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科学技術の土台強化の一方、材料資源確保に向けた攻防

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ここ数年、新興経済圏が急速に伸びる一方で、先進経済圏の国・地域では産業競争力の一層の基盤強化が求められ、そのために今後に向けて最先端および新分野を切り開く科学技術力を高めようというイニシアティブ活動が米国をはじめとして展開されている。ここにきて、レアアース、生物資源など将来を支える材料資源を巡って、グローバルな話し合い、攻防が相次いでおり、半導体・デバイス業界を見る目から関連する動きを追ってみる。

≪打開アプローチと現実≫

米国ではscience, technology, engineering and math(STEM)という表記が出てくるが、幅広くそれぞれの分野での成果を称えるイベントが、首都ワシントンD.C.で展開されている、とのことである。半導体業界の米SIAが、これを歓迎するメッセージを出している。そのホームページにて競争力強化の必要性を訴えるキャンペーンをここ数年展開してきており、当然の反応であると思う。

◇SIA Applauds White House Science Fair(10月18日付け SIA Press Release)
→Semiconductor Industry Association(SIA)が本日、Obama大統領がWhite House Science Fairを主催、広範なscience, technology, engineering and math(STEM)の競争winnersを祝福することを賞賛の旨。

この首都でのイベントは、次の運びとなっている。

◇Washington gears up for science, tech fest (10月18日付け EE Times)
→Obama政権が、次世代のアメリカのエンジニアを念頭に昨年打ち上げた教育キャンペーンを拡大しており、月曜18日にWhite House Science FairをWASHINGTONにてキックオフ、この週末のNational MallでのUSA Science and Technology Festivalで最高潮を迎える旨。

そんなことをやるのか、というどこででもある冷めた反応も見られている。

◇Have you heard of the USA Science and Engineering Festival Expo?(10月18日付け Electronics Design, Strategy, News)

とにかくやらなければならない、というObama大統領のメッセージである。

◇Obama: Students, 'explore'; engineers, 'mentor'(10月21日付け EE Times)
→米国Science & Engineering Festival開会への準備に向けて、Obama大統領が、米国は科学技術インフラの復活を求めており、学生たちに"探求し続ける"よう、エンジニアたちに"若者を指導する"よう、激励している旨。

問題は受け止める側であるが、実態として次のような反応が見られている。
先端を切り開いていって、それが具体的な売上げの伸びに見えてくる、という半導体の醍醐味を感じた一人としては、あの熱気を次の世代にと思わざるを得ないが、まだまだモチベーションを高めるべき現実の実態ということと思う。

◇Engineering: The next generation (10月20日付け EE Times)
→エンジニアである読者から、自分の息子、娘たちにこの職に入ることを思いとどまらせようとしている話をしばしば聞く。理由はいろいろあるが、globalizationの急展開からエンジニアとしてキャリアを積むこと、まして生計を立てることが不可能になってきている、という結論にほとんど達しているとのことである。これは悲しい事態である。・・・・・

上記のSTEMに通じる響きを感じるところがあるが、韓国からは就職競争に勝ち残るための"SPEC"という表現を耳にすることがある。我々、半導体業界でも用いる製品スペック、specificationからきているとのこと、単位資格証などの就職条件とのことである。学科の高い点数単位、TOEICに加えて、インターン、資格証明、アルバイト、公募展、奉仕活動という『就職5種セット』を対象にそのポイントを積算して、総体的労働能力の認証指標として使われる、とある。韓国からの若い人々のTOEIC点数の高さに注目せざるを得なかったことが何度かあるが、この状況から肯けることではある。

これも競争力を高める非常に実効的なやり方ということと思うが、どこででもある冷めた反応が出てくるというのが人情であり、韓国内でいろいろ論議を呼んでいるようである。

それでは我が国はどうか?ノーベル賞で元気をもらったのを契機に、あの熱気に向けたモチベーションを盛り上げるインフラ基盤の充実、高度化をと、心底望むところである。

材料資源については、米国consumerエレクトロニクス業界からは自らへのはね返りから、中国叩きもいい加減にと訴えるメッセージである。

◇Stop bashing China, CEA chief tells politicians(10月19日付け EE Times)
→Consumer Electronics Association(CEA)のpresident、Gary Shapiro氏のCEA政策方針についての年次演説。現在の米国選挙で相争っている民主党と共和党は、中国叩きはやめてさらに通商自由化法制を進める必要がある旨。

ときに米国は中間選挙を控えており、レアアースが論点材料に浮上してきている。

◇Opinion: The rare earth challenge (10月19日付け EE Times)
→米国の選挙の時節、中国が希土類材料生産の96.8%を占めている事実が、北京を神経質な政治家たちの容易いターゲットにしている旨。

このレアアース、我が国では中国への依存を減らしていく取り組みが前面に出てきている。以下の記事は、dysprosium(ジスプロシウム…最も磁性の強い希元素の一つ:Dy)を使わないで済むようなR&D投資など3段階のto-do list for Japanを提唱する内容である。

◇Opinion: Japan's three-step plan to depend less on China(10月20日付け EE Times)

いろいろ波紋が広がる中国との関係であるが、レアアースについての我が国に対する実態は次の通りとなっている。

◇レアアース輸入停滞、中国側が契約破棄、他国経由も拒否(10月21日付け asahi.com)
→ハイブリッド車(HV)や省エネ家電づくりに欠かせないレアアース(希土類)の取引を、中国企業側から一方的に破棄される日本企業が出ていることが20日、分かった旨。9月下旬以降、レアアースを扱う日本企業30社のうち中国から輸入できたのは2社だけ、民間の試算では、日本は来年、必要量の3割に当たる1万トンのレアアースが不足する見通しの旨。

生物多様性の議論が並行して進んでいるが、ともに実態をよくつかんで冷静な対応がなにより、それと継続的に取り組んでいくことと思う。


≪市場実態PickUp≫

アップルのiPadについて、具体的な市場数値インパクトが次のように表わされている。

【tablet型コンピュータ】

◇Gartner: iPad pushes tablet computer sales (10月18日付け EE Times)
→Gartner社(Stamford, Connecticut)発。tabletコンピュータの世界販売台数について、次のように非常に大きな伸びを見込む旨。
 2010年  2011年  2012年  2013年  2014年
 19.5M   54.8M  103M   153M   208M 台

◇ISuppli again boosts iPad sales forecast (10月20日付け EE Times)
→iSuppli社(El Segundo, Calif.)のApple社のiPad出荷予測台数の更新:
     2010年  2011年  2012年
 今回  13.8M   43.7M   63.3M
 前回  12.9M   36.5M   50.4M

インテルが米国に新fab建設という噂が浮上した同じ日に、その通りの正式発表が行われたという以下の内容である。それこそ先端技術を引っ張る歓迎すべき動きと思うが、450-mmウェーハは如何と考え巡らすところもある。

【Intelの新しい開発fab】

◇Report: Intel to announce new fab (10月19日付け EE Times)
→Intel社が新しいfabを建設するという報道が火曜19日表面化、The Oregonianによるとその新fabはOregonに位置する旨。

◇Intel announces $6-$8B US manufacturing expansion for 22-nm-The investment will fund a new development fab in Oregon, as well as upgrades to four existing fabs to manufacture 22-nm process technology. The move is also expected to create 800 to 1,000 new high-tech jobs.(10月19日付け Electronics Design, Strategy, News)
→Intel社が本日、Oregonに新しい開発fabを建設するとともに、現在の米国4工場にわたって22-nm製造プロセスを運用するために、$6B〜$8Bを投資する旨。
Intelの新しい開発fab、"D1X"はHillsboro, Oregonの同社Ronler Acres Campusに置き、2013年にR&Dスタート予定の旨。アップグレードは、ArizonaのFab 12およびFab 32、OregonのD1CおよびD1Dについて計画の旨。

前半の活況からパソコン販売はじめ需要の鈍化が伝えられる今年後半の半導体市場であるが、以下の通り関連する動き、見方の連鎖となっている。

【市場軟化の見方】

◇Analysts fret over FPGA lead times (10月20日付け EE Times)
→programmable logic市場の約85%をいっしょに占めるXilinx社とAltera社、何ヶ月にも及ぶ高い需要を経て製品リードタイムが短くなってきており、アナリスト連は需要軟化の兆候と見ている旨。
両社のリードタイムの見方:
 Xilinx→10月2日締め四半期の間:12 weeks → 9 weeks
      年末までには      従来の正常な約4 weeksに 
 Altera→ピーク時の26 weeksから24 weeksに
      来年始めには通常の2-8 weeksに

◇VLSI's forecast dampens fab tool market (10月20日付け EE Times)
→VLSI Research社が市場予測を更新:
 IC市場  2010年  2011年
  今回  32%増   8%増
  前回  33.7%増   6.6%増
 半導体装置 ⇒変わらず
      103%増   10.6%増

◇Firm cuts capex forecast (10月21日付け EE Times)
→Arete Research LLCのアナリスト、Jagadish Iyer氏。DRAMsにおける急な低迷で2011年のcapital spending予測を下方修正、TSMCが新fab立ち上げを先延ばし、ファウンドリーもcapital spendingが低下する旨。

◇Fab tool book-to-bills fall (10月21日付け EE Times)
→Semiconductor Equipment Association of Japan(SEAJ)発。日本半導体装置メーカーの9月BB比1.14、8月の1.38から低下の旨。
SEMI発。北米半導体装置メーカーの9月BB比1.03、8月の1.17から低下の旨。

◇DRAM、1年ぶり安値、5月から3割下げ、パソコン需要低迷。(10月22日付け 日経)
→DRAMの取引価格が急落、1年ぶり安値となった旨。直近高値の5月から3割以上の下げ、米国などのパソコン需要が低迷する一方、韓国や台湾を中心とするメーカーが供給能力を増やしたための旨。


≪グローバル雑学王−120≫

今回からはロシアの考え方、やり方というものに若干なりとも触れていきたく思う。アメリカとともにもう一つの大国という位置付けがどうしても色濃く残るが、ここ10年くらいは原油高を背景に経済の伸びが目覚ましく、BRICsの一角として半導体・デバイス分野でも注目がますます高まっていく流れである。そんななか、

『ロシアの論理 −復活した大国は何を目指すか』(武田 善憲 著:中公新書 2068)
 …2010年8月25日 発行

という外務省の方の著書から、ロシアを見る焦点精度を今少し高めていきたく思う。


[序章 ロシアの見方]

・1991年にソ連が崩壊してから20年間、「弱いロシア」と「強いロシア」の両方の見え方
・ウラジーミル・プーチンが大統領になってからのロシア
 →GDPが、1999年の1870億ドルから2009年には1兆3000億ドルに成長
・この国は、プランとそれを実現するためのゲームのルールを持っている

○クレムリノロジーの限界
・クレムリノロジー(クレムリン学)
 →赤の広場で行われる革命記念日のパレードでの、ソ連共産党幹部の並び順の分析
・こういった手法を使っているジャーナリストや研究者の誰一人として、プーチンの後継者がメドヴェージェフであることを見抜けなかった

○ゲームのルール
・2008年5月、プーチンが首相に横滑り
 →この権力移譲の最大の特徴 
 …「プーチンのプラン」と名付けられたロシアの国家発展計画が完全に継承
・ルールを理解すること
 →正面から対峙し、文字通り「相互の利益」を最大化していくための基礎知識

○本書の構成
・第一章 …ロシア政治の基本的な仕組みを解説、どのようなゲームのルールに沿って政策が形成されていくのか
・第二章 …近年のロシア外交を検証 →自らの対外政策を「多極主義」と定義
・第三章 …経済・エネルギーにおけるゲームのルール
・第四章 …ロシア政府が国民生活を目に見える形で向上させながら、1990年代に経験した国家分裂の危機という悪夢を克服しようとしている姿
・本書に書かれている内容はすべて著者個人の意見

[第一章 内政 −与えられた職務に専念せよ]

・ロシアの内政関連年表抜粋:
 1991年12月: ソ連崩壊、ロシア連邦誕生。エリツィン初代大統領。
 2000年 5月: プーチンが第2代ロシア連邦大統領就任。
 2008年 5月: メドヴェージェフが第3代ロシア連邦大統領就任。プーチンが首相に。

1 権力の継承

・近年のロシア内政における最大のハイライト
 →プーチンからメドヴェージェフへの大統領職の継承

○独裁者プーチン?
・プーチンは、以下を繰り返しアピールするタイプの大統領
 −憲法が定めた制度が大統領としての行動原理
 −ルールや手続きに沿った統治
・同じサンクトペテルブルク(旧レニングラード)大学の法学部出身、メドヴェージェフにも脈々と
・憲法が定めた秩序に従って大統領職を去りつつも、自らが着手したロシアの長期発展計画の実現を赤の他人に委ねることはしない
 →たった一つの選択肢、メドヴェージェフへの大統領職の継承

○ロシア憲法
・ロシア憲法 →そもそも大統領に対して強大な権限
・新生ロシア →大統領の任期を4年とすると同時に、連続三選を認めないアメリカ型の基本構造を採用
・2008年11月14日、憲法が修正
 →大統領の任期が6年に延長
  …ロシアの長期発展計画を実践していくうえで当然の方策
・ロシア憲法の特徴の一つ
 →「政府」のトップは「政府の議長」、すなわち首相
 →その任免権は大統領に属する

2 大統領の権威

・プーチンが8年間の大統領在任期間に成し遂げた最も重要なこと
 →決定するのは大統領であるという、本来ならば当たり前のことを、ロシアの一般国民、エリート層、そして海外にも知らしめたこと
 →エリツィン時代には崩壊していたこの単純なルール
・大統領という業務に対して真剣に取り組む姿勢
 →国民からの支持を高めるにあたって効果抜群

○オリガルヒの排除
・プーチンが同時に進めたこと
 →政治に口出しをしようとする者たちの排除
  …エリツィン時代に権勢を誇った数名のオリガルヒの追放
  ※オリガルヒ…ソ連解体後、ロシアの資本主義化の過程で急激に富と権力を掌握した新興財閥
・大統領権威の圧倒的な優位という状況を導いた理由:
 第一: ロシア人の伝統的なメンタリティーが、権威に対する服従という政治的・社会的構造を生みやすい
 第二: プーチンが一つのスタンダードを確立した「国民との対話」の能力
 第三: 経済の好調により、人々が生活上の不満を政治に求めなくなった

○情報が漏れない
・プーチンが一人で決めていたのに対し、メドヴェージェフはプーチンとだけ相談して決めている
 →ロシアの政策決定過程を分析することは、事実上不可能に
・ロシアにとって最重要の決定は大統領が(現在は大統領と首相の二人で)下すというルールが完全に確立

○大統領府
・大統領府 …大統領の仕事をあらゆる面でサポートする機関
 →権限は強大
 →土曜日は当然に出勤、平日も多くの職員が深夜まで
 ⇒少数精鋭の戦闘集団
・大統領府の長官職
 →特に口の堅さが求められる
・歴代の長官
 アレクサンドル・ヴォローシン(エリツィン時代の末期〜プーチン時代の2003年秋)
 メドヴェージェフ
 セルゲイ・ソビャーニン・チュメニ(2005年11月〜)
 セルゲイ・ナルィシュキン(メドヴェージェフ就任後)
・大統領府には潤沢な数の有能なスタッフ
 →首相府幹部(首相、副首相など)と比較したときに決定的な違い
・プーチン直属の首相府スタッフだけで政策を実際に動かしていくことは困難
 →やはり大統領府の人的・組織的資源が不可欠

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