我が国が積んできたプレゼンス、団結力、底力を今こそ発揮
計り知れない自然の脅威、東日本大震災による被害の甚大さに言葉がなく、ものの見方、考え方をもいろいろ一変させられる正直な思いである。いまだ余震が続くなか、半導体・デバイス業界でも日増しに大きくなるインパクトが伝えられている。同時に我が国、我が業界の今まで積み重ねてきた存在感のインパクトの大きさもはっきり見えてきている。我々ならではの一致団結力、そしてそこからくる底力を今また発揮すべきときと思う。
≪日ごと増すインパクト≫
半導体・デバイス関連メーカーが数多く集まっている東日本地域であり、注目した時間順に関連する動きを以下に示す。
<半導体関連メーカーへの影響>
◇Quake caused 'substantial damage' to TI fab (3月14日付け EE Times)
→Texas Instruments社の東京から約40マイル北西の美浦半導体fab(茨城県)が地震により大きな被害、フル生産に戻るのは早くとも6月中旬以降になる見込みの旨。
◇Japan quake: Tracking the status of fabs in wake of disaster (3月14日付け EE Times)
→先週日本を襲った地震と続く津波により、多くの拠点で半導体生産が止まって、fabsおよび生産装置に損害、少なくとも日本北部の10超のfabsがoff line状態、従業員も被害を受けた会社がいくつかある旨。各社ごとの状況をまとめている記事。
◇Nikon, TEL impacted by quake (3月14日付け EE Times)
→日本での地震がfab tool supply chainに打撃、JSR, Nikon, SEH, TELなどがいろいろな工場での被害を報告の旨。
◇Sendai fab staff are safe, says Freescale (3月14日付け EE Times)
→11日金曜の地震発生時に、Freescaleの仙台150-mmウェーハfabで働いていた従業員は全員、無事であった旨。
◇Renesas advises on fab, office shut downs (3月14日付け EE Times)
→Renesas Electronics社傘下の22工場のうち、5つのウェーハfabsと2つの組立packaging工場が、地震の影響で閉鎖されている旨。
◇Digitimes Insight: SEH plant suspension may hit global wafer supply chain (3月14日付け DIGITIMES)
→信越化学工業の主要Siウェーハ工場、白河工場が、今回の地震の震央に近い福島県西郷村にあり、電力不足で閉鎖している旨。
◇Supply of polysilicon facing shortage as Japan implements power brownout (3月15日付け DIGITIMES)
→日本政府が3月14日に電力節減政策を実施へ、日本のpolycrystalline silicon(poly-Si)およびSiウェーハメーカーは、1ヶ月間生産を止めざるを得ない可能性の旨。
◇On Semi lowers forecast due to quake (3月16日付け EE Times)
→On Semiconductor社が、地震により販売高予測を下方修正、2011年2月3日時点のOn SemiconductorおよびSanyo Semiconductorを合わせた第一四半期売上げガイド、$852.5Mから2-4%の減少インパクトを見込む旨。
◇Quake to impact Amkor's sales (3月17日付け EE Times)
→Amkor Technology社の東京の北東約260マイル、岩手県北上市にある製造拠点は、地震での被害は比較的小さいが、売上げにはインパクト、現在同拠点は電力供給中断で閉鎖しており、電力、ガスおよび水の供給そして交通システムが安定して生産能力を回復していく計画が進められる旨。
市場価格の動きにも早速敏感な反応が表われている。
<価格上昇>
◇NAND flash prices soar on supply fears (3月14日付け EE Times)
→TrendForce社によるDramexchangeサービス発。地震の余波で供給が限られる懸念から、NANDフラッシュメモリのスポット価格が月曜14日、約10-20%上昇の旨。
◇Quake to cause prices hikes, shortages (3月15日付け EE Times)
→IHS iSuppli発。今回の地震で電子部品および材料のあるものに不足をきたして、機器に向けたpricingが高くなる可能性の旨。
<デバイス業界への影響>
◇Japan earthquake: 300MWp PV systems in northeastern region damaged, says IEK (3月15日付け DIGITIMES)
→台湾政府が後援するIndustrial Technology Research Institute(ITRI)傘下のIndustrial Economics and Knowledge Center(IEK)発。今回の大規模地震および津波により、約300MWpの総installation capacityを擁する屋根および地上のPV(photovoltaic)システムが破壊され、日本の大手PVメーカーが地震直撃の地域に対してPVシステムの寄付を計画している旨。
◇Japan-based material suppliers stop taking orders, shipments due to earthquake, say handset component makers(3月16日付け DIGITIMES)
→BT resin, rolled copper foilおよびACF(anisotropic conductive film)などhandset部品を作るのに用いられる重要材料の日本のサプライヤが、地震の影響から一時的に受注および出荷を止めている旨。
半導体・デバイス業界における日本の重みを改めて知る以下の内容である。
早期の回復に向けた我が国、我々の一致団結力、底力が世界経済の安定のために必須と問われる所以である。
<グローバル業界へのインパクト>
◇Report: 20% of global 300-mm wafer production down (3月18日付け EE Times)
→Nomura Securities Co. Ltd.発。信越化学工業の福島県白河工場が、3月11日に日本を襲った破壊的な地震以降閉鎖、300-mm径raw Siウェーハ世界生産の約20%の製造を行っている旨。
◇Supply chain: Too lean, too mean, too late (3月18日付け EE Times)
→今回の地震で失われたり損害を受けた日本での材料、装置およびICs生産がグローバル製造について暗示するものに考えを巡らすアナリストの間で、見解の相違はいろいろあれど、エレクトロニクス業界のこれまでのglobalizationへの対価を世界が今や支払うよう求められていることがますます明らかになってきている旨。
◇Updated: Japan quake hits microcontrollers (3月18日付け EE Times)
→Nomura Securities Co. Ltd.発。日本の地震とその余波により、MCU ICsそしてそこからくる自動車から洗濯機、consumer gadgets、産業制御そして医療装置に至るあらゆるものの生産が重大な影響を受けている様相の旨。
◇大震災で部品供給停止、GMなど世界の製造業に打撃 (3月19日付け 日経 電子版)
→東日本大震災で被害を受けた電子部品や素材工場の操業停止が、自動車や航空機など世界の製造業に波及しそうな旨。米GM(General Motors)は17日、日本からの部品調達が滞るとして米ルイジアナ州の完成車工場を21日から一時停止すると発表、被災地には世界的に高いシェアをもつ日本企業の部品や高機能素材の工場が集積しており、復旧が遅れれば影響が拡大しそうな旨。
◇iPad2生産ピンチ、日本製部品の供給懸念 (3月19日付け 読売)
→米調査会社IHSアイサプライ、17日発。米アップルが今月、米国で発売した多機能情報端末「iPad2」に使われる日本製の主要部品が、東日本巨大地震による物流網の混乱などで、調達できなくなる可能性がある旨。分解した結果、少なくとも5種類の日本製部品が使われていると分析、画面用ガラスや薄型リチウムイオン電池など最先端技術を駆使した部品は、「日本以外の調達先を確保するのは難しい」旨。
≪市場実態PickUp≫
当面、東日本大震災の市場に与える余波に焦点を当てざるを得ないが、それ以外の世界の動きとして以下の通り注目している。まずは、中国の半導体メーカーを巡って今後を探る動きである。
【中国の半導体メーカーを巡る動き】
◇SMIC wants to hit $5B mark (3月16日付け EE Times)
→SMICのchief financial Officer(CFO)、Gary Tseng氏。$5Bファウンドリーを目指す現在の5年事業拡張計画に基づいて、SMICには向こう数年にわたって製造capacity増大に向けて約$12B出資する必要がある旨。
◇UMC wants to buy stake in He Jian (3月17日付け EE Times)
→台湾のUMCが、中国のファウンドリーベンダー、He Jian Technology Suzhou Co. Ltd.の支配権を再び模索している旨。
◇MediaTek reportedly invests in China's Goodix (3月18日付け EE Times)
→Taiwan Economic News発。MediaTek社(Hsinchu, Taiwan)が、capacitive touch-control半導体メーカー、Shenzhenshihui Top Technology Co. Ltd.、商号Goodixの20% stake買収に$20Mの投資、smartphone市場に入っていく試みの一環の動きの旨。
なかなか一本調子にはいかなくなっている半導体の微細化世代推移であるが、その中軸を成すリソグラフィについての見方である。
【リソグラフィ】
◇Analysis: Litho world needs a shrink (3月14日付け EE Times)
→何十年にもわたりlithographyは、半導体を縮小する基幹生産技術、依然その通りではあるが3つの主要次世代lithography候補、すなわちextreme ultraviolet(EUV), masklessおよびnano-imprintは遅れ続きのまま、第4のオプション、directed self-assemblyもまだ探求段階。
最近のSPIE Advanced Lithography conference(SAN JOSE, Calif.)にて、lithography community、そしてその顧客は、文字通り縮小が求められる兆候があった旨。
FPGA業界をリードする両雄のここでは微細化世代を巡る覇権争いである。
【programmable logic業界】
◇Analysts: Xilinx could beat Altera to 28-nm (3月15日付け EE Times)
→Wall Streetアナリスト発。programmable logicベンダー、Xilinx社が、40-nmノードではライバルのAlteraに優位を譲った後、28-nmノードではかなり伸びてAlteraから技術leadershipを取り戻す可能性と見る旨。
今をときめくWi-Fi半導体について、Broadcom社がリードする具体的なデータが表われている。
【Wi-Fi半導体】
◇Report: Broadcom leads Wi-Fi design wins (3月18日付け EE Times)
→EE Timesを発行するUnited Business Mediaの傘下、UBM TechInsightsからのレポート。Broadcomが、Wi-Fi半導体サプライヤの一群をリードしており、最も広範なdesign wins、Apple製品だけで50M個の売上げとなっている旨。
・Apple, HTCなど多くのdesign winsをもつBroadcom
⇒http://www.eetimes.com/ContentEETimes/Images/WiFi_Market_Landscape%20x%20420.jpg
≪グローバル雑学王−141≫
9つのいろいろな切り口から世界の国の1位と最下位を見て、世界の実態にアプローチしたシリーズは、今回が締めとなる。これからの世界そして我が国の今後に向けた視点および課題を、
『世界の国 1位と最下位 −国際情勢の基礎を知ろう−』
(眞 淳平 著:岩波ジュニア新書 664) …2010年9月17日 第1刷 発行
より共有していく。世界に目を向ける重要性を特に訴えているのは全く同感である。
第孤堯,海譴らの世界と日本
□新興国の急成長
・現在の国際情勢の中でもっとも大きな変化
→新興国の著しい成長
・アメリカが担っている部分が大きい現在の世界秩序
→中国が将来的に挑戦していく可能性
・全体の傾向
→先進国の存在感が次第に小さく
→新興国の動向が世界に大きな影響
□超国家機関EU、多国籍企業
・EUが管理する領域が非常に拡大
→行政や司法、さらには軍事面でも統一行動が進められるように
・多国籍企業 …複数の国に本拠地をもつ巨大企業体
→ロイヤル・ダッチ・シェル: 売上高 約41兆4000億円
利益額 約2兆3400万円
…2009年度の日本政府の税収を上回る売上高
→2009年『フォーチュン』ランキング売上高世界一
□国際機関、NGO
・国際機関の例:「国際刑事裁判所」(ICC)
→戦争犯罪や人道に対する犯罪など国際犯罪を裁くために設けられた、常設の司法機関
・NGO …先進国の市民などが主体、主張を国内であるいは国際的に実現しようとして活動する組織
→例:「対人地雷禁止条約」(1997年)
□テロ組織の活動
・「テロ組織」という主体
…国家とは違い、中央機関がなく末端の組織や人間たちがゆるやかな連携、活動領域を広げていくアメーバのような集団
→一気に制圧することが難しい
・アメリカのオバマ政権など、2010年4月には、関係する47カ国の首脳をワシントンに招いて、「核安全保障サミット」を開催
□世界的な難問の出現
・地球温暖化の問題
→世界中の国々による規制が必要
→きちんと効果が上がり、かつ各国が合意できる規制策
⇒国家以外の主体の存在感が徐々に増す
□日本の経済と人口
・今後の日本
→少しずつ人口減少
→高齢者の割合が次第に増
⇒全体としては、日本経済の地位は少しずつ低下へ
・日本のこれまでの経済的な成功の背景
→国内の大きな人口規模
→経済成長の過程で、世界でも有数の巨大な人口の恩恵
□日本の難題について考える
・少子高齢化への対策
・「晩婚化」や「非婚化」
→30〜34才の未婚率: 1975年 2005年
男性 14.3% 47.1%
女性 7.7% 32.0%
・子どもを生んだ女性が働きやすい社会、働きたくなる社会を作っていくこと
□巨額の累積債務への対処
・累積債務がこのまま増加すれば、遠くない将来、日本政府の財政破綻という事態に直面する可能性
→少子高齢化と並んで、我が国最優先の課題
□高い技術力が日本の強み
・日本の経済には、まだまだ強み
→高い「技術力」、それがもたらした「ブランド力」
例:信頼性の高い「新幹線」の技術
…一度に運べる定員が多いという優位性
・現在、世界中で働く作業用ロボット約100万台、その約36%が日本製
・高い技術力を維持・発展させるような仕組みを作っていく必要
□世界標準をつくる
・日本は、高速鉄道などの分野の輸出において、世界標準を獲得するための努力がとても重要に
→自国の優位性を保てる世界標準
□皆さんへのメッセージ
・外の世界に目を向けることの重要性
→日本人学生の留学熱が下がりつつあるなど、強くなっている内向き志向
⇒海外へ行き、そこの文化や環境に触れ、異質な人々の考え方を知ることは、非常に重要
・ますます変化の速度を上げていく今後の世界
→私たちの知識と洞察力、信念と忍耐が試される時代
⇒外の世界に目を開き続けることが、何よりも大切