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中国の経済激動と論調/市場実態PickUp/グローバル雑学王−104

先進圏から中国はじめ新興圏への経済シフトがどこまで進むのか、半導体はグローバルであり影響は軽微との声があるが、やはり気になるところである。中国を巡る経済の大きな動きと中国の中での論調に注目しているが、ここ半世紀以上にわたってアジア圏の経済を引っ張ってきている我が国が辿った足跡との照らし合わせを特に強く感じている。

≪中国の経済激動と論調≫

まさに"中華"、すなわち世界の中心としてお金が集まってきている現状がある。安価な労働力で世界の工場という表現は一昔前となってきたが、その血と汗の苦労が現状の大きな源になっているということと思う。その製造面の競争力について、次の見方が出るまでになっている。

◇中国の製造業、5年後には競争力が世界トップに(7月2日付け 13億人の経済ニュース[biglobe配信])
→米競争力委員会とDTTグローバル製造業グループは、共同で「2010年世界製造業競争力指数」を発表した。それによると、米国の競争力は2015年、4位から5位に低下し、上位国の中ではランキングが下がる唯一の国となるという。一方で、中国とインドはそれぞれ1位と2位にランクインするとの見通しだ。
一方、20世紀末に製造大国だった米国・日本・ドイツの競争力は、今後5年間で下降し、その他の西ヨーロッパ諸国も同様の試練に直面するだろうと見られている。ユーロの動揺も、この問題を激化させている。

現下の中国の経済の動きは枚挙に暇なしの感があるが、特に注目の内容を挙げてみる。まずは台湾との経済協力について一区切りとなる合意締結である。

◇Taiwan inks economic cooperation framework agreement with China(6月30日付け DIGITIMES)
→台湾政府および対応する中国当局、Association for Relations Across the Taiwan Strait(ARATS)に代わって台湾の中国との関係を扱う半官機関、Straits Exchange Foundation(SEF)が29日、重慶市にてcross-strait Economic Cooperation Framework Agreement(ECFA)およびIntellectual Property Rights Agreementに調印、2011年1月1日発効の旨。
(注)本件の「人民網日本語版」記事(2010年6月30日)、下記参照。
http://j.peopledaily.com.cn/94476/7046731.html

緩やかな人民元の上げ基調となっているが、貿易の決済について以下の動きである。

◇対外貿易の人民元決済モデル地区、20省区に拡大(6月28日付け 13億人の経済ニュース[biglobe配信])
→中国人民銀行(中央銀行)、財政部、商務部、税関総署、税務総局、中国銀行業監督管理委員会(銀監会)はこのほど共同で「対外貿易の人民元建て決済モデル地区の拡大に関連した問題に関する通知」を出し、対外貿易における人民元建て決済の実施モデル地区を、これまでの上海市や広東省の4都市から、20省・自治区・直轄市に拡大することを明らかにした。
対象となる貿易相手先は、これまでの香港地域、澳門(マカオ)地域、東南アジア諸国連合(ASEAN)地域から、すべての国と地域に拡大される。企業は市場の原則に則って人民元決済を行うかどうかを選択できる。

我が国は中国との交流拡大拡大を図ることがまず、ということで観光客誘致の施策打ち上げである。

◇中国人観光客、日本の「救世主」に。(7月2日付け 人民網日本語版)
→日本の外務省、国土交通省、法務省、警察庁などが協議、中国人への個人観光ビザ発給条件が1日から大幅に緩和、申請者の年収制限が従来の25万元から3-5万元になった旨。日本側は、中国人観光客を誘致することで観光市場の振興を目指し、日本のメディアは中国人観光客が小売業の「救世主」となると報じている旨。

このような連日の動きのなかで、我が国をリファレンスにした中国での論説記事が増えて紙面を大きく占めていると感じるのは小生の今の気分のせいであろうか。印象に残る下りのいくつか、次の通りと思っている。

*世界市場に向けた生産量の拡大は達成してきたが、問題は中身の質の問題。だんだんと練られて良くなっていこうが、まだまだである。

*半導体は、市場としては大きくなってきたが生産についてはまだまだこれから。サッカーW杯も中国はこれから、一人前じゃない。

我が国については、国内一致団結したエネルギーの凄さに注目、戦後の目覚ましい経済成長、品質の高さ、などなどから最近では、サッカーW杯での健闘ぶりをお手本に、という論調が見られる一方で、同じ轍を踏まないよう訴える内容例として以下がある。

◇40年働くよりも3年の不動産転がし? 投機に走る若者増加(6月29日付け 13億人の経済ニュース[biglobe配信])
→株の売買、投資、資産管理といった言葉が取り沙汰されている昨今、株だけでなく、不動産、黄金、書画、外貨、先物、投資信託の分野など、近年になってお金を転がす若者が多くなっているという。最近の調査で、「周囲にお金を転がしている人がいる」と88.1%の人が答えた。
すぐにハイリターンが見込める投資に比べ、仕事をして稼ぐのには時間がかかる。あるウェブサイトがユーザーを対象に行った調査で、「堅実な仕事だけで財産を築くのは難しいと思うか」との質問に76.8%が「思う」と答えた。
隣国の日本にいい例がある。80年代に日本はバブル経済の全盛期に入り、人々は働かずして高い収入と利益を得ようと次々と投機に走り、株や不動産などの資産価格が高騰した。日本の都市部の不動産価格は33年間で100倍に急騰した一方で、製造業で働く作業員の平均給与は20倍にしか上がっていない。
この現象は、私たちの今日の状況とよく似ている。さらに日本の当時を振り返ると、1989年の「バブル経済」の崩壊とともに、日本は一気に10年におよぶ不景気に陥り、企業と国民はこの深刻な結末を受け入れるしかなかった。私たちが若者に正しい財産観を築くよう呼びかける際、社会から彼らに何か提供できないだろうか?私たちは子供の頃から「労働者は光栄なもの、勤労は美徳だ」と言い聞かされてきた。そして今、現実に「労働者を光栄なものとし、勤労から多くの果実が実る」ことを証明しなければならない。若者が正しい概念を築く手助けをするだけでなく、労働者を真に豊かにするメカニズムも必要となっている。労働者の給料を引き上げ、若者の起業環境を整え、起業の成功率を高めるなど、若者が労働を通じて富を築けるようにしていかなければならない。

いろいろ考えさせられる問題意識であるが、我が国の一致結束のエネルギーをフルに発揮して世界に冠たる技術、製品そしてサービスを打ち上げて世界市場を引っ張っていかなければ、という考え方に帰着してしまうこの頃ではある。


≪市場実態PickUp≫

ディジタル家電向けのインタフェース、HDMIを巡って、スペック凌ぎ合いの様相が見られる。

【HDMI(High-Definition Multimedia Interface)】

◇HDBaseT Alliance attacks HDMI with new spec-Consumer home interconnect aims to leapfrog HDMI(6月29日付け EE Times)
→LG Electronics, Samsung Electronics, Sony Pictures EntertainmentおよびValens Semiconductor(イスラエルのstartup)が、HDBaseT AllianceおよびHDBaseTスペック1.0版を正式に打ち上げ、このconsumer home interconnectはより優れるバンド幅、到達範囲あるいはネットワーキングcapabilitiesによりHDMIの席巻に挑んでいる1つである旨。

◇Group rolls out HDMI-lite spec for portables-MHL Consortium vies with HDMI 1.4 for high def mobile link(6月30日付け EE Times)
→MHL(Mobile High-Definition Link) Consortium(Nokia, Samsung Electronics, Silicon Image, Sonyおよび東芝)が、モバイル機器、TVs, Blu-Rayプレーヤーおよびディスプレイを繋ぐhigh bandwidth wired interconnectスペック1.0版をリリース、MHLはHigh Definition Multimedia Interface(HDMI)に基づくが、Analog Devices社などの競合からはHDMIとbackward compatibleでないという批判を受けている旨。

新しい略語が続くが、無線LAN化された環境にHDMI経由のテレビ接続アダプタを設けて、PC保存の映像コンテンツを無線経由で簡単に転送してテレビで視聴できる、というワイヤレスディスプレイ技術の市場登場である。

【WiDi(Wireless Display)】

◇Intel's willingness to ditch its playbook leaves us asking WiDi(6月28日付け EE Times)
→IntelのCEO、Paul Otellini氏がこの1月、Consumer Electronics Show(CES)にて披露したWiDi(Wireless Display)について

◇Wireless display comes home (6月28日付け EE Times)
→ワイヤレスディスプレイ技術の到来、最初に市場にお目見えのIOGEARのWireless Audio / Video Kit、GUWAVKITの外観、下記参照。
http://i.cmpnet.com/eetimes/news/10/06/1584photo_pg45.jpg

落ち込んだ2009年のイメージが強いsolar市場について、次の熱い兆しの予測が見られる。

【solar市場】

◇Price hikes, shortages seen in hot solar biz(6月29日付け EE Times)
→Solarbuzz社(San Francisco)発。2009年のsolar市場は悪かったが、photovoltaic需要が昨年比倍増する見通し、2009年7.5 GWに対して2010年は15.2 GWになると見る旨。

インテルのイスラエルにおける2つ目のfab建設について、イスラエル政府との協議状況である。

【インテルのイスラエルfab】

◇Intel, Israel discuss next fab, says report (6月29日付け EE Times)
→The Media Line発。Intelが、Kiryat Gat, Israelでのウェーハfab構築についてMinistry of Industry, Trade and Laborと協議中、イスラエル南部での同社2番目のfab建設&装置にかかると予想される$2.7Bのコストのうち$400Mの負担を求めている旨。

台湾での研究開発投資に向けた動きとして、NANDフラッシュおよび三次元実装(3D IC)技術が挙がってきている。

【台湾の新たな出資】

◇Taiwan to invest in NAND flash project (6月30日付け EE Times)
→DRAMメーカーとしては政府出資に適当するケースとして以前に却下されたTaiwan Innovation Memory Co.(TIMC)が、NANDフラッシュサプライヤとして復活、TIMC, ProMOS Technologies社, Photronics Semiconductor Mask社およびElite Semiconductor Memory Technology社が、R&Dコンソーシアムに参画する旨。

◇TIMC to gain government subsidies for NAND flash development(6月30日付け DIGITIMES)
→台湾のMinistry of Economic Affairs(MOEA)が、Taiwan Innovative Memory Company(TIMC)のNANDフラッシュR&D活動に対して40%までの助成を承認の旨。

◇ITRI sets up 3D IC experimental lab (7月1日付け DIGITIMES)
→台湾政府が支援するIndustrial Technology Research Institute(ITRI)が、台湾自前の3D IC技術を開発するために12インチウェーハthrough silicon via(TSV)プロセスを運用する実験labの設立を発表、Ministry of Economic Affairs(MOEA)からのサポートのもとITRIは、向こう4年にわたり3D IC技術開発プロジェクトに$49.75Mを注ぎ込む計画を披露の旨。


≪グローバル雑学王−104≫

長期的に脈々と流れる傾向や力が、この世界を変えていくことを、

『変わる世界、立ち遅れる日本』
 (Bill Emmott 著 烏賀陽 正弘 訳:PHP新書 655) …2010年3月4日 第1版第1刷

より見ていく。中国の経済インパクトは、上記にもある通りすでに現在日々目の当たりにしているが、エネルギー問題は、今後の鍵ということで次回にも引き続く形になっている。


[第5章 環境問題が資本主義を変革する]

*9・11事件で世界は変わったか
・衝撃的な事件は、実際は単なる長期的傾向の反映にしか過ぎない。
 →長期的な力が何であるかを、見分けるべき
・あの2001年の運命の日、著者はニューヨークに滞在
 …偶然、Richard Holbrooke大使と朝食を共に
 →同氏は、Clinton政権下の国連大使、現在はアフガニスタンおよびパキスタン問題を担当する特別代表
 →Holbrooke大使の人生は、9・11事件を契機に変わった 
  …9・11事件がなければ、現職に就いていない

*経済危機は世界情勢を根本から変えてはいない
・1990年に日本の金融バブルが崩壊後、2〜3年
 →「失われた十年」が本当に10年間続くと予言した人はいなかった
・日本が先導した"アジアの奇跡"(東アジア諸国の急速な経済成長) 
 →半世紀を通じての話
・唯一、大きな変革が予想される分野は、金融サービスの部門、なかでも投資銀行
・富める国だけでなく、貧しい国や発展途上国を加えたより広範な金融サミットG20(20ヶ国・地域首脳会合)の拡大・創設
・本書における主旨
 ⇒長期的な傾向や力を見て、世界がどのように変革するかを考えること

*世界経済の調整が中国によって行なわれる
・世界の通貨システムを真に変革 
 →人民元は1971年に設定された変動為替相場制に参加すべき
・中国は1978年以降、日本が1950年代と1960年代に遂げた急速な経済成長を、見事な手本として踏襲
 →近年、中国には次の三つの結果
 一.国際収支が膨大な黒字
 二.2008年前半を通じて、急速なインフレ
 三.環境が急激に悪化。河川や大気の汚染など。
・今こそ中国は、日本の例に見習うべき
 →人民元の自由化(切り上げ)
 →産業をより環境に優しいハイテク分野に移行

*コペンハーゲン会議は成功だったのか
・COP15(第十五回気候変動枠組条約締約国会議)の合意
 →2010年にメキシコで行なわれる会議で、さらなる合意を見ることを主に約束

*温暖化対策におけるアメリカと中国の駆け引き
・一部の国が小さなグループを組んで、既成事実を他国に提案
 →そのグループはアメリカが主導
 …2007年に中国が取って代わるまでは、アメリカが地球温暖化ガスの世界最大の排出国
・この合意に関与した他の国、すなわち、中国、インド、ブラジル、南アフリカ
 →最大の発展途上経済国の四ヵ国が、どういう理由から合意?
 …一部には威信の問題 →自分たちの重要性を誇示
 …温暖化被害に対応するため、先進国から資金援助を受ける約束

*新しいエネルギー源が世界を変える
・長期にわたる化石燃料時代は終わりへ
・エネルギー・テクノロジーの変化 →来る10年の最も際立った課題

*原油価格上昇という不思議な物語
・より多く発見、採取の能率化で天然資源の埋蔵量は増加しているのに、その大半の相場が急騰
 →地球規模の経済成長により高まる資源の需要
 →価格の引き下げにつながるほど、供給が急速に追いつけなかった
 →2007〜2008年、欧米で金融バブルが崩壊、多くの投資家は資源に投資

*経済にプラスとなるが、環境には打撃を与える
・資源の価格暴落は、環境問題には悪い知らせに
・私たちのほとんどが、道徳心や政治的信念から環境に配慮すべきという思いでいられるのは、数時間ないしはせいぜい数日間

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