日本人はなぜiPhoneが好きなのか?
新しいスマートフォンが発売されると、いわゆるITジャーナリストが、まずハードウエアのスペックを取り上げて他社モデルと比較して分析する。iPhoneに対しては期待が大きいのか、「あっと驚く要素が少ない」などという批評が踊ることが多い。これだけ進歩し普及しているデバイスにそうそう驚くような新要素が付け加わることは少ないのに。
表題に対する私の回答は以下である。
Form Factor & Security.
ここで、Formは文字通り形の魅力であり、ハードとソフトのデザインを含む。Securityは持っていることによる安心感を含んでいる。
ITジャーナリストに限ったことではないがITメディア製品評価に決定的に欠けている点は、現在のユーザーがスマートフォンのどこが好きで選択しているかという視点である。消費者はスペックで製品を買うのではなく、デザインや使い心地、評判、価格で選別するのである。本稿ではその観点から、ITジャーナリストが無視しがちな日本人のiPhoneに対する暗黙の感覚的人気の秘密を抜き出してみたい。
東京の地下鉄では朝の通勤時間帯に座っている人と、吊革につかまっている人がたくさんスマートフォンを使っている。筆者の経験では、周りの6人中4人までがiPhoneだったこともある。このような状況は、カンター・ジャパン社の調査からも理解できる。すなわち、2013年10月に日本で発売されたスマートフォンの76%がiPhoneという調査結果だった。日本人はiPhoneが好きである。ちなみにアメリカでもAndroidに劣勢だったiPhoneが2013年10-11月にシェアを逆転している。
まず、ちまたで言われているiPhoneに対する好印象を以下に述べてみる。
・安心感
安心感の第一は、周りで使っている人が多い、使いやすい、という声が多い。iPhoneといえば中身は一つなのでいろいろ考える必要がなく選びやすい。サービスについてもショップに行けば何とかなる。ショップのサービス体制がしっかりしているからだ。近くにiPhoneの公認相談センターあることも安心感の元といえる。
iPhoneは、OSのバージョンアップによって、新機能が後から追加できることが良い。Androidではバージョンアップはほとんどない。買った時のままなので悔しい。iPhoneは、パソコンに接続すると、バックアップがパソコンの中で自動的に行われるので楽、また一度買ったアプリやコンテンツ(音楽、映像)は覚えてくれているので、誤って同じものを買ってしまう恐れはない。アップル社の先進性(siriなどの音声対話)がiPhoneに随時取り入れられ楽しめる。
・使いやすい
iPhoneの最初の発表会でスティーブ・ジョブズ氏が強調したのは、指で操作するタッチインターフェースである。それが徹底的に洗練されている。アイコンなども指操作を前提に、かつわかりやすく設定されているし、操作した画面の動きもスムーズに設計されている。
男性の服のポケットに入るサイズである。ポケットに入れても小銭などで画面に傷が付かないようにガラスの保護も特別に設計されている。
電話をしている姿が自然で良い。大きなスマートフォンを耳のところにあてるのはカッコ悪い。映画やTV(テレビ)ではiPhoneで電話している場面が多い。TVドラマの「半沢直樹」や「シャーロック」のシリーズでよく見られていた。
・デザインが良い
ブランド腕時計のような質の高いデザインがなされている。筐体のデザインが綺麗で、片手に収まる。アップルマークも繊細で綺麗に処理されている。ボタン穴の精度が高く、スピーカーの穴の加工処理も美しい。見えない筐体の内部の処理や回路基板のデザインまで改善されているという。(編集部注)
画面は美しく(Retinaディスプレイ)作られている。また片手でも操作できるように筐体も含め、美しくデザインされている。電車内に立ったまま片手で操作しているスマホにはiPhoneが多い。
以上ヒアリングした結果をまとめてみた。ここからiPhoneを選択する主要な理由を抽出することは難しいが、筆者の経験も含めて推定してみたい。
まずFormである。スティーブ・ジョブズが7年前にiPhoneを発表したとき「電話を再発明した」と高らかに宣言したように電話は基本機能である。電話機は黒電話の時代からフィーチャーフォン(日本で言う、いわゆるガラケー)まで、手で持って耳のあたりにあてがうのが文化的にも確立されている。実は私が日本で初めてスマートフォン(図1)を設計し、現在のauからそれが販売されたとき、最初に批判されたのは「GENIOを耳にあてて話をしていると周りの人が奇異な目で見るのでいやだ。」というコメントであった。特に女性はスタイリッシュでありたいと思っている。今月(2014年1月)のソフトバンクのCMで吉永小百合さんがスマートフォンで電話をしているが、iPhoneでなくもっと大きいFORMのスマートフォンで和服には似合っていないと私は思う。ファッションとしても形、色は重要であるのでこれが隠れた大きな要素である。より大きな画面のスマートフォンやタブレットで電話をしている人を私は街中で見たことがない。iPhoneで電話をするスタイルは文化的にもなじんだシルエットである。
図1 東芝がかつてリリースしたGENIO
次がSecurityである。なんといってもiPhoneにした安心感が大きな意見である。アップル社のiOSは、iPhoneだけではなくiPadやiPodにもサポートされると共に、各世代にわたってもサポートされている。また、OSのLook& Feelを端末のワンタッチ操作だけでバージョンアップできるのは便利である。また先進機能もOSの更新やアプリのバージョンアップなどで対応できる。
iPhone発売当初、電池の消耗が激しかった動作は、OSの改善によりすぐに改良された。持ち方によって電波の受信感度が弱くなる現象は、購入者全員にカバーケースを配布することで対処した。iPodの発熱問題では数年後でも購入者全員に新製品と交換することにより対応されている。アップルストアに持ち込めばほとんどの問題はその場で解決されるのも好評価である。修理用の専門工具も配備されている。
アプリもアップル社の審査を受けるので、個人情報保護やウイルス対策も考えられている。この点ではAndroidより一歩進んでいる。
以上述べたように私の独断的推定では日本人の感じる日本人の魅力は
Form Factor & Security
としたい。
編集部注)iPhoneのプリント基板は、一般的な深緑色ではなく、黒を基調としている。この色は、ICや部品を実装した後のプリント基板に最後にコーティングするソルダーレジストの色である。Appleだけが黒にこだわっている点は面白い。