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システムLSIが内蔵する陥穽

日本の半導体産業は1980年代にDRAMの生産を中心に盛況を極め、半導体売上高の世界シェアは1986年に米国を抜き、1988年には50%以上を占めた。しかし、1990年代に入るとそのシェアは下降の一途をたどり現在に至っている。

日本の半導体産業が世界シェアを下げ続けた理由として「製造装置と共にノウハウが流出した」「人件費が高い」「税金が高い」「優遇税制が無い」などと全て外部に求め、一方で「技術は優れている」と自分たちを慰めてきた。

日本半導体産業の凋落ぶりに対して半導体産業研究所(SIRIJ)は何らかの提言をしなければならず、1999年3月に「半導体新世紀委員会(SNCC 注1)」を設立し、一年後の2000年3月に「日本半導体産業の復活」と題する提案書を発表した。

この提案の内容を筆者なりに要約すれば「DRAMからシステム・オン・チップ(SoC 注2)へ」、「産官学の連携を強化して共同プロジェクトを推進」、「プロセス技術開発は個別企業から共同プロジェクトへ」、「製造プロセスの標準化」ということになる。

行く先が見えず茫然自失したような国内半導体メーカーのトップはこの「SoC」というキーワードに飛びついた。新聞、雑誌、証券アナリストなども一斉に魔法の言葉「SoC」に飛びついた。

その後、わが国ではSoCのオンパレードであり、SoCと言えば皆がわかったような顔をするので、半導体企業人にとっての免罪符となった感がある。

従来のシステムではMCU、ロジック、DSP、DRAM、SRAM、ROM、EEPROM、フラッシュメモリー、入出力バス、アナログ・インターフェースなどの機能はそれぞれ専用のLSIを使って構成していたが、SoCの場合には一つのチップ上に必要な機能を全て集積して一つのLSIとして実現する。本文ではSoCをシステムLSIと同義語として使用する。

したがって、SoCを実現するには内蔵する多くの機能ブロックに対応できるデバイス設計技術、回路設計技術、製造プロセス技術などを確立する必要がある。

ここで注意しなければならないのはSoCという言葉は一つの概念で、DRAMというような具体的な製品を示しているわけではない。DRAMのように個々の製品であれば、DRAM専用のデバイス設計技術、回路設計技術、製造プロセス技術などを確立すればよかったが、それに比べてSoCではその範囲が広く負担は非常に重たくなる。

それぞれの企業でトップがSoCをやると決めたら、デバイス設計部門もプロセス技術部門も必死になって対応しようとする。先に述べたようにSoCにはMCU、ロジック、DSP、DRAM、SRAM、ROM、EEPROM、フラッシュメモリー、入出力バス、アナログ・インターフェース等々のありとあらゆる機能ブロックが内蔵される可能性がある。となるとユーザーからどのような機能ブロックが必要であるといわれても直ぐに対応できるように開発部門では前もって準備せざるを得ない。

例えば65nmプロセスの開発を行う場合、全部の機能ブロックも同じデザインルールに合わせたものを開発しておかなければ意味がない。ここに莫大な人とお金がかかる。しかし、こうして開発したプロセス技術が本当に利用されるかどうかは注文が来るまで分からない。かといって必要な機能ブロックが出来上がっていないと注文も来ない。そこで対応するデザインルールごとに全ての機能ブロックを作り上げる努力をする。その結果、使用する製造装置もフルオプションを装備した高価なものを購入してどのような事態にでも対応しようとし、開発費も製造装置の費用にも膨大な金額を必要とする。

DRAMでつまずいた日本の半導体メーカーは、デジタル家電の心臓部となるSoCに軸足を移そうとしてきた。しかしDRAMとの比較でいうならば、DRAMは代表的な標準品で同じ規格の製品を大量に製造すればよかった。一方、SoCはユーザーの要望に応じて開発するカスタムLSIで、ゲーム用LSIやDVD用LSIのように大量生産されているものもあるが、一般的には少量生産の製品が多い。

SoCの本質を十分理解せずに便利な魔法の言葉として「SoC」を乱発したが、そのために内部ではオーバーヘッドがどんどん大きくなってしまった。筆者には武蔵坊弁慶と牛若丸の話が思い出される。弁慶は背中に大槌など大きな七つ道具を背負って京の五条の橋の上で千本の刀を集めていたところに身軽な牛若丸がやって来た。弁慶は七つ道具を活用することもなく勝負がついたという。


注1 半導体新世紀委員会(SNCC):Semiconductor in New-Century Committee 注2 SoC(System on a Chip、SNCCの報告書ではSystem on Chip):これまではMCUやメモリなど機能ごとに別々のLSIチップを使って構成していたシステムを一つのチップ上に集積したLSI。


光和技術研究所

代表取締役社長

禿 節史(かむろ せつふみ)

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