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猛暑下の記事&読書考(1):パソコン30年およびトランジスタ特許

列島全体がほぼ猛暑に見舞われるなか、ここはできるだけ涼しく過ごす工夫を施すことに如かずである。激動が続きそれだから興味が尽きないグローバル半導体・エレクトロニクス業界について、振り返ってじっくり見つめ直してみるのも工夫の一つかという考え方で、目にする記事や書物にそのような題材を模索しながらのこのところである。現下の目まぐるしい動きの渦中でまず注目したのが、パソコン30年およびトランジスタ特許である。

≪パソコンおよびトランジスタを振り返る≫  
  
アップル社の業界を席巻する急伸長ぶりが続いている。handset業界の利益の半分超をこの第二四半期は占めている勢いである。

◇Analyst: Apple had 57% of Q2 handset profits (8月1日付け EE Times)
→Canaccord Genuityのアナリスト、T. Michael Walkley氏。Apple社が、グローバルhandset市場の僅か5.4%のシェアであるにも拘らず、第二四半期のcellular handsetすべてのoperating profitsの57%をも占め、第一四半期の51%、2010年の41%から上がっている旨。第二四半期では、Apple社の約$4.66Bに対し、次のSamsung Electronics Co. Ltd.が$1.49Bの旨。

米国株式市場でも売上高ではまだ何倍の差がありながらも、時価総額では首位に立つ状況が見られている。

◇米アップル株、終値でも首位=米市場の時価総額(8月11日付け 時事通信)
→10日のニューヨーク株式市場で、アップルの株式時価総額が、終値ベースで初めて米石油大手エクソンモービルを上回り、首位となった旨。エクソンの売上高はアップルの約4倍と差が大きいが、アップルは多機能携帯電話「iPhone」などの販売が好調、4〜6月期の売上高、純利益がともに過去最高の決算となるなど業績の伸びに勢いがある旨。アップルの時価総額は10日の終値で3371億ドル(約26兆円)。一方、エクソンは3307億ドルだった旨。9日にも一時、アップルが抜く場面があったが、終値ベースではエクソンが首位を維持していた旨。

世界を虜にする魅力的な商品設計の重みということで、次の論調が表われており、まさに当世風と言える見方と思う。 

◇Asian contract manufacturers eye design services (8月11日付け EE Times)
→iPhoneなど画期的な製品打ち上げがエレクトロニクスの世界を揺り動かしており、製品設計の価値が再び前面に出てきている旨。

スマートフォン、タブレットの普及が一気に加速してパソコンに取って代わるかという勢いのなか、『パソコン30年 −先駆者たちの証言』(8月9日付け 日経産業)という時宜を得た記事に注目している。IBMパソコンが世に出てもう30年、早30年という受け止めであるが、同記事中のパソコンを巡る動きから手前勝手で取りだして次の通りである(○印から30年)。

◎パソコンを巡る主な出来事

  1975年 Bill Gates氏ら、マイクロソフト設立
  1976年 Steve Jobs氏ら、アップルコンピュータ設立
 ○1981年 米IBM、パソコン「IBM PC」発売
  1982年 NEC、日本仕様の「98」パソコン発売
  1993年 米インテル、MPU「Pentium」発表
  1995年 米マイクロソフト、「Windows 95」発売
  2001年 米HPと米Compaqが合併で同意:米アップル、「iPod」発売
  2007年 米アップル、スマートフォン「iPhone」発表
  2010年 米アップル、多機能携帯端末「iPad」発表

IBM、ウィンテル、アップルと巨人たちの変遷とともに、素晴らしいタレント、才能の折々の蓄積、開花というものを感じている。

現実に戻ると、次のiPad 3向けプロセッサの開発進捗が云々されている。グローバル市場を引っ張るプレーヤー間の果てしない切磋琢磨ぶりに引き続き注目である。

◇TSMC's A6 processor to respin, says report (8月12日付け EE Times)
→Taiwan Economic News発。Apple向けでさらに強力なiPad 3タブレットコンピュータでお披露目予定のARM-ベース、quad-core設計と言う噂のA6プロセッサについて、TSMCが、試作製造を始めていると言われるが、2012年第一四半期に"生産設計"に向けたもう一つのtape-outを予定、そうだとするとTSMCからのA6の量産は早くとも2012年第二四半期以降になる旨。

相乗効果でかくも巨大なグローバル市場となっている半導体とパソコン、ということで、今度は半導体の原点にまたまた戻ろうということで目に留まったのが次の新書である。

『世界を変えた発明と特許』 (石井  正 著:ちくま新書)  
 …2011年 4月10日 第一刷 発行

はじめは以下に続く≪グローバル雑学王≫のコーナーで取り上げようかと思ったが、トランジスタおよび集積回路についての章の内容は、それこそ今のタイミングで今一度振り返るに値するということで、まずはトランジスタの発明に以下注目、まとめている。要点とともに、※印以下にコメントである。

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第5章 天才ショックレーの衝撃
 −−−トランジスタ発明の栄誉は誰に?

□世界に広まったトランジスタ技術
・1948年6月30日、ベル電話研究所にて、小さなゲルマニウムの上に作った増幅器、トランジスタの発明の発表。
・1951年9月17日、ベル電話研究所の親会社、Western Electric(WE)社主催のトランジスタ・テクノロジ・シンポジウム
 →2万5000ドルのライセンス料、トランジスタ製造技術も公開
・このトランジスタ技術の特許権実施許諾契約が戦後の日本のエレクトロニクス産業の発展を約束
・ベル電話研究所がトランジスタ技術の公開に積極的
 →米国司法省による独占禁止法違反容疑での調査が進行中であったことが背景に
※まさにトランジスタの原点。技術の公開のスタンスが今日をもたらしている。

□ベル電話研究所の固体増幅器開発への挑戦
・1930年代、ベル電話研究所は、電話網の中核的部品、真空管やリレーに代わるものが必要
 →固体増幅素子であると予測、その開発が極めて重要
・MITからWilliam Bradford Shockley Jr.(1910〜1989年)を引き抜き、実験担当のWalter Houser Brattain(1902〜1987年)、理論解析のJohn Bardeen(1908〜1991年)とでチームを編成、固体素子物理学の研究を命じる
・レーダの超高周波の検波器
 →ゲルマニウム、シリコンという材料
※固体増幅素子の必要性着目と固体素子物理学の研究への注目・推進

□偉大なクリスマス・プレゼント
・ゲルマニウム半導体でPN接合、その半導体表面の電位を計測する実験
・1947年12月11日、顕著な電流増幅作用を発見
 →16日には改良型の増幅器
 →23日には現象を公開、世紀の大発明、トランジスタの誕生
 →発明者はBardeenとBrattainの二人
※トランジスタの誕生について。改めて小生とほぼ同年齢になるという受け止め。

□トランジスタ基本特許の出願
・1947年12月23日がトランジスタ発明の公式の発明日
 →トランス(=変換)とレジスタ(=抵抗)の組み合わせ
・この12月から翌年2月まで弁理士とともに、特許出願明細書のかかり切りに
※特許化する熱気が伝わってくる。

□衝撃を隠せなかった天才Shockley
・実験のときに立ち会っていないShockley
 →米国では実に厳密な共同発明者の範囲
 →発明を生み出す過程で、発明者として明確な貢献があったということの証明が必須
※そうだったのかという感じ方。

□接合型トランジスタの発明
・Shockleyはただちに点接触ではなく、接合型のトランジスタを考案
 →ベル電話研究所本部の特許課に事情を説明、接合型トランジスタの特許出願を依頼
・その後、接合型トランジスタの試作に成功、特許も得て、Shockleyもトランジスタ発明者の一人に
※天才Shockleyの凄さ、真骨頂が否応なく伝わる。

□トランジスタの発明対価
・1940年代におけるベル電話研究所の発明取り扱いルール
 →研究の過程で生み出した発明に関する権利は、研究所の親会社、WE社に譲渡すること、その対価は1ドル
・WE社はトランジスタについて希望する会社すべてと実施許諾契約、巨額なライセンス・ロイヤリティがWE社に
 →発明者は契約に従い各人1ドルを得るだけ
・Shockleyは1956年にベル電話研究所辞任、Shockley半導体研究所を立ち上げ
 →優秀な人材を呼び寄せ
 …Robert Norton Noyce(1927〜1990年)
  Gordon E. Moore(1929年〜)
・Noyce、Mooreはじめ8人の超優秀技術者は離れて、独自にFairchild半導体会社を設立
・Bardeenのその後 …大学に移り、トランジスタの発明に続き、理論物理の研究の結果、後に2度目のノーベル物理学賞を受賞
・Brattainのその後 …ベル電話研究所を愛し、長く研究所で仕事
・洋の東西を問わず、難しい職務発明の問題
※当時の発明の対価に注目させられる。Shockley半導体研究所への優秀な人 材の集まり、そして有名な「8人の裏切り」、トランジスタ発明者それぞれのその後の人生、と凄いエネルギーの集積、爆発、展開というものを感じている。
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≪市場実態PickUp≫

さて市場実態に戻ると、グローバルな鬩ぎ合いが一層増す雰囲気となっている。計測機器分野で台湾メーカーが低コストで伸びてきたところに、今度は中国勢が半分の値段で攻め入ってきている。

【低価格化、上には上が】

◇China puts the squeeze on Taiwan (8月12日付け EE Times)
→台湾の700人のtest and measurement会社、Good Will Instrumentは、2010年に$55Mの同社売上げ新記録、AgilentやTektronixなど米国大手ライバルより20%安くspectrum analyzers, signal generatorsなどの装置を中国の低コスト設計&製造で対抗の旨。しかしここにきて、中国copy catsの一群が伸びてきて、Good Willの50%ほどの価格の製品を直接販路にもち込んでいる旨。

タブレットを巡るApple社とSamsungの係争が続く中、欧州でSamsung製品を差し止める動きとなっている。

【サムスンiPad対抗、欧州で差し止め】

◇EU blocks sales of Samsung Galaxy Tab (8月9日付け EE Times)
→Apple社とSamsung Electronics Co. Ltd.の間の拡大一途の法廷係争で最新そして最も影響が遠大に及ぶ展開、欧州裁が火曜9日、SamsungがEuropean Union(EU)のほとんどでGalaxy Tab 10.1 media tabletsの販売を一時的に停止する命令を出した旨。Dusseldorf, Germany地裁は、Appleの要求でその販売差し止めを認めている旨。

◇サムスンiPad対抗機、欧州で差し止め、アップル勝訴 (8月10日付け 日経 電子版)
→独デュッセルドルフ地裁が9日、韓国サムスン電子の新型タブレット型端末「ギャラクシータブ10.1」について、オランダを除く欧州地域での販売を一時差し止める判決を出した旨。米アップルが同端末について自社のタブレット型端末「iPad」と酷似しているとして提訴していた旨。 

半導体業界は統合か、分散か。この7年のデータから、一般に言われる統合よりは分散に向かう方向という見方が以下に表わされている。

【分散する半導体業界】

◇Semiconductor industry deconsolidation (8月7日付け EE Times)
→Mentor Graphicsのchairman and CEO、Walden C. Rhines氏ブログ記事。
半導体業界は統合に向かっているというよりむしろその逆方向という衝撃の事実。トップ5、トップ10など合わせた市場シェアは、35年以上の間フラットかあるいは減ってきている旨。
・半導体トップ50合計の市場シェアは続けて減ってきている:2003〜2010年               [Source: IC Insights]
http://www.eetimes.com/ContentEETimes/Images/WR_figure2_400.jpg

このところ言われている市場の軟化傾向であるが、大きな指標となるファウンドリー大手、TSMCおよびUMCの業績発表にも色濃く表われている。

【弱含みな第三四半期】

◇UMC's July sales down 18% on 2010 (8月9日付け EE Times)

◇UMC July revenues down 4% on month (8月9日付け DIGITIMES)
→UMCの7月売上げ$303M、前月比4.1%減、前年同月比18.6%減。

◇TSMC's sales drop in July (8月10日付け EE Times)
→TSMC(Hsinchu, Taiwan)の7月販売高約$1.22B、前月比3.4%減、前年同月比4.8%減。ここ10年では、TSMCの7月販売高は前月比3.5%増となっている旨。UMCの発表直後で減少は予想されたが、半導体業界が弱含みな第三四半期に突入していることを示す様相の旨。


≪グローバル雑学王−162≫

中世の"歴史的事件の道"を続けて、"中華"の時代を取り戻す「南海遠征の道」、ジャンヌ・ダルクの「進撃の道」、イベリア半島でキリスト教徒が歩んだ「レコンキスタの道」を、

『世界の「道」から歴史を読む方法』 (藤野  紘 著:河出書房新社)  
 …2011年 3月 5日 初版 発行

より、それぞれの歴史を辿って読み解いていく。アメリカ新大陸発見を控える前の時代の厳しい戦い、苦難を乗り越えた道筋の開拓である。


3章 中世に激震を走らせた「道」−−−混乱と新秩序をもたらした"歴史的事件"をルートから読む

5."中華"の時代を取り戻す旅…
 宦官・鄭和の「南海遠征の道」
・15世紀、明王朝が、モンゴル帝国に乱された中華秩序の再編を目指す
□明朝が目指した中華秩序の回復
・江南地方を根拠地とする明王朝
 →「中華(中国大陸を制した朝廷が世界の中心であるという思想)」を目指した
・第三代皇帝、永楽帝が、側近の宦官、鄭和を南海へ派遣
 →明へ朝貢した国々は50余国にも
  →貢物の対価の数倍もの利益が得られるというメリット
 →国と国同士が君臣関係を結ぶ「冊封体制」
□朝貢を説いてまわった鄭和とは何者か
・鄭和は1371年、現在の雲南省晋寧(昆陽)生まれ
 →祖父も父もイスラム教徒
 →永楽帝より武功をあげて重用されるように
・大艦隊の司令官として7度の大航海
□大艦隊はアラビア、アフリカへも到達した
・第1回遠征の鄭和の艦隊は、2万7800名にも
・明の劉家港から南へ、タイのアユタヤを経由、ジャワ島、インドのカリカットへ。
 →アラビア半島のアデンや東アフリカのマリンディにまで到達
・鄭和の遠征の道
 →明という国を世界に広くアピール
 →権威を高め、永楽帝が目指した「中華」体制を復活させる
・皮肉なことに、海のシルクロードを衰退させる一因とも

6.百年戦争を終わらせた聖少女…
 ジャンヌ・ダルクの「進撃の道」
・中世ヨーロッパ、封建制が崩壊、王に権力が集中する中央集権化へ
□百年戦争の原因となった二つの問題とは
・イギリスとフランスの百年戦争(1337〜1453年)
 →両国ともに欲しがっていたのが、毛織物により栄えていたフランドル地方
・フランスの王位継承問題が、両国の思惑を助長
□フランスを救った"奇跡"の快進撃
・百年戦争の形勢は、当初イギリスが優位に
・彗星のごとく登場したのがジャンヌ・ダルク(Jeanne d'Arc)
 →オルレアンの農民の娘
・劣勢だったフランス軍が、ジャンヌのかけ声のもと、次々とイギリス軍を破った
 →まさに"奇跡"の道
・即位したシャルル7世が、徹底抗戦を主張するジャンヌと意見対立
 →ジャンヌは、イギリス軍に引き渡され、1431年火刑に処せられる
□戦後の両国で進んだ中央集権化
・百年戦争を境に、長く続いたヨーロッパの封建制は終わりを告げ、フランスとイギリスでは王権を中心とした中央集権化が進む

7.イベリア半島をイスラム教徒から奪回…
 キリスト教徒が歩んだ「レコンキスタの道」
・イスラム教徒に奪われた領土の回復運動である「レコンキスタ(Reconquista)の道」
 →1492年に領土の回復を達成
□国土回復運動で誕生したスペイン王国
・756年、キリスト教徒は、ピレネー山脈の北へ押しやられる
 →1492年までのキリスト教徒による領土回復運動を「レコンキスタ」
・13世紀半ばには、キリスト教国のアラゴン、カスティーリャ、ポルトガルの3国がイベリア半島のほとんどを領土に
・キリスト教徒にとって長く厳しいレコンキスタの道
 →その先にはスペイン王国の"栄光"
□イサベル女王の苛烈なカトリック化政策
・1478年、イサベル女王は、「スペイン異端審問」制度をつくる
 →カトリック教徒以外を異端に
・レコンキスタの道 →ユダヤ教徒やイスラム教徒には受難の道

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