Semiconductor Portal

HOME » ブログ » インサイダーズ » 長見晃の海外トピックス

技術の優位性を世界に出て訴えるモチベーション醸成が急務

アジアはじめ新興経済圏の熱気が、世界的な市場の鈍化基調が増すなか依然続いており、その覇権を競う闘いの様相が最近富に伝えられている感じ方がある。一方、最近、モバイル技術、先端リソ技術を巡る知的所有権の係争が、最大手プレーヤーが入り混じる格好で激しさを増してきている。我々、我が国もこのような競争に打ち勝つよう、主として国内大手プレーヤーはじめ連携に成る技術の優位性を世界に働きかけていくことの重みがますます増してきている現状と思う。

≪アジアの燃える勢い≫

中国の世界経済を引っ張る現状が、引き続き次の通り表われている。

◇中国、1-10月貿易額が昨年の年間合計を上回る(11月17日付け 13億人の経済ニュース[biglobe配信])
→1-10月期の輸出額、輸入額と輸出入増額のいずれもが昨年の年間合計額を上回った。今年の中国の年間輸出入総額は2008年の過去最高記録を塗り替える見通しとなっている。

◇中国、1-9月輸出額で世界トップに(11月18日付け 13億人の経済ニュース[biglobe配信])
→世界貿易機関(WTO)がこのほど発表した統計データによると、中国の1-9月輸出額はドイツを大きく上回り、世界トップに躍り出た。

まさに燃える勢いの代表格となっているが、急拡大するアジア経済を取り上げるNHKテレビの番組が続いて、それぞれに実態を再認識させられている。
インターネットからの解説記事を入れて表わすと次の通りである。

中国、インドときて、次はインドネシアかと感じさせられた以下の内容である。イスラムの価値観、考え方など現実の壁を感じさせられており、それをも乗り越える闘いが求められていると思う。

○灼熱アジア 第3回  インドネシア 巨大イスラム市場をねらえ(2010年11月13日 NHK総合テレビ)

・今インドネシアは、「黄金の成長期」と呼ばれる繁栄を謳歌。その原動力となっているのが、貧困から抜け出した8千万人という巨大な中間層の購買力。
・日本のメガバンクはこれまで、進出してきた日本企業相手に融資をしていればビジネスは安泰だったが、ここに来て地元企業へ融資が急増。また大手商社はバイクメーカーと手を組み、インドネシア全土でオートバイローンを展開、庶民に深く食い込み、成功を収めている。
・世界最大のイスラム教徒を抱えるインドネシア。全くの異文化に飛び込んだ日本企業が繰り広げる闘いに完全密着。

環境発電(energy harvesting:人間の行動あるいは環境のなかから集めるエネルギー)という用語を新たに認識させられた小生の現時点であるが、環境を巡るビジネス獲得の闘いに注目させられた以下の内容である。初期からいろいろ多くの段階があるものと思うが、当面は深刻な汚染浄化除去とされている。韓国・環境省の中国側に入れ替わり立ち替わりまめに売り込むアプローチに特に驚かされている。 

○灼熱アジア 第4回  日韓中 緑色戦争(2010年11月14日 NHK総合テレビ)

・激烈な工業化で世界最大の汚染発生源ともなった中国を舞台に、将来の80兆円市場と言われるグリーンビジネス(環境ビジネス)の主導権を争う“緑色戦争”の火ぶた
・先陣を切ったのは、半導体、液晶と、日本から次々に盟主の座を奪った韓国。今年は、大気汚染防止装置を開発するジェイテックが、深刻な汚染問題を抱える炭鉱地帯に進出。
・日本メーカーの例:排水処理装置を売り込む大和化学工業は、自前での生産をあきらめ、装置技術を中国企業に開示して生産を委託、決死のビジネスモデル大転換を図る。今度はそこに環境技術育成を狙う中国の思惑が複雑に絡む。
・国ぐるみで海外進出を狙う韓国、技術の優位性を活かしたい日本。次世代環境技術の世界標準を決する戦場と化したアジアを舞台に、日韓中の攻防を追う。

韓国の徹底したマーケティング活動がさらに出てきて、東方神起、最近では女性グループの「少女時代」、「KARA」などアイドルも、三星など大手エレクトロニクスメーカーの販促活動に現れており、以下の内容である。まさに国家総動員での先端技術の売り込みに徹した取り組みというものを強烈に感じており、我々も安住型ではこの先どうなるか、そういう思い、感じ方が増してくるところがある。

○NHKクローズアップ現代  韓国アイドル日本上陸舞台裏(2010年11月16日 NHK総合テレビ)

・「韓国アイドルK-POP」旋風が日本だけでなくアジア全域を席巻。
・K-POPの強さの背景には、ディジタル時代に対応し巨大企業化した芸能プロとコンテンツを家電などと並ぶ輸出産業の柱と位置づける韓国の国家戦略がある。育てあげられたK-POPのアーティストたちは、音楽シーンで活躍するだけではなく、他の産業と結びつき、経済をも牽引しようとしている。
・「S.M.エンタテインメント」は、世界各地でグローバルオーディションを実施して年間10万人を審査、合格者は数人、オーディションに合格した練習生はディジタル時代に必須のライブパフォーマンスを徹底的に身につけるため、デビューまで1日5時間の練習を最高で7年間、8400時間も積み、デビュー間近には、語学研修などの現地化教育を行い、デビューする国を決めるという。
・海外展開が遅れている日本も経済産業省内にクール・ジャパン室を設け、欧米で評価が高いアニソン(アニメソング)など文化コンテンツをビジネスに展開していこうと動き始めている。
・「長期的に続く基盤作り・人材育成・海外への積極的な情報発信の3点が大切」(慶應義塾大学教授 中村伊知哉氏)


≪市場実態PickUp≫

中国の勢いは、スーパーコンピュータでも凌駕するところとなっている。やはり1番でなければ、と改めてである。

【スーパーコン・ランキング】

◇China Grabs Supercomputing Leadership Spot in Latest Ranking of World's Top 500 Supercomputers (11月11日付け TOP500 SUPERCOMPUTER)
→世界で最も強力なスーパーコンピュータTOP500ランキング、第36版発。噂どおり第1位に中国のTianhe-1Aシステム(National Supercomputer Center[天津])、2.57 petaflop/s(quadrillions of calculations per second)の性能レベル達成の旨。

◇China expands presence on Top 500 list (11月14日付け EE Times)
→Top 500 supercomputersの最新ランキングにて、中国がNo.1の座を保っただけでなく、入る数も増えて今や世界で最も強力なコンピュータ42を擁し、フランス、ドイツ、日本および英国を上回り、米国に次ぐ2番目となっている旨。

◇中国製スパコン、初の世界一、1秒で計算2566兆回(11月15日付け asahi.com)
→中国製のスーパーコンピュータが、14日発表された計算速度の世界ランキング(年2回の「TOP500」)で、初めて世界一になった旨。中国国防科学技術大が開発した「天河1号」で、計算回数は毎秒2566兆回に達し、米国は2004年から守り続けた世界一の座を6年ぶりに明け渡した旨。
2位は米オークリッジ国立研究所の「ジャガー」(1759兆回)。中国科学院などが開発した「星雲」(1271兆回)が3位、東工大による「ツバメ2.0」(1192兆回)が4位、日本製がトップ10入りしたのは、東工大のスパコンが9位になった2006年11月以来、4年ぶりの旨。

computing性能については、exa-(1018)という用語にこれからは馴染んでいく必要がある。本当に頭の切り換えも忙しくなる昨今ではある。

【exascale】

◇Next computing target - exascale systems (11月15日付け EE Times)
→Defense Advanced Research Projects Agency(DARPA)のUbiquitous High Performance Computingプログラム発。2018年までにexascale-classシステムを目指して、エンジニアがcomputingの抜本的な転換シフトの探求、今日の最善の設計をもってしてもa quintillion(1018) instructions per secondを実行するには複雑かつパワーを喰い過ぎる旨。

◇Nvidia describes 10 teraflops processor (11月17日付け EE Times)
→Supercomputing 2010(11月13-19日:New Orleans, LA)にて、Nvidiaのchief scientist、Bill Dally氏が、exascaleコンピュータを動かす今後のグラフィックス半導体について。同氏はNvidiaのEchelonシステムを率いている旨。

冒頭にも触れたリソ技術を巡る特許係争の件、以下の通りである。New Mexico大が震源となっている。

【リソ特許係争】

◇University of New Mexico sues Intel (11月15日付け EE Times)
→University of New Mexico(UNM)の技術licensing部門が月曜15日、Intel社がdouble patterning lithography技術に関する同大保有の特許を侵害しているとして、米国連邦裁判所に提訴の旨。

◇University of New Mexico claims Intel infringes double-patterning litho patent-Following similar suits the university has filed against TSMC, Samsung, and Toshiba, the University of New Mexico's technology-transfer arm is claiming Intel is infringing its patent, "Method and Apparatus for Extending Spatial requencies in Photolithography Images."(11月16日付け Electronics Design, Strategy, News)
→University of New Mexicoの技術移転部門、STC.UNM(STC)の米国特許No. 6.042.998について抵触の旨。

◇TSMC resolves litho dispute (11月16日付け EE Times)
→TSMCが、University of New Mexico(UNM)の技術移転部門、STC.UNM (STC)とのリソ特許係争を決着させた旨。

半導体市場の景況感を率直に表わす指標の一つ、fab稼働率が、次の通りである。鈍化の空気が云々されるが、第三四半期までは高水準に留まっている状況である。

【ウェーハfabs稼働率】

◇Fab utilization near capacity in Q3 (11月16日付け EE Times)
→Semiconductor International Capacity Statistics(SICAS)発。IC業界鈍化の様相にも拘らず、2010年第三四半期の世界ウェーハfabs稼働率は95%であった旨。データ内容、次の通り:
         2010年第三四半期  2010年第二四半期  2009年第三四半期
 世界fabs全体   95%         95.6%          86.5%
  300-mm     97.2%        98.4%          96.1%
  200-mm     95.4%        94.6%          80.2%

どこまで当たるか、現時点の市場の見方の一つである。

【市場の見方】

◇Three good and bad signs in IC market (11月17日付け EE Times)
→現時点以下の市場の見方のVLSI Research社が挙げるgood and bad signs。
           2010年    2011年
 IC市場       32%増    8%増
 fabツール市場  103%増   10.6%増
good news or good signs:
 1. End-user demand
 2. NAND demand
 3. No news is good news
bad news or bad signs:
 1. Chips are down
 2. Foundry slowdown?
 3. DRAM downturn


≪グローバル雑学王−124≫

原油価格高騰の追い風、エネルギー分野での国家の主体性を明確にしたルール形成、そしてますます狭まってくる国家とビジネスの距離感を、

『ロシアの論理 −復活した大国は何を目指すか』(武田 善憲 著:中公新書 2068)
 …2010年8月25日 発行

より辿っていく。国家資本主義の色合いが濃くなるなかでの我が国のあり方を改めて考えている。


[(続き)第三章 経済・エネルギー −天然資源による国力増強]

3 プーチン政権二期目

○原油価格の高騰
・原油価格の未曾有の高騰が始まる2004年の初め
 →プーチンの二期目は、歴史的な原油価格に支えられた消費ブームの4年間
  →上昇する収入が、人々の消費欲を刺激
 ⇒石油・ガスを消費する国から流れてくる実態的な富が蓄積されていくプロセス
・大局的な視点から、プーチン・チームの対応はそれなりに堅実
 →2005年1月、対IMF債務を3年半前倒しして完済
 →安定化基金という形で準備高の蓄積を開始
  →2008年に6000億ドル近くに、日本及び中国に次いで世界3位

○サハリン2
・エネルギー分野で形成されていったゲームのルール
 →「天然資源は国家のものであり、それを発展のために活用する」
・サハリンの大陸棚における石油・ガスプロジェクト(「サハリン2」と呼ばれる鉱区)
 →生産物分与協定(PSA)によって採掘から販売までの権限を100%外国企業(ロイヤル・ダッチ・シェル、三井物産、三菱商事のコンソーシアム)に付与
・「外国企業が100%の権益を占める」というプロジェクトをロシアから消し、新しいゲームのルールを確立するための1件に
 →「サハリン2」をめぐる約2年間のごたごた

○エネルギーにおけるルール
・採掘権と税金によって国庫が潤うのであれば、外国企業に100%の権益を与えても構わないという発想は過去のものに
 ⇒ロシア領内にある限りはロシア企業が最低でも50%+1株を獲得するべき、それが可能なようにロシアの石油・ガス企業を強化していくべき
・「サハリン2」は、最終的に当事者間の合意によってロシアの国営企業であるガスプロムが50%+1株を獲得して決着
・外国企業の比率は最大でも50%−1株
 →ロシア企業(特に国営企業)と組んでいる限りにおいて、クレムリンの庇護…新しいゲームのルール

○ルールの明文化
・「サハリン2」一件落着 
 →2008年5月、「外資規制法」と「改正地下資源法」が施行
・「外資規制法」…戦略的分野として原子力
 「改正地下資源法」…「戦略的鉱区」の定義

4 メドヴェージェフ政権=「フェーズ2」

○石油・ガス依存の露呈
・国際金融危機から、原油価格は2008年夏の最高値(1バレル139.5ドル)から70%も下落
 →ロシア経済が如何に石油・ガスに依存しているかを客観的に証明
 →2004年から2008年に行った以上に富の配分を適切な形で

○オリガルヒを叱責
・プーチンは、2009年7月、オリガルヒに対して激しい怒り
・適切な蓄積と配分 ⇒国民生活の向上を通じたロシアの強化

5 国家とビジネスとの距離

○大統領府審査局
・大統領府の中で社会経済分野の業務を一手に引き受けているのが、大統領府審査局
・審査局の「審査」は、英語ではcontrol。「管理」が適当か。
・実際の業務は、複数の省庁にまたがるような社会経済案件についての政策立案や調整
・国家の社会経済発展にとって死活的に重要な計画に話が及んだ場合、結局、大統領府審査局が明に暗に役割を果たすことに
・アルカディー・ドヴォルコヴィチが、社会経済政策上のキーパーソン
 →メドヴェージェフが大統領になると経済担当の補佐官に昇格

○二つの大規模プロジェクト
・大統領府審査局が信頼を得ていく過程で重要な転機
 →「優先的国家プロジェクト」を全面的に担当
 →2006年にロシアが初めて経験したG8議長国としての任務を遂行
・社会経済分野の省庁横断的な重要政策
 →大統領府審査局の主たる業務に

○国家資本主義
・国家とビジネスの距離が近いことから生じる国家資本主義的な流れ
 →近年の国際政治経済に広く見られる現象
 →企業の戦略的な決定に国益や外交上の目的が色濃く反映
・クレムリン、首相府、政府の中枢
 →ほぼ例外なく何らかの企業の取締役会メンバー
・国家の戦略的利益に合致した企業活動 …ゲームのルール

○経済における国家の役割  
・経済における国家の役割が徐々に減少するべき …漸進的改革の意向
 ガスプロムとロスネフチを頂点として、天然資源を最大限活用して国益を追求する方向性
 ⇒別の「戦略的」な分野
 (注) ガスプロム…世界最大の天然ガス会社
   ロスネフチ…ロシア最大の石油会社

ご意見・ご感想