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ユーザーエクスペリエンスが商品価値を決定する(2)〜iPhone iOSの例

アップル社はその製品・サービスをユーザーエクスペリエンス(UX)に大きな価値を置く企業活動を行っている。iPhoneは代表的な製品・サービスである。ここではアップル社の考え方を中心にUXに着目する。

アップルはUXデザインの重要性をホームページで強調している。iOS 7 (2013年9月リリース) へのバージョンアップ時には次のように宣言している。「多くの人たちに愛されている体験(エクスペリエンス)を、さらに素晴らしいものにしたい」、「良いデザインとはつまり、より良い体験のためにある」。このようにUXデザインの向上をバージョンアップの中心に据えていることがわかる。


図1 iPhone 5のユーザーインターフェース

図1 iPhone 5のユーザーインターフェース


iOS 7では全体的な表現デザインはフラットなものに変更している(図1)。2009年のiPhoneのデビュー時には、ユーザーにはタッチインターフェースは未経験のインターフェースであり、より直観的でわかりやすい表現を採用してきた。例えば、電子書籍を表現するためには、書籍を本棚に入れるという表現をとってきた。しかし今やユーザーにとって電子書籍は日常的なものとなり、格納形式・場所を本棚のメタファーを用いて強調しなくても、書籍コンテンツとして受け止められている。したがって単純な表現が採用されても、それで十分である。

不思議なことに、iPhoneの基本機能の電話や電子メールの表現はデジタル機能にそぐわない古い受話器と封筒のアイコンが用いられている。図1の下部の真ん中にメールと電話のアイコンが並んでいる。これはユーザーのこれまでの経験を大切にして、あえてこれまでの表現にしておく方が良いと判断したからである。フラットでシンプルな表現をOSに導入するのにあたっても、ユーザーのこれまでとこれからの経験を考慮して、表現を注意深く段階的に設定している。

このようにして設定されたiOS 7についてアップル社は次のように宣言している。

「シンプルさとは、あるべき姿を、しかるべき場所で、必要な時に提供すること。複雑さに秩序をもたらすこと。そして、常に『思いどおりに動く』ものを作ること。初めて手に取った時でも、自分がしたいことをする方法を知っている。シンプルとはそういうものです」。

「新しい構造をシステム全体に採用することで、あらゆる体験が明確になりました。インターフェースはあえて控えめに。目立つ飾りも、必要のないバーやボタンも、すべて外しました。価値を生み出すことのない余分な要素をなくしたら、本当に大切なものだけが姿を現しました」。

堂々たる勝利宣言である。iOSをシンプルにし、思い通りに動くものに仕立て上げることは、前回のブログで述べたWindows 8に見られるユーザーの混乱と対極にある。Windowsの築き上げてきたPCの経験に、全く違うタブレットの経験を統合したことはUXデザインとしても問題を発生させる可能性の大きい構想であった。

すべてのOSがそうであるようにiOSも進歩しなければならない。次世代のiOS 8は、もうすでにアプリを開発する開発者会議(2014年6月)において公開されている。iOS 8は今年中には新しいiPhone 6と同時にデビューするものと思われる。

またアップル社の優れている点は、iPhone 4、iPhone 5、iPhone 5sに対して同じUXを常に提供できていることである。またiPad、iPodにおいても同じUXを提供している。前の世代のデバイスのUXも同じにするのは素晴らしいことである。

アップル社やグーグル社のスマホ向けOSはこれから、車載システム、ホームセキュリィティ、ヘルスケアシステム、などへの展開が試みられる。この展開の過程においても、UXデザインのシンプルさ、連続性、一貫性を保てるかどうかが、重大な差別化要素となる。ユーザーは、これまでに車、住宅、医療の分野では様々な経験をしてきている。これらの経験をUXデザインとしてシンプルに提供できる企業が次世代の勝者となる。戦いはこれからである。

Agile Tech技術本部長 河田 勉
(2014/06/26)
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