グローバル市場の潮流に乗ったエレクトロニクス技術の切磋琢磨
身近にもガソリン価格の上昇が降りかかってきているが、 激変の要因を多々孕みながらのグローバル市場の展開が続いている。優位なビジネス競争力確立を図るBig Playersの錯綜の動きのなか、半導体技術のオリンピック、2011 ISSCCからは、テーマが"Electronics for Healthy Living"となっており、高齢化、新興経済圏拡大が進んでいるグローバル市場の潮流に合わせた技術の切磋琢磨を特に感じている。
≪2011 International Solid-State Circuits Conference(ISSCC)≫ (2月20-24日:SAN FRANCISCO)
医療エレクトロニクス分野への注目は、健康的な生活水準の向上を求めるグローバル市場の流れから今回の2011 ISSCC関係記事でも随所に出てくる感がある。
◇ISSCC keynoters give Rx for electronics (2月21日付け EE Times)
→約3,000人のエンジニアに向けての基調講演から。エレクトロニクスは、ヘルスケアの病院から家へのシフト、低コスト化そして生活の質の向上にもっていく助けになるが、その移行には新しいプロセッサ、無線、バッテリーおよびデータmining技法が必要になる旨。
具体的には以下のアプローチ例がある。
◇Researcher describes 'smart' orthodontics (2月21日付け EE Times)
→ドイツUniversity of Freiburg-ImtekのPhD candidate、Mathias Kuhl氏。歯科矯正医が個々の歯に働いている力を測れるよう、統合圧力センサを擁する"intelligent"歯科矯正bracketsを開発している旨。
◇Millimeter-scale all-in-one computers debut (2月23日付け EE Times)
→University of Michiganが緑内障患者の眼の内側に埋め込むよう設計したmillimeter-sized, all-in-oneコンピュータ、solar cells電源から通信用ワイヤレスradioまであらゆるものが入っている旨。ワイヤレスセンサネットワークス、遠隔監視などの応用に使える旨。
医療用エレクトロニクスについては、最近関係する記事がますます目に入ってきており、これは2011 ISSCC関連ではないが該分野を鳥瞰できる内容と思う。
◇Medtech prognosis: Going digital, under stress (2月22日付け EE Times)
→ディジタルnetworked技術への歴史的な移行を経ている医療用エレクトロニクス市場について。
・グローバル医療用機器市場のグラフデータ
⇒http://i.cmpnet.com/eetimes/news/11/02/1596chart_pg20.gif
最先端半導体技術の粋を競う従来のISSCCという意味では、韓国、台湾そして中国からの以下の発信に注目させられている。
◇Samsung CEO: Four challenges seen for ICs (2月21日付け EE Times)
→Samsung Electronics Co. Ltd.の半導体事業のpresident、Oh-Hyun Kwon氏が、次世代IC設計およびscalingの4つの課題について概要説明の旨。
1. Power consumption
2. Next-generation transistor and memory
3. Let's go 3-D →through-silicon via(TSV)ベース
4. New breakthroughs needed in circuit design
◇ISSCC: China eyes petaflops, IBM hits 5 GHz (2月21日付け EE Times)
→中国が、petaflopsスーパーコンを目指した国家MPU設計について論文プレゼン、中国のGodsonプロセッサファミリーの設計をリードするWeiwu Hu氏が、今夏の高機能システムで現れてくるGodson-3Bを説明した旨。
同じセッションでIBMが5.2-GHzメインフレームプロセッサをプレゼン、引き続きCPU周波数の限界に挑んでいる旨。
◇ISSCC Day-2: Analog beats Digital, 28nm OMAP, and SandyBridge (2月25日付け Electronics Design, Strategy, News)
→Multimedia & Mobileセッションは、論文8件が次の内訳。
…業界から2件:Texas Instruments(MITとコラボ)、MediaTek
残りは、National Taiwan Universityが3件、KAIST(Korean Advanced Institute of Science and Technology)が2件
…Texas Instrumentsの論文タイトル:
A 28nm 0.6V Low-Power DSP for Mobile Applications
Haifa, IsraelのIntelチームが、SandyBridgeプロセッサの概要プレゼン
…A Fully Integrated Multi-CPU, GPU and Memory Controller 32nm
Processor .. aka SandyBridge
日米欧からの発表が席巻していた頃からとは、当然ながらの様変わりということかもしれないが、グローバルな連携が先立つ今後の展開をますます感じている。また今回は具体的なデモセットを披露する新しいセッションができているとのこと。Time to Marketの実証を求める流れに沿うものと受け止めている。
◇Photo gallery: Eye on innovations at ISSCC (2月25日付け EE Times)
→約3,000人の半導体設計者が集まるISSCC年次イベント、今回は28セッションに論文211件、2日間のtutorialsおよびホットな技術テーマを探究するいくつかのeveningセッション。
新しいIndustry Demonstration Sessionを中心に現実の応用デモから注目の内容いくつか。
なかなか一本調子にいかないジレンマ、駆け引きに近いものを感じる以下の従来に続く問題意識である。
◇ISSCC panel sees challenges at 20-nm (2月23日付け EE Times)
→パネル討議にて、IBM, GlobalfoundriesおよびTSMCは、22-/20-nmロジックノードに対してplanar bulk CMOSを拡張することですべて一致、言い換えると、22-/20-nmではFinFETs, fully depleted SOI, multi-gate transistorsなどの新規の構造を取り入れる見込みはなく、少なくとも先端ファウンドリー勢はなんらかのコンセンサスがある一方、該パネルのもう1人のメンバー、Intel社は依然と慎重に自分の手の内を明かさず、22-/20-nmでのTr計画を示さなかった旨。
◇Advancing on 20nm: conversation with ST's Philippe Magarshack-ST is at 28 headed for 20nm on the Common Platform roadmap, but at this level no step comes easy. (2月24日付け Electronics Design, Strategy, News)
→ST Microelectronicsのgroup vice president、Philippe Magarshack氏。
同社は、Moore's Lawの単調路線に依然留まることにしているものの、じっとそうすることがますます難しくなり続けている旨。
≪市場実態PickUp≫
インテルから「USB3.0」の次を行くという新インタフェース技術が、アップルのノートPCに適用する形で発表されている。まだ詳細が明確にされていないとしてFAQポイントを挙げる記事も一方で見られている。
【IntelのThunderbolt技術】
◇Apple MacBook debuts Thunderbolt I/O (2月24日付け EE Times)
→Appleが、最新のMacBook Proノートブックを発表、Intelからの新しい高速システムインタフェース、Thunderbolt(旧称Light Peak)で構築の旨。
USB 3.0支持のシフトアップに向けてPC communityに衝撃波を与える動きの旨。Intelは、該技術を開発したが、まずMacBook Proに持ち込むことでAppleとコラボの旨。該インタフェースは2つの双方向10-Gbit/secondチャネルを誇り、使用範囲に柔軟性がある旨。
◇Inside Thunderbolt: Videos, photos, details (2月24日付け EE Times)
→詳細briefingの一環として、新しいThunderbolt技術のデモが本日、Intelのcorporate headquarters(SANTA CLARA)にて行われ、800-Mbytes/secondに近づくデータ転送レートの旨。
◇映画も30秒で伝送、インテル高速規格、まずアップルに (2月25日付け 日経 電子版)
→米インテルが24日、パソコンや周辺機器などを接続してデータを高速伝送する技術、「サンダーボルト」を開発したと発表、現行技術「USB3.0」の2倍の速度、ハイビジョン画質の映画のデータを30秒以内で送れる旨。米アップルが同日発売したノートパソコンにこの新技術を採用、ほかのパソコンメーカーなどにも対応を働き掛ける旨。
HDD市場も2010年は最高の出荷台数を記録する一方、シェアランキングのトップがWestern Digitalに入れ替わっている。
【HDD市場】
◇Western Digital grabs disk drive lead (2月22日付け EE Times)
→The Information Network発。2010年のhard disk drive(HDD)市場は、17.1%増の653.5M台と最高を記録、Western Digital社が、長きにわたる市場リーダー、Seagate Technology plcに置き換わった旨。
・HDDメーカーの市場シェアデータ [Source:The Information Network]
Company | 2009 | 2010 |
Western Digital | 29.6% | 31.2% |
Seagate Tech | 31.4% | 29.9% |
Hitachi Global | 16.4% | 17.2% |
Toshiba/Fujitsu | 12.6% | 10.9% |
Samsung | 9.2% | 9.7% |
Others | 0.8% | 1.2% |
総計 | 558.3 M | 653.5 M |
買収関連記事も広がり、高まりを見せているが、CSRとヘッジファンドのZoran社を巡っての日替わりの応酬の様相である。
【買収入札の応酬】
◇CSR to buy Zoran for $679 million (2月20日付け EE Times)
→wireless connectivityおよびlocation半導体サプライヤ、CSR plc(英国)が、imagingおよびvideo半導体のZoran社(米国)を$679Mで買収合意の旨。
◇Hedge fund says CSR deal undervalues Zoran (2月22日付け EE Times)
◇Zoran fires back at hedge fund (2月23日付け EE Times)
◇Firm: Kick out Zoran's board (2月24日付け EE Times)
≪グローバル雑学王−138≫
新興経済圏の急拡大による貧富格差がさらに深刻度を高めている貧困問題であるが、貧困率の世界の実態に
『世界の国 1位と最下位 −国際情勢の基礎を知ろう−』
(眞 淳平 著:岩波ジュニア新書 664)…2010年9月17日 第1刷 発行
より焦点を当ててみる。平均寿命はじめ世界で最も優位にあるというイメージが先行してしまう我が国であるが、今後深刻になる可能性を示す切り口のデータが出てくる。
第III部 社会
第7章 貧困率
□世界でもっとも貧しい国
・一人当たりGDP 最少 →アフリカのブルンジ:約1万400円(2007年)
最大 →ルクセンブルク:約930万円
(『世界国勢図会2009/2010年版』)
⇒なんと約900倍
・世界最貧国は、南アジアや中南米の一部などとともに、「アフリカ・サハラ以南の国」地域に特に集中
□一日二ドル未満で生活している人々の割合
・「一日二ドル未満」の人々の割合
(世界銀行発行「World Development Indicators 2008」)
→最大 →タンザニア 96.6%
その次 →リベリア 94.8%
・この割合が60%を越える国 →世界に38カ国
→うち29カ国がアフリカの国
(すべてサハラ以南の国)
□「国内貧困線以下」の人々の割合
・「国内貧困線以下(未満)の生活者割合」
→国ごとの経済状況を考えた上での、その国の貧困者の割合
→最大 →コンゴ民主共和国、マダガスカル 71.3%
・例えば、コンゴ
→文字が読めない人 …約33%
安全な水を1km以内で得られない人 …54%
子どもが満5才になる前に死亡する割合 …1000人中205人
栄養不良に陥っている人 …74%
家にトイレがある人 …30%
□人間開発指数
・「人間開発指数」…「国連開発計画」(UNDP)発表
→長命で健康な生活、知識、人間らしい生活水準、という3点の平均達成度
→最低 →アフリカのニジェール
・貧困率がもっとも高い国は、アフリカ・サハラ以南の国々が多くを占めるのではないか
□後発発展途上国
・「後発発展途上国」…国連がさまざまな指標を総合、もっとも開発の必要があるとする49カ国
→アジア 9カ国
大洋州 5カ国
中米 ハイチ1カ国
アフリカ諸国 残る34カ国
・「最底辺の10億人」…Oxford大学ポール・コリアー教授による58カ国
→「後発発展途上国」49カ国と多くが重なる
・「発展途上国」のうち
→「新興国」は急速な経済成長
→「最底辺の10億人」の多くは経済成長の波に乗れる可能性が低い
□植民地支配とゆがんだ経済構造
・アフリカ・サハラ以南の国々、なぜ多くの国民が貧困に苦しんでいる?
→欧米の植民地支配
→特定の農業製品や天然資源などに依存する経済構造
→「自由貿易」の進展が、最貧国の経済に深刻な影響
…安い輸入品との競争による打撃
□四種類のわな
・上記のコリアー教授:最貧国が陥っている四つの「わな」
→「紛争のわな」
*「内戦」によってその国の経済が破壊
「天然資源のわな」
*多くの民族から構成、かつ独裁制
*多様な製品やサービスに活用されない
「内陸国のわな」
*輸出品を船で運ぶ場合、港までの輸送費が高い
「小国における悪いガバナンスのわな」
*政府の誤った政策、「腐敗」
□巨額の債務
・「ジュビリー2000」…先進国に対して、最貧国などの債務の帳消しを求める世界的な運動
・最貧国の巨額の債務 →先進国に突きつけられた21世紀の大きな課題
□マイクロファイナンス
・融資制度「マイクロファイナンス」
…貧困に苦しんでいる人々に対して、無担保で少額の資金を貸し出す制度
→現在、合計130カ国以上の国で実施
・例:バングラデシュの「グラミン銀行」…2006年のノーベル平和賞受賞
□グラミン銀行
・最大融資額は、160万タカ(約220万円)
・働き手としての女性のまじめさに注目、融資先の97%が女性
・資金の返済率は2009年4月までの数字で、97.94%と高率
□効果的な投資による援助
・2025年までに最貧国をなくすことが可能、という研究
→アメリカ・コロンビア大学のジェフリー・サックス教授
⇒次の4種類の投資を効果的に実施すること
第一: 農業の生産性を上げるための投資
第二: 公共医療を整備するための投資
例:伝染病のマラリア
□教育や基幹インフラへの投資
第三: 教育に対する投資
第四: 基幹インフラの建設に向けた投資
□最貧国を救うための費用
・「国連ミレニアム・プロジェクト」という行動計画
…上記のサックス教授ら
→援助国の年間総所得の0.7%を、2025年までの間、毎年支援にあてること
⇒すべての国が最貧国を抜け出すことができる
□相対的貧困率が低い国
・「相対的貧困率」…その国の所得分布における「中央値」の50%に満たない人々の割合を示した数値
※「中央値」:ちょうど全体の中間にあたる人の所得
→2005年時点、最も低い国はスウェーデンとデンマークで5.3%
…国内の経済格差を低くするような社会的な仕組み整備
□日本の相対的貧困率
・日本の相対的貧困率 →2005年の数字で14.9%
⇒今や、国内での経済格差が広がり、貧困層と呼ばれる人々の割合が、7人にひとり以上という状況
…これからどう変えていくのか。今後考えなければならない深刻な問題