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グローバル経済の絶え間ない変化、動態バランスをどうとるか

グローバル経済を映し出す鏡の一つという感じ方がますます強くなっている半導体・デバイス業界である。世界経済フォーラムがこのほど発表した2010年版グローバル競争力レポートから、上記のタイトル表現をとっているが、まさに日々、刻々活動・変動しているグローバル経済をどう捉えて、半導体・デバイス市場で需給、マーケティング、製品開発などの舵をとっていくか、世界一体となって取り組む規模というものを改めて考えている。

≪国際競争力ランキングの維持向上≫

各国・地域の国際競争力をいろいろな切り口の指標からランキング評価する報告は他にもあって、必ずしも一律にはいかず、それぞれの個性、感じ方があるという理解であるが、世界経済フォーラムからの今回の発表は次の通りである。

◇日本の国際競争力、6位浮上…技術革新に高評価。(9月9日付け 読売)
→世界の政財界人らが集う「ダボス会議」を主宰する世界経済フォーラムが9日、各国・地域の国際競争力に関する2010年版の報告書を発表、主な順位、次の通り。

2009年 
 2010年
スイス
1位
1位
スウェーデン
2位
シンガポール
3位
3位
米国
2位
4位
日本
8位
6位
フィンランド
7位
デンマーク
9位
香港
11位
11位
英国
12位
台湾
12位
13位
韓国
19位
22位
中国
29位
27位
チリ
30位
インド
49位
51位
ブラジル
56位
58位

日本が浮上した理由について、同フォーラムは「技術革新などが高く評価された。巨額の財政赤字はマイナス材料で全体として競争力は向上してい ないが、他国も財政赤字が深刻で相対的に日本の順位が上がった」と説明した旨。

何か良いのか、悪いのか、こればかりは結果オーライとなかなかいかないところがあると思うが、我が国は技術&サービスのイノベーションがなによりの身上というのはその通りという受け取りである。今回の報告を中国ではどう表しているか、次のようになっている。

◇世界競争力レポート、1位スイス・中国は27位(9月10日付け 「人民網日本語版」)

→世界経済フォーラムが9日に発表した2010年版グローバル競争力レポートで、中国は継続的な競争力の上昇により、前回の29位から27位に順位を上げた。米国は前回トップの座を譲り渡たが、今回はさらに4位に落ち込んだ。

同レポートによると、アジアのいくつかの発達した経済体および発展中の経済体が好調で、シンガポールが3位、日本が6位、香港が11位につけて上位20カ国・地域入りした。

トップは前回に続きスイス、2位はスウェーデンだった。ある分析によると、米国にはますます深刻化するマクロ経済の不均衡という問題のほかにも、公共機関や民間機関の弱体化、米金融市場に対するぬぐい去れない懸念といった問題があり、これらが順位を4位に押し下げた原因だという。
英国の順位はここ数年低下を続けていたが、今回はひとつ順位をあげて12位になった。

注目すべき点は、北欧の国々が高い競争力を示したことで、トップのスウェーデンをはじめ、フィンランドは7位、デンマークは9位と、いずれも上位10カ国・地域入りした。南米ではチリの30位がトップだった。中東やアフリカからも数カ国が上位にランク入りした。

世界経済フォーラムの創始者・クラウス・シュワブ会長によると、今後の経済局面は絶え間ない変化と動態バランスをその特徴とする。将来に向け備えを十分にして経済を好調へと導くと同時に、政策決定者も当面の経済的課題に対処する方法を模索する努力をしなくてはならない。現在のようなグローバル経済の環境下で、各国は経済成長と発展を支える基本面を着実におさえることが必要だ。過去のどの時よりも、今このことが重要だという。

上記の記事の最後の下りは、今日の各国・地域のあり方を端的に表していると思う。モノを作っていなければ豊かになれるわけがない、知的財産、ノウハウもモノにして売れてなんぼ、という感じ方が、次の記事からますます強まるところがある。

◇豊かなアジア、1人当たりGDPで日本猛追−台湾、購買力平価ベースで日本抜く(9月5日付け 日経 電子版)
→「豊かさ」を示す1人当たりの国内総生産(GDP、購買力平価ベース)で、アジアの新興地域が日本を急速に追い上げている旨。台湾は2010年が約3万3800ドル(約287万円)と、日本を上回る見込み、韓国も10年間で約1.8倍に増え、日本の水準に迫る旨。生産性の高い製造業が立地するアジアの生活水準は大幅に向上している旨。

上記の中国からの記事では、北欧の国々の競争力が高く評価されており、フィンランドがその一つになっているが、そのフィンランドを代表するグローバル企業、携帯電話のノキアが、グローバルなトップ交代を行っている。スマートフォン市場での動き、このところの業績発表からなにがしかの予感めいたものはあったが、グローバルな競争力の維持、向上に欠かせなかった判断、動きということと思う。

◇ノキア社長退任、後任にMS幹部。(9月11日付け 朝日)
→ノキアが10日、オリペッカ・カラスブオ社長兼最高経営責任者(CEO)は今月下旬に退任、後任にマイクロソフト(MS)幹部のスティーブン・エロップ氏をあてる人事を発表の旨。ノキアはスマートフォン市場で後れをとっており、2010年4-6月期は大幅減益の旨。

次のAPの記事は、背景を細かく説明しており、要点と感じた部分を続けて抜き出している。

◇Nokia dumps CEO, turns to Microsoft exec-Nokia swaps veteran for Microsoft exec Stephen Elop as company chief amid stiff competition (9月10日付け Associated Press)
→Nokia社(Espoo near Helsinki)のCEOが、Olli-Pekka Kallasvuo氏からMicrosoftのexecutive、Stephen Elop氏(46才、カナダ人)に交代、競争の猛烈なsmart phone市場での失地回復を目指す旨。フィンランドの会社を
リードするのに北米のexecutiveが選ばれたことは、米国およびカナダの会社が電話事業をますます席巻している表われの旨。

*フィンランドの国を代表する1つと大方が考えるノキアが、ゴム靴生産からhandsets製造で世界をリードするまでに伸びた同社のトップに、フィンランド人以外を選んだのは初めてである。

*「ここフィンランドはノキアの本拠、自分の家であり、これからも引き続きそうである。同時に、フィンランドの会社である一方、グローバルな会社でもあり、世界中にノキアの従業員(〜13万人)、パートナーそして顧客がいる。」(Elop氏)

*フィンランドのMari Kiviniemi首相およびJyrki Katainen財務相は、ノキアが本社を動かす計画はないことに満足の意を表した。「ここでは培ったノウハウ、研究および製品開発があり、また統合され安定した社会が提示される。」(Kiviniemi首相)

*ノキアは、その小国のgross domestic productの1.5%を占め、530万人の同国で約60,000の雇用を作っている。

*2回のprofit warningsを経て今年ノキア株は20%以上下げて、ノキアのベテラン、Kallasvuo氏はさらに追い込まれ、同社を携帯電話の国際的リーダーに仕立てたchairman of the boardで前CEOのJorma Ollila氏は、Elop氏こそソフトウェアに強く変化のマネジメントに打ってつけ、と言っている。

*high-end phonesでは、ハードウェアは均一になってきており、ソフトウェアがますます差別化の要素となっている。

早速に同社が直面する課題を取り上げた記事が見られる。

◇Analyst: Five challenges for new Nokia CEO (9月10日付け EE Times)
→Forward ConceptsのSatish Menon氏。Nokia社の新しいpresident and chief executive、Stephen Elopに直面する5つの課題。同社はもっと俊敏になって、ハイエンドsmartphones、アプリ・プロセッサ、app storeおよび米国事業に重点をし直す必要がある旨。


≪市場実態PickUp≫

process design kit(PDK)の連合に加盟が進む動きとその連合とCadenceが対抗する応酬合戦が並行している。

【PDKを巡る動き】

◇Altera, ST join PDK group (9月5日付け EE Times)
→Interoperable PDK Libraries Alliance(IPL)の新メンバーとして、Altera社およびSTMicroelectronics社の2社が入っている旨。

◇Tanner EDA joins PDK group (9月8日付け EE Times)
→Tanner EDAが、interoperable process design kit(iPDK)標準を展開するために設立された大手EDAおよびファウンドリーメーカーから構成される業界団体、IPL Allianceに参画する旨。

◇War of words erupts in rival PDK camps (9月10日付け EE Times)
→Cadence Design Systems社とライバルのInteroperable PDK Libraries(IPL) Allianceの間で論争が起きており、IPLの技術についてCadenceが根拠のないメッセージを出しているとIPLが言えば、Cadenceは正当なものと応酬している旨。

国際的に圧倒的な優位からの失地回復を目指すノキアを上記に取り上げたが、携帯電話でのもう一つの鬩ぎ合いが以下の通りである。

【熾烈な競い合い】

◇Apple to take bite out of Moto (9月7日付け EE Times)
→ここのところの赤字およびシェア低下から、Motorola社のhandset部門が戻してきており、同社のAndroid-ベースhandsetライン, Droid XがVerizonで大ヒットの様相の旨。しかし2011年始めには、Apple社がVerizon向けに新しいiPhoneを打ち上げる予定の旨。

製造装置、工場建設など半導体fab関係の市場の今後の見方であるが、来年についてはこのところの慎重な気分が強まってきている。

【半導体fab市場予測】

◇SEMI: 150 fab projects to drive spending in 2010, 2011(9月7日付け EE Times)
→SEMIのWorld Fab Forecast発。以下の見通しの旨。
                   2010年   2011年
 front endウェーハfab装置spending  133%増   18%増
 fab建設spending          125%増   22%増

◇Firm sees capex downturn in 2011 (9月7日付け EE Times)
→Barclays Capitalのアナリスト、C.J. Muse氏。fab tool市場について以下の見方。
 2010年    2011年予測
       前回   今回
 $43.2B
 97%増   20%増  10%減
2011年のcapexについては-20%〜+20%の範囲が見えるが、今回は慎重に見ている旨。ファウンドリーおよびDRAMでの弱含みの様相を反映の旨。

いろいろな市場の事情が絡んでいる様相が浮かぶが、煽りを食っている以下の状況と思われる。 

【先端装置の不足】

◇Taiwan DRAM makers hampered by immersion scanner shortage(9月8日付け DIGITIMES)
→ASMLのNXT:1950iが不足する事態、台湾のDRAMメーカーのいくつかへはその装置の出荷がさらに12ヶ月得られず、38-nm以降のプロセス移行を妨げている旨。 

ARMから発表された高性能computingに向けたプロセッサ、今後に注目である。     

【ARMのCortex-A15 'Eagle'プロセッサ】

◇ARM, in servers push, describes the Cortex A-15 CPU(9月9日付け EE Times)
→ARM Ltd.が水曜8日夕、SAN FRANCISCOにて、2.5GHz Cortex A-15プロセッサを披露、高性能computingへの積極的であるがリスクもある動きについて広範な概要を説明の旨。

◇VirtualLogix shows TI support for A15 hypervisor(9月9日付け EE Times)
→VirtualLogix社(Red Bend Softwareが買収、現在はその傘下)が、同社VLX virtualizationソフトウェアをCortex A15プロセッサコア(以前のEagle)に統合できる旨。virtualizationはA15の大きな呼び物であるが、hypervisorソフトウェアを必要としている旨。

◇Opinion: Power imperative favors ARM's client-to-server play(9月10日付け EE Times)
→ARMから発表されたCortex-A15 'Eagle'プロセッサは、次世代モバイルclientsでの位置付けを確保、ライバルたちを相手取っていくつかのhigh-marginアプリに食い込んでいくのに同社の助けとなる旨。


≪グローバル雑学王−114≫

あの9・11事件も十年一昔前近くになったが、生々しくテレビ画面に釘付けになった強烈な瞬間が依然と脳裏を横切ることが今なおある。イラク、アフガニスタンでの戦闘、テロが日々の紙面を占め続けている一方、湾岸産油国の世界の目を奪う栄華、繁栄ぶりがここ数年突出しており、なかなか理解し難いところを埋めるべく、本欄でもイスラム教の世界に少しでも馴染んでいく試みを過去に取り上げている。こんどは、

『<中東>の考え方』(酒井 啓子 著:講談社現代新書 2053) …2010年5月20日 第1刷発行

より、「中東」のものの考え方、その深層にできるだけ迫っていく期待で読み進めていきたく思う。


≪プロローグ≫

○なぜ中東情勢はわかりにくいのか?
・9・11事件もイラク戦争も、ほとぼりが醒めると、すっかり過去の出来事のよう。
・報道も減り、断片的な情報、ますます「よくわからない」

○なぜ「中東」とくくるのか?
・それぞれの国、その根底に、この「中東」という地域が抱える共通の問題、共通のものの見方
・なぜ事件や運動が国境を越えて連鎖?
 →同じ課題に直面し、似たような経験

○「中東」は欧米が導入した言葉
・「中東」という言葉 
 …そこに住む人たちにとっては、実体意識の薄い概念
・中東出身の人たちは、「中東」と呼ばれることを、あまり快く思わない。
・では、どのようなまとまりのなかに、自分たちの暮らす国を位置付ける?
 →その模索自体が、この地域の複雑さと流動性を生み出している

○「神様」や文化の違い?
・中東の事件の多く
 →宗教や独特の文化や慣習など、日本とは全く違う社会であるせいでコトが複雑に
・最初から後景に追いやってしまっては、「わかる」もへったくれもない
 …著者のモヤモヤ

○世界のど真ん中で
・本書が当てる焦点:
 →中東がいかに世界のど真ん中で政治に振り回されてきたか
 →世界で起きているさまざまなこととつながり連動してきたか
・中東 …最初から国際政治のダイナミズムのど真ん中に作られ、そのダイナミズムのなかでどう生き延び、逆にそれをどう利用していくか、という試練にさらされてきた地域
・中東現代史は、もうひとつの国際政治史
 ⇒ 大国がさまざまな「大きな政治」を展開 
  →中東で起きたことは常にそのツケ

○本書の目的と構成
・「中東」という地域が抱えている問題はいったい何なのか、明らかにすること
 その原因を近現代の国際政治のなかに位置付けること
 中東の指導者たちの巧みな処世術の解明
 中東の市井の人々が感じ、目指すもの
・広大な中東の土地で、過去数世紀の間に繰り広げられた世界の動乱を俯瞰する、駆け足の旅の一助に

[第1章 石油の海に浮かぶ国々]

○オイル・マネーが生んだ摩天楼
・高さ800m超、2010年4月現在世界一のブルジュ・ドバイ(ドバイの塔)
・2009年末、世界経済に激震を走らせた「ドバイ・ショック」
 →ブルジュ・ドバイも、「ショック」救済に乗り出した首長の名を冠した「ブルジュ・ハリーファ」に名前を変更
・富と紛争が併存する中東の、シュールな現実

○最初の中東体験
・小さな漁村だったドバイ
 →華やかな摩天楼がこの地に現れたのは、ようやく21世紀に入ってから
 ⇒9・11事件の「副産物」
  …アラブ諸国のオイル・マネーは、欧米諸国に対する投資を手控え、ドバイにつぎ込まれた

○世界の動乱の鏡
・「中東」と呼ばれる地域全体が、世界の動乱を映し出す鏡
・9・11事件
 →現在の中東、あるいはイスラーム社会と国際社会の関係を決定的に変えた転換点
・さらに、2007〜2008年の石油価格高騰
 →中東の湾岸産油国全体に、バブル景気
・中東、特にペルシア湾岸の産油国は、過去500年の世界の歴史の大きなうねりのなかで生まれた地域

1 大英帝国の遺産「湾岸首長国」

○「中東」はいつできたか
・大英帝国がそのアジア進出の過程でこの地域をMiddle Eastと呼んだ、その直訳から「中東」
・ヨーロッパの世界戦略の過程から、「中東」「近東」「極東(Far East)」
 …ヨーロッパに隣接する、つながる「異国」という意味合い
・インド、パキスタン、バングラデシュ
 →第二次世界大戦が終わるまで英領、「異国」ではなかった
・16世紀、オスマン帝国華やかなりし時代、ヨーロッパの植民地勢力は、オスマン帝国の領域を回避しなければならなかった
・17世紀にはペルシア湾は「オランダの海」、19世紀には「イギリスの湖」に

○大英帝国、部族長と手を結ぶ
・アラブ首長国連邦 
 …1971年の独立前、「休戦海岸」と呼ばれ、イギリスによる休戦協定に基づいて成立した国、という意
・1899年に大英帝国の保護下に入ったクウェートも同じパターン

○砲艦外交
・大英帝国のアラビア半島諸部族の取り込み …砲艦外交といえるもの
 →縦横無尽にアラビア海を駆け巡るカワーシム部族の船を「海賊」と非難
 →「海賊海岸」という名前も
  …地場勢力を「海賊」と悪者に、自国の利権拡大を正当化
・大英帝国がオマーン帝国に課した「罪状」 →「奴隷交易」
→オマーン帝国は急速に衰退

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