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驚かされる変貌ぶり、燃え盛るアジア諸国の経済

中国にばかりどうしても目が行きがちになるこのところであるが、FTA(自由貿易協定)の運用が本格化して、タイの貿易の大変な活況ぶりに気づかされている。ASEAN諸国でも、中国と同様に経済回復を製造だけで支えるのではなく、消費する市場の方の拡大もすぐに伴なってきたという受け止めである。欧州でも、輸出を引っ張るドイツの経済拡大が目立っており、市場に向けたものづくりの基本的意味合いを改めて考えるところである。

≪肌身に感じる世界経済の動き≫

数ヶ月前のシンガポールの馴染みからのEメールに、同国の経済は活況、半導体もその通りで仕事探しは日本よりもこちらがよい、という感じ方とのこと。ここらは現地に行って昔との比較を体感してみなければ、と思っていたら、この前の日曜晩のNHKテレビの番組でタイの経済の現状が生々しく目に入ってきた。小生はタイには10年くらい前に2度、仕事で訪問したことがあり、同じ工業団地内の日系メーカーの多さが印象に残っている。あの感じの良い微笑みの国の最近の政治の混乱には辟易感すらあったが、なんのその経済についてはまったく別次元、別世界の様相を感じさせられている。この番組についてのインターネット記事、そして小生のメモを合わせて、以下の理解である。

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◇NHKスペシャル 「灼熱アジア」シリーズ 第1回
『タイ "脱日入亜" 日本企業の試練』

・関税のない経済圏として世界の注目を集めているASEANから、製造業の中心基地タイを取り上げる。

・タイの輸出、この5年間で1.5倍に

・タイをはじめとしたアジア諸国では、中間層が台頭、自動車が売れまくっている(日本では若者に自動車が売れていないから様相逆転)。

・タイは日本の製造業が工場を移転してきた過去があり、日本譲りの技術力がある。

・タイと日本の主客関係が逆転。タイの部品製造メーカー、タイサミットが日本の部品製造メーカーオギワラを買収した事例。
(注)オギハラは自動車のボディーやボンネットなど車体を構成する鋼板の加工に使われる大型の金型メーカー。零細企業が多い金型業界で、従業員が約800人と異例の“大規模”で、一時は世界最大手の金型専業メーカーでもあった。国内需要の低迷で2009年にタイの自動車部品大手、タイサミットの傘下に。

・タイサミット …バイク、車の修理から一代で財を成す
 現在のトップは30代の若さ →日本側の決断が遅い
                矢継ぎ早のテンポに合わない

・日本の技術者は、「技を盗め」と言う。しかし、タイの工場で働くオギワラ社員に対して、従業員から批判意見があがる。いわく、知識はあるが、教え方が上手ではない。現場で教えてくれるが、コミュニケーションが下手。

・技術は盗めという日本式の教育は通用しない。グローバル競争時代のスタンダードは、言葉にして伝えて、マニュアル化すること。

・アメリカや日本が世界の工場だった時代は終わり、中国、インドなどのアジア諸国に世界の工業力が移った。中でもタイは、技術力が高く、ASEANの中心として、今後世界のトップに立つ可能性もありとのこと。
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グローバル経済が急拡大してきている現時点での一昔前との立場、やり方、それぞれの目線の違いというか、そうせざるを得ないというものを痛切に感じている。タイ経済を押し上げている原動力というFTAについて、最新の状況が次の通り発表されており、我が国の対応の遅れが指摘されている。

◇FTA(自由貿易協定)、アジア本格化、ジェトロ報告「日本は出遅れ」8月28日付け 朝日)
→JETRO(日本貿易振興機構)がまとめた2010年版世界貿易投資報告。
・今年、アジアが本格的なFTA運用の時代に入り、ASEAN内のAFTA地域では最初にASEANに加盟したタイなど6ヶ国間でほぼすべての品目の関税が無税に
・タイ、マレーシアから輸出する際にFTAを利用した割合:
 2005年 24.6% → 2009年 33.2%
・FTAカバー率(高いほどFTAを利用した貿易が活発)
 日本          16.5%
 米国          34.4%
 メキシコ        81.5%
 チリ          90.0%
 EU(対域外貿易)   25.0%
 韓国          14.4%
 中国          11.2%
 タイ          55.8%
 マレーシア       60.2%
 (注)韓国は、米国、EUとのFTAがスタートすれば35.6%に

少し前の記事で見過ごしていたが、ドイツ経済の活況ぶりが次のように発表されていた。世界各国・地域への目配りが必要なこと改めて、本当に一時も心落ち着かない現状ではある。

◇ドイツGDP伸び率は前期比2.2%、統一以降で最高、4〜6月期(8月13日付け ドイツニュースダイジェスト)
→ドイツ連邦統計局が13日、2010年4〜6月期の同国の実質GDP(国内総生産)伸び率が前期比2.2%となり、1990年の東西ドイツ統一以降、四半期ベースで最高を記録したと発表した。

輸出主導型のドイツ経済は、世界経済・貿易の回復の恩恵を大きく受けた格好、同国のGDP伸び率は2009年、金融危機の打撃を受けマイナス4.7%(従来発表のマイナス4.9%から上方修正)にとどまっていた。

統計局は、内需、外需ともに好調だったと指摘。独経済を牽引する両輪である設備投資と輸出の堅調さがGDPの伸びの大部分を占めたほか、個人消費と政府消費支出も成長を支えたことを明らかにした。

景気回復を反映し、4〜6月期の就業者数は前年同期比0.2%増の4030万人となった。

さて、注目の中国に目を遣ると、GDPで日本を抜いて世界第2位に、という発表を受けた中国の人びとの反応が以下の通り、ネットに書き込まれている。
世界経済の激動の狭間で円高、株安の渦中にある我が国の建設的な貢献、プレゼンスのあり方というものをまたもや考えさせられている。

◇ネット利用者の9割「中国は世界2位ではない」(8月27日付け 13億人の経済ニュース[biglobe配信])
→今年第2四半期(4-6月)に中国の国内総生産(GDP)が日本を抜き、中国が世界2位になるとのニュースについて、「環球網」が「中国が世界2位になる」という見方への賛否に関するオンライン調査を行ったところ、回答者の94%が反対だと応えた。ネットには、中国のGDPが日本を超えることに特別な意味はない、といった書き込みが次々になされた。
「GDP総量が2位になるだけ。国民の幸福感指数が世界2位になってから喜べばいい」
「中国国民の生活水準は日本と大きな開きがある。中国が『本物の世界2位』になるには、まだ長い困難な道のりを歩まなければならない」
「美辞麗句の報道に惑わされてはいけない。もしも得意になって中国は真の発展を遂げたなどと考えるなら、国際社会からより多くの貢献を求められることになるだけだ」
「つまるところ、世界2位という見方は名誉なことだ。私たちの長年にわたる努力の結果だ」
「中国は世界2位、はたまた世界1位になるという理想や信念をもつべきだ。革命はまだ成就していない。同志よ、引き続き努力しよう」
「われわれは過分に喜んでもならないし、むやみに卑下することもない。自信をもつ一方で自己卑下はしないほうがよい。冷静な対処を。がんばろう」


≪市場実態PickUp≫

今後の半導体市場の見通しに慎重な気分が出てきているが、Intel社が9月四半期の業績についてPC販売弱含みから僅かながら下方修正を行っている。

【Intel社の業績見通し】

◇Intel warns Q3 will miss expectations on weak PC demand-Intel decreases its estimates for Q3 revenue, which it says is being affected by weaker than expected demand for consumer PCs in mature markets. (8月27日付け Electronics Design, Strategy, News)
→Intel社が今朝、9月四半期、第三四半期売上げ見込みを前回より下方修正、$11.2B〜$12Bの前回見通しを今回$11B±$200Mに改める旨。これでも前四半期$10.8Bを若干ながら上回ることになる旨。

市場調査のSemico Research社からも、同社の先行指標から注意信号を発している。

【市場先行指標】

◇Semico's IC forecast index takes dip (8月24日付け EE Times)
→Semico Research社が警告。1年先行して半導体販売高伸長の方向性変化を示すSemico IPI Index(Inflection Point Indicator)が、2010年8月に低下を示し、2009年12月以来の低下の旨。

iSuppli社からは、在庫水準が高まっているものの、堅調な需要から順調に捌かれていくとして、懸念材料ではないとしている。

【在庫水準の見方】

◇Inventory bubble not a concern, iSuppli says-As demand is expected to continue to increase in the near term, the market research company is not alarmed by rising electronics supply chain inventory reported by chip suppliers.(8月24日付け Electronics Design, Strategy, News)
→iSuppli社の最新レポート。在庫は高水準にきているが、需要もそこそこ対応する水準にある旨。
半導体コンポーネントメーカー約35社について第二四半期途中の半導体在庫総計は$9.6Bに上り、第一四半期の$8.9Bから9%増、この時期平均の3.2%増を越えている旨。
一方、平均在庫日数(DOI[days of inventory])は約4日伸びて第一四半期の69.3日から第二四半期途中で73.2日と6%増、今までのこの時期平均は9.6%増、あるいは6日の伸びとなっている旨。

1990年代前半から半導体ベンダーNo.1の座を維持し、圧倒的な位置付けのIntel社であるが、ここにきて伸び率の外挿からSamsungがIntelを追い抜く可能性が見えてきている、という調査報告である。

【SamsungがIntelを抜くとき】

◇Analyst: Samsung likely to pass Intel in ICs(8月26日付け EE Times)
→IC Insights社(Scottsdale, Ariz.)発。SamsungがIntelに追い付くという考えは5-10年前は途方もなく思われたが、Samsungの1999年から2009年にかけてのIC売上げがcompound annual growth rate(CAGR) 13.5%で伸びているのに対し、IntelのCAGR3.4%と鈍化する格好、この伸び率を外挿すると、Samsungは2014年に半導体販売高でIntelを上回ることになる旨。
両社の販売高比較推移グラフ、下記参照。
http://www.eetimes.com/ContentEETimes/100826_ICInsights_intel_samsung.jpg

恒例の米国スタンフォード大でのHot Chipsも第22回を迎えるとのこと。AMDの新たなイノベーション、中国の取り組みに注目している。

【Hot Chipsから】

◇Hot Chips: Inside AMD's two new x86 cores (8月24日付け EE Times)
→AMDが本日24日、ここ10年で初めての白紙から設計した新しいx86コア、BulldozerおよびBobcatについて初の公表プレゼンの旨。

◇China's Godson gets vector boost, aims for 28 nm(8月25日付け EE Times)
→中国のMPU initiativeのchief architectで北京のInstitute of Computing Technology教授、Wei-wu Hu氏が、vector処理を擁するサーバ半導体など新しいGodson CPUsの意欲的な一揃いをプレゼン、2011年にいくつかの新しい65-nm parts、第三世代に向けては28-nmプロセスに飛び越えていく計画の旨。


≪グローバル雑学王−112≫

小さいころから目にして食している感覚から、日本の野菜、海外の野菜という定義づけに自ずとなってしまうところがあるが、なかなかのそれぞれの野菜の出自、出もとの奥深さを、

『世界の野菜を旅する』 (玉村 豊男 著:講談社現代新書 2055)
 …2010年6月20日 第1刷発行

より認識させられるところ多々である。サトイモに纏わるエピソード、ひとつとっても、身近な歴史、行事へのなんと深い関わり方よ、という感じ方である。


[第5章 サトイモのナショナリズム]

*ニンジンの故郷
・ニンジンの故郷 …天山山脈の麓
・タシュケント(現在はウズベキスタン)周辺 
 →ラーメンの語源となったのではないかといわれるラグマン
  …拉麺(拉=引っ張る)
  ピラフの原型とされるポロ
・ポロ、ピロウ、ピラウなど、地域によって発音が微妙に異なるコメ料理
・多くの場合、使われているのは黄色いニンジン
・ニンジンの原産地については、ヨーロッパではないかという説も
・野菜や穀物の原種の発見には世界中の国が力
 →植物資源をめぐる国家間の争いはますます激しく

*忘れられた野菜たち
・石油、レアメタル、レアアースに次いで、食糧、特に植物が、次代の覇権を左右する戦略物資に
・10年以上も前から、失われた野菜たち、と名付けた種のシリーズ
 …たくさんの野菜が原産地からはるかな旅を重ねて世界のいたるところに伝わっている
  →まだまだ知られていない野菜も数多い

*稲の妻と若い豆
・アメリカに住む日本人が一番ほしいと思うもの …日本的な野菜
 →枝豆、シソ、三つ葉、ミョウガ、セリ、ウド、フキ
・大豆の若い豆を茹でて食べる枝豆 
 …平安時代に遡る古くからの習慣らしい
 「枝豆」という名 
  →江戸時代の後期に市中で枝ごと青い豆を売り歩くように
  ⇒野菜も若い未熟なものを好む日本にしか見られない習慣
・日本では"雷が多い年は稲がよく実る"という言われ
 →雷鳴とともに天を照らす閃光、"稲妻"
  …雷が空中の窒素を土壌に固定、稲に窒素肥料を与える
  →稲を助けるから稲の妻
・田んぼに植えるアゼマメ
 →マメ科の植物が土壌を豊かにすることを農民は経験的に知っていた
・ダイズの原種 …中国北部からシベリア、および日本にも自生するツルマメ(野豆)との言われ
・味噌と、それから抽出された醤油 →日本の料理と日本人の味覚の根幹
 …ダイズが欧米に知られたのは極めて遅く、18世紀に入ってから
・日本人の食生活に絶対なくてはならないダイズ
 →大半をアメリカからの輸入に頼っている現実は如何?

*山の神とは何者か
・妻を山の神といって畏れ敬うのが、かつての亭主たちのつね
・女性であるとされてきている山の神
 →万物を産み落とす生命の根源としての山あるいは自然に対する、素朴な畏怖の表現
・いうことを聞かないと祟りがありそうな、もっと怖ろしい存在を示唆?

*おせち料理のヤツガシラ
・お正月にはヤツガシラの煮しめ
・イモの表面がごつごつと出っ張った部分 →出店
 …かたちよく面をとるのが煮る前の大事な仕事
・ヤツガシラは、サトイモの一種
・サトイモには、親イモを食べる種類と小イモを食べる種類
・正月の煮物 →人の頭に立つ、という人生訓
       →八という数字が末広がりで縁起が良い
・中国では縁起の良い数字から九面芋

*月見だんごの秘密
・いただきますで始まる食事 →カミにお供えした食事をお下がりとしていただく直会(なおらい)
・正月の雑煮 →カミに供えたものを下ろしていっしょに煮たもの
・全国には、モチなし正月、という風習をもっていた地域がたくさん
 …正月にはモチをつかず、サトイモを茹でて食べる
・正月の供え物としてもサトイモはあらゆるシーンに顔を出す
・お盆やお月見の季節にもサトイモが登場
 →京都の北野天神にはずいき祭という秋の行事 …サトイモの茎をズイキ
 →旧暦八月十五日に月を鑑賞する風習 
  …中国から伝来、十五夜あるいは中秋の名月
   →イモ名月、という別称も
 →中国でも古くはサトイモを供えるのが伝統的な風習
  …お月見の起源はサトイモの収穫祭であったという説が有力
・焼畑 →穀類と豆類のあとに、サトイモをつくる
  …複数の焼畑をもっていれば、生活に必要な食糧がつねに供給できるシステム
 →戦前までは日本全国に七万町歩(七万ヘクタール)もあったという焼畑
  →戦後になるとその生産性の低さから急速に消滅
・十五夜の月見だんご 
 →まだサトイモがなかったための苦しまぎれのアイデア?

*紅白歌合戦
・イモと雑穀を中心とした焼畑農業 →稲作以前の農耕文化
・焼畑農耕文化が成立していたところへ、あとから稲作農耕文化
 →稲作派が勝利、コメの文化と論理がすべてを支配する社会に
・正月にモチをつかない一団 
 …モチのかわりに雑穀や根菜で正月を祝う一団
  →焼畑農耕文化のサトイモ派
・白い色を象徴とする稲作のモチと、赤色系の焼畑作物との対立
 →日本人の紅白を対立させる心象の、原点

*サトイモ派の終戦
・玉砕はせず、ほそぼそと生き残った焼畑サトイモ派
・焼畑から常畑へ、常畑から水田へという時代的な変遷
 →山の神の立場もまた変化
  …焼畑農耕の時代には、森の中の一番高い木のてっぺんで威張る
   →平地で稲作になると、わざわざ山を下りて田の見回り
   ⇒人間の方も山の神の怒りを買わないように、物忌みをしたり供え物

*南太平洋の方舟
・太平洋 …一辺が五千kmを超える巨大な三角形の中
     →ほぼ同一の食文化を共有
     …ヤシの実のジュース:バナナ:ココナツミルクで味をつけた魚:イモ:ヤシガニ:蒸し焼きにした豚や鶏
→もとはアジアの一角から豚と鶏とイモを積んで漕ぎ出した、さながらノアの方舟
・彼らが食べるイモ →キャッサバ、タロ、ヤム、サツマイモなど
・彼らはほとんど毎日イモと魚とココナツミルクの三種類の食品のみ
 →栄養のバランスは理想的 …太っていても生活習慣病にかからない彼らの秘密

*ピアノレッグと大根足
・サトイモはタロが、ヤマイモはヤムが、それぞれ北上して温帯に適応したもの
・日本の焼畑農耕 →イモ類に、カブ、ゴボウ、ダイコンなどの根菜を加え、雑穀や豆類とともに総合的なシステム
 ダイコン …世界一多くの品種、日本人の食生活を支える
 ピアノレッグ→欧米の女性の脚
 大根足   →日本の女性の脚
       …白い、優美な曲線:日本的な美の理想を示すホメ言葉
 ゴボウ …キク科の二年草:栽培化したのは日本だけ
  →大半のアメリカ人には、いま食べても単なる木の根
 ハクサイ …日清戦争、日露戦争で中国に出兵した日本軍が種を持ち帰り  
  →山東省の特産として山東菜と呼ばれた

*ハクサイとキャベツの関係
・日本への伝来はキャベツの方が古く、江戸時代。
・食用のキャベツの本格的な栽培 
 …明治になってから欧米の品種が導入されて以降
 →トンカツの流行と普及で報われる
  …明治二十八年の銀座、生のキャベツを刻んで添えたのが最初
 →それ以前にも、明治三十八年、博多・中洲の鍋料理、水炊きで取り入れ
・ハクサイは日本的、キャベツは洋風。知らず知らずのうちのナショナリズム。

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