国が最新のスーパーコンに同国製半導体を使用、Intel, NvidiaおよびAMDなど米国プレーヤーへの依存を減らし、競合になる可能性の旨。New York Timesによると、Sunway BlueLight MPPと呼ぶスーパーコンがNational Supercomputer Center(Jinan[済南], 山東省)に9月に取り付けられ、ShenWei SW1600半導体が8,700個使われている旨。

◇ACM Research reportedly lands equipment order from Samsung (10月31日付け DIGITIMES)
→中国のACM Research(上海)が、Samsung Electronicsからの12-インチ, 枚葉式megasonic洗浄toolsを供給する受注を獲得、該toolsはACMのspace-alternated phase shift(SAPS)技術に基づき、最小限の材料損失で高いparticle removal efficiency(PRE:粒子除去効率)を可能にする旨。

上記の半導体トップ20・ランキング、そしてsolarパネル業界の厳しい状況を反映する以下、各社の業績発表である。怒涛の市場の流れにどう追随するか、今後のそれぞれの読みを感じている。

【各社業績発表】

◇Qualcomm tops estimates, sees more growth (11月2日付け EE Times)
→Qualcomm社の9月25日締め第四四半期販売高$4.12B、前四半期比14%増、前年同期比39%増。スマートフォンの人気および3G技術の継続採用が追い風、予想を上回る四半期業績、販売高は最高を記録の旨。

◇SunPower to restructure operations (11月3日付け EE Times)
→solarパネルプロバイダー、SunPower社(San Jose, Calif.)の第三四半期販売高$705.4M、前四半期比19%増、前年同期比28%増。
第四四半期に全社事業再構築プログラムを実行する計画、2012年のoperating経費を10%削減する目標の旨。

◇米AMDが人員10%削減、2012年に2億ドル節減 (11月3日付け 日経 電子版)
→AMDの7〜9月期売上高$1.69B、前年同期比4%増。同業最大手のインテルは、同時期売上高が同28%増、過去最高の決算を計上している旨。
2012年3月末をメドに全従業員の約10%を削減することを柱としたリストラ策を発表、1000人超と見られる旨。

◇AMD to Cut 1,400 Jobs as New Chief Revamps (11月4日付け The Wall Street Journal)


≪グローバル雑学王−174≫

目標出願件数達成に一途に邁進した頃が今では懐かしくなる中、発明や特許に纏わるドラマ、実態を、

『世界を変えた発明と特許』 (石井 正 著:ちくま新書)  
 …2011年 4月10日 第一刷 発行

より辿り、たぶんに共通、共感する思いが募ってきているが、本書は今回で読み修めである。グローバル経済の潮流に翻弄されるなか、これからの日本の産業界が生き抜いてさらに発展するには新技術による革新が欠かせないし、グローバルに受け入れられる評価を得ることがもっと必要と、このところの思いである。


第8章 レントゲンはなぜ特許を取らなかったか−−−特許にならなかった大発明

□レントゲンによるX線の発見
・第1回目のノーベル物理学賞
 →X線の発見に対し、ヴィルヘルム・レントゲン物理学教授(ヴュルツブルク大学)
  …(Wilhelm Conrad Rontgen:1845−1923年)
・陰極線管と蛍光板の間に入れた手、その指の詳細な骨が美しく蛍光板上に
 …1895年11月8日のこと
・1901年にノーベル物理学賞の受賞 →異例の早さでの決定

□なぜ特許を取得しなかったのか
・X線という自然法則上の存在を見出し、それを利用した技術的な発明が特許に
・レントゲンは特許出願をせず …科学の世界において生きてきた人
 →科学の世界では研究成果はすべて論文にして公開することが求められる
・技術の世界はまったく異なる
 →競争相手に対しては、新規な工夫や技術上の方法などは秘匿

□インスリンの発明
・インスリン(insulin) …ホルモンの一種、炭水化物の代謝調整を担う
・インスリンについて最大の貢献者 
 →カナダの整形外科医、フレデリック・バンティング(Frederick Banting)
 →母校トロント大学の生理学教室教授、ジョン・マクラウド(John James Richard Macleod)に研究の構想を話す
 →膵臓からの分泌物を糖尿病犬に注射、血糖値を下げることに成功
・1923年のノーベル賞は、インスリン研究に貢献で、バンティングとマクラウド二人に

□インスリン特許は誰のものか
・インスリンの特許を取得するかどうか、厄介な課題に
 →医学の世界においてその研究成果から経済的利益を得るなどご法度
 →その特許をを望む多くの大学や病院、製薬会社に実施許諾するやり方がよいのでは、と考えるように変化
・1922年4月、特許を取得したい旨、提案へ

□米国特許における発明者の重み
・米国特許制度においては発明者の特定は重要
・1923年1月23日、インスリンおよびインスリン製法に関して米国特許が認められる
 →バンティングらはトロント大学に各人1ドルの報酬で特許権を譲渡
・トロント大学が受け取ったインスリン特許の使用料
 →1923年から1967年までの間で、総額800万ドルに

□原子炉の発明は特許になるか
・マリー・キュリーの娘、イレーヌ・ジョリオ=キュリー(Irene Joliot-Curie:1897 - 1956年)
 →1935年、夫のフレデリック・ジョリオ=キュリー(Jean Frederic Joliot-Curie:1900 - 1958年)とともに人工放射性元素の研究でノーベル化学賞を受賞
・キュリーの発明した重水を減速材として使用
 →ウラニウムの濃縮を必要とせずに、天然ウラニウムをそのまま燃料に
・世界の主要国が特許しているのに、日本がひとり、発明が未完成と判断

□原子炉の発明として明細書に記載すべき内容とは
・東京高裁は1963年9月、特許庁の判断を支持、フランス政府の請求を棄却
 →具体的技術内容、そして原子炉を安全に運転するための制御方法などが説明されるべき
・フランス政府は最高裁に上告、1969年、高裁と同じ判断


エピローグ: 強い特許を取るための戦略とは?
 …以下、発明を強い特許権にするいくつかのポイント

○完全な明細書が強い特許権の基本
・明細書を読むことにより、その発明を実施できなければならない

○特許権と著作権の違い
・特許 →創作された技術思想を権利にしたもの
     →文書でその内容を説明されるべき
 著作権 →創作的表現を権利にしたもの

○完全な明細書作成には専門家の支援が大事
・明細書を的確に作成、権利化していく弁理士はきわめて重要なパートナー

○研究ノートは開発者・研究者の命
・研究ノート …ルーズリーフ式は避けること
・毎日、研究ノートには研究を熟知している者による確認とサインを得ること
 →一段と高まる証拠能力

○先行技術・関連技術を徹底的に調査しておく
・発明について、先行する技術や関連する技術とどのような関係になっているか、詳細に調査しておく必要
・現在では、簡単にコンピュータ画面で分析・表示が可能

○特許出願するか、技術秘密のままにするか
・特許出願はしないで、そのまま社内の技術秘密=ノウハウとして扱っていく方法も
 →現在では不正競争防止法によってしっかりと保護
 →秘密管理責任

○論文発表か、特許出願か
・研究成果を得た場合、まず特許出願をして、その後に論文などで公表するという手順で進めること

○職務発明への対応も重要
・会社は職務発明について相当の対価を従業者である発明者に支払いが求められる
 →対価を定める規程

≪あとがき≫
これからの日本産業が生き抜いていく道
⇒イノベーションを誘発していく新技術を創り出していくこと

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