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グローバルなコラボで培われる最先端技術の粋が続々

最先端の新技術、新製品の発表が続く中、ARMおよびXilinxからのそれに注目させられている。ARMからは、20-nm、64-bit、"little dog, big dog"といった高性能化、省電力化へのアプローチが見られる一方、Xilinxからは2.5D IC stacked実装、すなわち"インターポーザ"を駆使した世界最高容量のFPGAが、ともに実機デモによるアピールである。TSMCによる製造、CadenceによるCADなど、グローバルなコラボがあってこそ実現される半導体最先端技術という流れをここでも強く感じている。

≪組み合わせ、重ね合わせの妙≫   

先端技術の具現化の流れが見えてくるARM TechCon conference(10月25-27日:Santa Clara Convention Center)より、まずはそれぞれに見識、問題意識を感じる基調講演などからのエッセンスである。

◇TSMC's R&D chief sees 10 years of scaling (10月25日付け EE Times)
→TSMCのR&D、senior vice president、Shang-Yi Chiang氏の基調講演。向こう10年はFinFETsによる半導体scalingの道筋が7-nmノードまで見えている旨。それより先scalingを続ける上で最ものしかかる課題は、技術ではなく経済面からくる旨。

◇Cadence CEO laments loss of VC in semis (10月26日付け EE Times)
→Cadence Design Systems社のpresident and CEO、Lip-Bu Tan氏が、ARMのexecutive VP、Simon Seagers氏との炉辺談話にて。ハイテク領域での革新を続けるために必要なものは、コラボおよびさらなる半導体VC投資である旨。

◇ARM CTO predicts chips the size of blood cells (10月28日付け CIO Asia/IDG News Service)
→ARMのCTO、Mike Muller氏。10年以内にスマートフォンのメモリは32倍、バンド幅は20倍、MPUコアは赤血球以下の大きさとなる可能性の旨。ARMは、すでにほんの1mm3の大きさで緑内障患者の眼圧をモニターするimplantableデバイス試作開発を援助、該デバイスはセンサと電池に挟まれたMPUという構造の旨。

今回は64-bitアーキテクチャーがお目見えし、IntelやAMDに対抗する旗揚げが浮上してきている。

◇ARM unveils 64-bit architecture (10月27日付け EE Times)
→ARM HoldingsのChief Technology Officer(CTO)、Mike Muller氏。同社の次世代ARMv8アーキテクチャーには同社初の64-bit instruction setがあり、ARM-ベースプロセッサをconsumerおよび企業市場の新しい分野に入れていく旨。

◇AMCC shows off 64-bit server IC, challenging AMD and Intel (10月27日付け PC Magazine)
→Applied Micro Circuitsが、ARMのサーバ用64-bit V8アーキテクチャー・ベースのmulticore半導体、X-Geneプロセッサをデモの旨。IntelのXeonラインおよびAMDのOpteronラインとの競合となり、該プロセッサは2012年後半サンプル配布開始予定の旨。

次の通り事前の宣伝も行われていたTSMCの20-nmプロセスによるA15プロセッサである。

◇ARM, TSMC tape out 20-nm processor (10月18日付け EE Times)
→プロセッサIP licensor、ARMとファウンドリー、TSMCが、20-nm製造プロセス技術での実施に向けたA15プロセッサテスト用半導体の設計完了を発表の旨。

◇It takes three baby: Cadence, ARM and TSMC (10月18日付け EE Times)
→TSMC Open Innovation Platform conference(10月18日:San Jose McEnery Convention Center)にて。TSMCの20-nmプロセスに向けたテスト用半導体を、Cadence RTL-to-signoffフローによりARM, CadenceおよびTSMCの3社からのエンジニアが共同で開発している旨。

これと同社史上最高のエネルギー効率というCPUコア「Cortex-A7」を組み合わせて省電力化を実現するというのが"little dog, big dog"戦略、という理解である。負荷が低い場合には「Cortex-A7」を利用、負荷が高い場合は「Cortex-A15」を利用するという考え方のようである。

◇ARM reveals 'little dog' A7 processor (10月19日付け EE Times)
→プロセッサIP licensor、ARM Holdings plc(Cambridge, England)が、パワー効率の良いCortex-A7プロセッサコアを披露、heterogeneous power-driven multicore戦略の一環として同社のtop-of-the-range Cortex-A15と併用する狙い、パワー効率のニーズに基づいてアプリを走らせるためにコアが選択されるようパートナーが"little dog, big dog"戦略を実行することを期待の旨。

以上、組合せの妙を感じる内容であるが、Xilinxからは重ね合わせの実装技術の妙を発揮して、世界最高容量のFPGAが発表されている。"2.5D"、"インターポーザ"が現実的なアプローチ手段として存在感を高めてきている流れである。

◇Xilinx tips world's highest capacity FPGA (10月25日付け EE Times)
→Xilinxが、同社Virtex-7 2000T Field Programmable Gate Array(FPGA)を初出荷、現時点世界最高容量のprogrammableロジックデバイス、68億個のトランジスタを含み、2Mロジックセル、すなわち20M ASICゲート相当がユーザに得られる旨。

◇Xilinx Says Four Chips Act Like One Giant (10月25日付け THE WALL STREET JOURNAL)
→Xilinxのイノベーションが入っているところ:4つの半導体チップを従来のようにwiring接続ではなく、特別なシリコンcommunications pad, 同社いわく“interposer”を設けている。結果として、各チップは隣接との間に10,000のオーダーのデータの小道があり、これは通常より10から100倍多くなる。
・Xilinxの4つの半導体チップを1つのパッケージに収めた最新製品:
http://online.wsj.com/media/vchip_digits_D_20111025110407.jpg

◇Xilinx shipping new FPGA built on TSMC 28nm process (10月27日付け DIGITIMES)
→最近の台北でのpress eventにて、Xilinxのworldwide quality and new product introduction、senior VP、Vincent Tong氏。同社が、2.5D IC stacked実装技術による最初の製品、Virtex-7 2000T FPGAを初めて出荷、該半導体はTSMCの28-nm HPL(low power with HKMG)プロセスで製造の旨。


≪市場実態PickUp≫

収益性の問題から切り離しが打ち上げられた米国HP社のパソコン事業であるが、そこはシェアトップ企業であり、あまりの波紋に経営トップの交代も見られて、ついに分離は見送りという発表が行われている。

【HPパソコン事業】

◇米HP、パソコン事業の分離見送り、コスト上昇考慮 (10月28日付け 日経 電子版)
→HPが27日、パソコン事業の分離を見送ると発表、パソコンで2割近いシェアを握り首位のHPは8月に同事業の分離を検討すると発表していたが、検討の過程で調達コストの上昇など負の側面が明らかになり、現状を維持した方が得策と判断した旨。

小生も数回出かけたことがある優しい微笑みの国、タイであるが、洪水による冠水が工業団地、そして街中にも及ぶとは信じられない思いがある。日本企業の大変な対応が連日報じられているが、以下のような米国企業への影響も見られている。

【タイの洪水】

◇Thai floods hit Emcore's production (10月24日付け EE Times)
→化合物半導体ベースのコンポーネント&サブシステム・プロバイダー、Emcore社(Albuquerque, N.M.)の主要contract manufacturerのタイ生産拠点が洪水に見舞われて閉鎖を余儀なくされ、12月四半期を通して同社のfiber optic製品についての顧客需要に対応する稼働能力に大きな影響が出る見込みの旨。

◇Thai floods close second Microsemi plant (10月26日付け EE Times)
→タイの洪水により、Microsemi社(Aliso Viejo, Calif.)が、Bangkok近隣にある下請け第二拠点の閉鎖に追い込まれている旨。

模造半導体の不正売買が摘発され、厳しい処分が下されている。米国SIAからもその実態が発表されている。

【模造半導体】

◇Chip counterfeiting case exposes defense supply chain flaw (10月24日付け EE Times)
→VisionTechによる模造半導体輸入の件について。
・≪一覧表≫米国政府が調べた半導体メーカー21社に引き起こされた被害額
http://eetimes.com/ContentEETimes/Images/digital/102411/1610table_pg19.gif

◇Counterfeit Semiconductor Importers Pay High Price of Breaking Public Trust, Endangering Americans-First convicted felon of counterfeit I/C trafficking sentenced to more than 3 years imprisonment, $166,000 in fines for selling counterfeit I/Cs to American companies and military (10月25日付け SIA Press Release)
→模造ICsの不正売買に絡む事件の初の起訴において米国連邦裁判所が厳しい判決を宣告したことを、米Semiconductor Industry Association(SIA)が本日称賛の旨。2006年から2010年にかけて、VisionTech Components(Clearwater, Florida)は承知の上で、米国および海外の約1,101 buyersに模造ICsを販売、軍事向けが含まれる旨。

ARMの先端アプローチを上に示したが、タブレット用プロセッサ市場での圧倒的優位のデータが示されている。

【タブレットのプロセッサ】

◇ARM to continue tablet domination into 2013(10月24日付け EE Times)
→DisplaySearchの新しいTablet Quarterlyレポート。ARMプロセッサベースのタブレットが2011年に211%伸びる見込みの一方、ライバルのx86アーキテクチャーベースのタブレットは2013年まで大した伸びは見込めない旨。
・≪グラフ≫ プロセッサ別世界タブレットPC出荷予測 2010〜2017年
http://www.eetimes.com/ContentEETimes/Images/Dylan/IC_Insights/x86.jpg

TSMCおよび三星電子から四半期業績が発表されているが、半導体市場の厳しい状況を裏付ける内容となっている。TSMCの総帥、Morris Chang氏からは台湾政府の現地業界支援を強く促すメッセージが出されている。

【注目の各社業績】

◇TSMC reports Q3 sales decline (10月27日付け EE Times)
→TSMC(Hsinchu, Taiwan)の第三四半期販売高約$3.54B、前四半期比3.6%減、前年同期比5.1%減。第四四半期はさらに減る見込みであるが、capacity稼働率は若干改善すると見ている旨。
第三四半期売上げの27%が28-および40-nm技術から、さらに27%が65-nm技術からきている旨。

◇Morris Chang calls for more government support for Taiwan semiconductor sector (10月26日付け DIGITIMES)
→TSMCのchairman and CEO、Morris Chang氏が、台湾政府に対し台湾現地の半導体業界への支援を、韓国および米国政府がそれぞれ現地の半導体プレーヤーを大事にしているのと同じように一層の増強を求めている旨。
同社は最近、28-nmプロセス技術を量産に移行、Altera, AMD, Nvidia, QualcommおよびXilinxがすべて28-nmソリューション製造のファウンドリー契約関係にあり、IntelおよびSamsung Electronicsと技術で競合している旨。

◇サムスン電子、7〜9月営業益13%減、スマホは好調 (10月28日付け 日経 電子版)
→サムスン電子が28日発表した7〜9月期の連結決算、売上高が41兆2739億ウォン、前年同期比3%増。売上高営業利益率は10%超、世界のエレクトロニクスメーカーの中で高い水準を保った旨。携帯電話を手がける通信部門が全体の6割を占める稼ぎ頭に浮上の旨。


≪グローバル雑学王−173≫

世界に名だたる自動車のトヨタ、そのルーツ、原点からの流れを明治、大正、昭和の時代とともに、

『世界を変えた発明と特許』 (石井  正 著:ちくま新書)  
 …2011年 4月10日 第一刷 発行

より追ってみる。豊田佐吉から息子の喜一郎へ、自動織機から自動車産業へ、受け継がれ大きく花開いていく過程に改めて注目している。


第7章 豊田佐吉・喜一郎の特許戦略−−−自動織機から自動車産業へ

□二度の失敗から立ち上がった豊田佐吉
・豊田佐吉が作った豊田商会に、三井物産が仲介役
 →本格的動力織機製造会社、豊田式織機株式会社
・佐吉が辞任に追いやられる事態
 →特許を一括、会社に8万円で譲渡 …現在の価値で10億円程度か

□8万円の特許譲渡金から再出発
・1914年(大正3年)2月、8万円を原資として綿紡績工場をスタート
・佐吉の息子、喜一郎は、同様に発明家の道、しかも近代産業の中心を歩む

□専売特許条例が静岡の村に伝わる
・豊田佐吉 …1867年(慶応3年)、静岡県生まれ(現在の湖西市)
・1885年(明治18年)、専売特許条例という新しい発明と特許の制度がスタート
 →佐吉は発明に一生を賭けていこうと決意
  …坂の上の雲を仰ぎ見ながら発展していった明治という時代の姿

□離陸できない佐吉
・初めは原動機、それから次第に織機の発明に関心が移行
・人の手で動かすのではなく、動力で動かせないか
・1890年(明治23年)の第3回内国勧業博覧会(東京上野)にて、国産の改良動力織機に注目
 →1891年(明治24年)、織機の発明について初めての特許
 →能率が5割向上するバッタン改良織機も不成功に…当時の人件費の安さ

□安価な軽便動力織機の開発に成功
・結局、当初の計画通り、動力で動かす織機の開発を目指すことに
 →安くて簡単に使える動力織機の発明
・完成までにおよそ4、5年
 →1898年(明治31年)、特許第3173号
  …5分間で尽きてしまう横糸の尽きたことを自動検知、織機を自動的に停止することが大事なポイント
  →輸入されていた鉄製広幅動力織機の10分の1以下の低価格
・1898年(明治31年)、この動力織機60台を設置、乙川綿布合資会社を創立
 →佐吉の成功への道の出発点

□三井物産が佐吉の技術に注目
・三井物産が、乙川綿布合資会社の製品を高く評価
・日清戦争に勝った日本は、大陸へ白木綿を輸出
・1906年(明治39年)、豊田式織機株式会社が設立

□三井物産とのジョイント・ベンチャーに失敗
・佐吉は、少しでも良い織機とするべく毎日のように少しずつ改良、設計変更
 →1910年(明治43年)、会社の営業不振の責任問題が議論
 →結局、佐吉が辞任することで決着
・その後の欧米旅行で佐吉に大きなインパクト
 →心機一転、織機の開発をやり直すことを誓う

□自動織機開発という目標
・織機の運転中に横糸(韓糸)が尽きたときに、自動的に横糸を供給、縦糸(経糸)が切れたときに、自動的に織機の運転を止めるか、あるいは警報
 →特に重要なのが横糸の自動供給機構

□佐吉による自動織機の発明
・1909年(明治42年)、特許第17028号
 …織機の横糸を収納するシャトルを自動的に交換
  −ダルマ落としからの発想と見られる
 →シャトル交換の自動織機としては基本的な解決
・翌年の1910年(明治43年)、豊田式織機を辞任へ

□喜一郎は自動織機に再挑戦
・佐吉は、自分の苦労を息子が再び経験することを望まず
 →しかし結局、発明への道を歩むことを認める
・喜一郎が考え出した、新しいシャトルを杼箱(ひばこ)に押し込むときの作動
 →自動織機完成に必要なあらゆる技術的改良を組織的に行った
 ⇒発明家からシステムとしての開発へ、大きく変えた

□システムとしての開発−−−その成果としての発明
・自動織機の発明の足跡
 →四つの大きな流れ:
  *シャトル交換の基本的改良
  *シャトル交換の部分改良
  *コップ(錘に巻いた円錐状の糸)交換の基本的改良
  *経糸切断停止装置の改良

□ついに完成したG型自動織機
・1926年(大正15年)、豊田自動織機製作所の設立総会
・喜一郎が工場立ち上げ、稼働するときに初めて使った用語、ジャスト・イン・タイム
・自動織機を使用する工場で働く工員の研修コースと研修所まで設置

□英国プラット社からの提案
・英国を代表する繊維機械製造企業、プラット社から、豊田のG型自動織機技術に関するライセンス提供の求め
 →契約調印 …豊田・プラット協定
 →国際織機市場においての、特許を軸としての市場分割協定

□10万スターリング・ポンドの特許実施許諾料
・最終的に支払われた額は、8万3500ポンド

□自動車産業への参入を決意
・綿紡績によって得た利益を次の開発に投入
 →次の産業あるいは技術とは何か
 →喜一郎は自動車産業に参入するべきであると結論
・綿紡績で巨額な利益を生み、豊田自動織機が立ち上がっていて、この結論に幹部のほとんどが反対

□全従業員に分配されたロイヤリティ収入
・1930年(昭和5年)、自動車産業へ参入することを決断
 →1934年(昭和9年)、最初のエンジンを完成、走行試験に成功
・1937年(昭和12年)、トヨタ自動車工業株式会社が設立

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