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オルバニーナノテクの成果

米国のオルバニーナノテクは2001年(注1)にニューヨーク州政府が主導しニューヨーク州立大学オルバニー校ナノスケール理工学部を中核として結成されたナノエレクトロニクス研究開発のための産官学連携コンソーシアムである。その後、発展的にここを母体としてナノスケール理工学カレッジ(CNSE)が創設され(注1)、ニューヨーク州の5つの「卓越した研究拠点」、即ち「センター・オブ・エクセレンス」の1つに選定されて成長し、今や半導体クラスターの成功例と報告2)されるに至っている。ここでは知事の予算教書と合わせてその成果を考えてみたい。

SEMATECHは技術開発促進による産業の振興を主眼とした産学官提携であった。それに対し、このオルバニーナノテクは趣旨としてはもちろん、ナノテクの研究開発、商品化とその推進が目的ではあるが、しかし州政府にとってナノテクそのものはむしろ呼び水で、究極的には地域振興、雇用の確保が目的であることが前者と異なる点である。

既にオルバニーナノテクに関して詳しく報告された記事も多い。例えば大下淳一氏(注3)は「ニューヨーク州の思惑がシリコンバレーやオースティンなどに奪われつつある産業拠点としての求心力を再び取り戻したいということにあった」と指摘しつつ、「オルバニーナノテクがビジネス直結型である」ことを強調し、「つくばへの手紙」として記事をまとめている。また、それより前に木ノ切恭治氏(注4)も、同様にここを「ナノテク技術の事業化を推進するコンソーシアム」として紹介している。また米国電気電子学会誌(注5)や国際光工学学会予稿集(注6)などにもオルバニーナノテクを紹介している記事や論文がある。さらに、電子情報技術産業協会(JEITA)7)などの海外駐在員からも多く報告されているし、文部科学省ナノテクノロジーネットワークセンターのナノテク最新情報ナノネット2)などもオルバニーナノテクをめぐる極端紫外線(EUV)露光技術の最新情報を報告しながら、日本のコンソーシアムを指し「国家プロジェクトの意義が問われる試金石」、「産官学の役割を考え直すのも無駄ではない」と指摘している(注8)。

2004-05年度のパタキ知事の教書(注9)には政策に関して1995年からの経緯と2004年以降の展望が述べられており、「経済成長のための長期戦略」として3つの柱を掲げている。即ち(1)意欲的な減税、(2)産業への戦略的投資、(3)ビジネスコスト軽減を柱とした税優遇政策である。この施策によりニューヨーク州はその後の2006-07年の教書10)によると累計60万の雇用を創出したと記載されている。これは前記3本柱によるものであり、その内ハイテク優先戦略投資分から生まれたものは仮に3分の1とすると20万から10万程度になろう。そのハイテク優遇策で生まれたセンター・オブ・エクセレンスは既に5カ所ある。従ってオルバニーがその5分の1程度を担うものとしたら、2~4万が達成されれば良い。内数か外数か紛らわしい点もあるがそのまま引用するとホームページ1)ではCNSEで2000人、AMDで1200人、・・・教書(注9)でもInternational SEMATECH Northで500人、東京エレクトロン研究センターで300人、・・・という雇用創出数が出てくる。これらの数字はコンソーシアムが当初の目的に対してこつこつと努力して積み上げて行った、それなりの意味を持つ数字である。

2004-05年の教書(注9)では、知事の政策期間を2期に分けてまとめている。第1期はハイテクへの投資が利益をもたらすまでの時期としており、パタキ知事の最後の教書(注10)の経済成長欄において「オルバニーナノテクは雇用を創出し第1期の目標を達成した」と述べている。参加企業数として250社を擁している事実と、何と言ってもSEMATECHを巻き込み、International SEMATECH Northを設立させて本社機能をも誘致した事実、そしてApplied Materialsと東京エレクトロンという世界第1位、2位の半導体設備企業の研究センターを誘致したこと、そしてIBM、AMDなどの企業をサポートし地域振興に役立てていることは紛れもない事実(注1)(注9)(注10)であり、産業に直結して、ビジネス振興に貢献した証拠と言えよう。CNSEやパタキ知事を雑誌の調査や業界団体協会など第三者が評価をしている事例が多数ある(注1)(注9)ことも成果を裏付けている。

最新の技術開発に関しても液浸露光装置の試作機に続き、オランダASML社よりEUV露光装置の試作機を導入し、さらに同じ時期に同じ装置を導入したベルギーIMECと共同研究体制を確立し解像性能評価や材料・製造装置の開発を行う計画である(注11)。先ずはCNSEのオルバニーナノテク施設に設置されている試作機を使って共同研究をスタートさせ、以後は装置のスループットなどに応じて、両施設で研究活動を行うことになっている。これはCNSE、IMEC、IBM、ASMLの提携であり、そこでCNSEがリーダーシップをとったことになる。米国内のみでなく日欧から企業をひきつける魅力あるコンソーシアムとして、クラスターとしても成熟期に入っている(注2)。

筆者の感想では、パタキ知事は2004-05年教書(注9)の時点で既に、ナノエレクトロニクスよりナノバイオサイエンスに力点を移して来ている印象を受ける。またその後のスピッツア知事も財政再建に傾注すると述べている(注12)。このコンソーシアムには東京エレクトロンなど日本を代表する企業も参画しているので、今後、例え政権交代、政策変換などがあっても揺るぎなき発展をするよう、最先端技術の開発を持続し半導体産業界のために更なるビジネス直結型の成果を上げられることを期待する。


(謝辞)
この調査は武田計測先端知財団常任理事垂井康夫東京農工大名誉教授の指導の下になされた。ご支援ご討議頂いた同財団専務理事赤城三男氏、及び同財団関係者に感謝する。

財団法人 武田計測先端知財団 プログラムスペシャリスト 鴨志田 元孝


(参考文献)
1)College of Nanoscale Science & Engineering:http://cnse.albany.edu/
2)ナノテク最新事情#420“オルバニー・ナノテク・センターに日本企業進出”、文部科学省ナノテクノロジーネットワークセンター.htm、nanonet 2006.06.06、http://www.nanonet.go.jp/japanese/column/2006/420.html
3)大下淳一、“つくばへの手紙 米国「Albany NanoTech」が狙う”ビジネス直結型“の研究開発”、日経マイクロデバイス2005/05号p.43−p.49
4)木ノ切恭治、“ナノテク技術の効率的な事業化を推進する米Albany NanoTech”、日経マイクロデバイス、2004/01号p.105
5)N. Savage、“New York State Wins Top Semiconductor R&D Lab---Could Hudson River area become another Silicon Valley?”、IEEE Spectrum、Sep. 2002、p.26-p.30
6) M. Tittnich, J. Hartley, G. Denbeaux, U. Okaroanyanwu, H. Levinson, K. Petrollo, C.Robinson, D. Gil, D. Corliss, D. Back, S. Brandl, C. Schwarz, F. Goodwin, Y. Wei, B. Martinick, R. Housley, P. Benson, K. Cummings、“A Year in the Life of an Immersion Lithography Alpha Tool at Albany NanoTech”、Proc. SPIE Vol. 6151 published online Mar. 22, 2006
7)例えば 荒田良平;“ニューヨーク州におけるナノテクの取り組み”、JEITAニューヨーク駐在員報告2002年10月号 http://it.jeita.or.jp/infosys/f-office/newyork0210/newyork0210.html
8) ナノテク最新事情#552“EUV露光装置がCNSE’s Albany NanoTechとIMECに納入”、文部科学省ナノテクノロジーネットワークセンター.htm、nanonet 2006.08.31、http://www.nanonet.go.jp/japanese/column/2006/552.html
9)New York State Division of Budget 、“NYS 2004-05 Executive Budget”: Economic Growth  http://www.budget.state.ny.us/pubs/archive/fy0405archive/fy0405littlebook/econGrowth.html
10)New York State Division of Budget 、“NYS 2006-07 Executive Budget”:Economic Growth
11)“UAlbany Nanocollege and IMEC to collaborate on EUV Lithography; First Experiments tobe performed at CNSE’s Albany Nanotech”、IMEC Press Release 2008.01.21 http://www.imec.be/wwwinter/mediacenter/en/Albany.2008.shtml
 及び“IMECとAlbany NanoTech、EUVリソ開発で提携(08/1/24)”、Semiconductor Japan Net、http://www.semiconductorjapan.net/newsflash/semicon/080124_02html
12)New York State Division of Budget 、“NYS 2007-08 Executive Budget”
及び冒頭のGovernor Eliot Spitzer のレター

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