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日経BP IT Japan 2020 を視聴して(後編)~エグゼクティブ講演より

“人”に最大の力を マイクロソフトの挑戦(日本マイクロソフト)
―講演内容
日本マイクロソフトからは執行役員常務・クラウド&ソリューション事業本部長の手島主税氏が登壇した。現状の急速なDXの進展を「通常なら2年かかるDigital Transformationの進展が、わずか2ヵ月で達成されたのが現状だと言える」と表現されたのが印象に残った(参考資料1)。

最も驚いたのは、奥でお子様が遊んでいる居間で、在宅勤務の女性セールスエンジニアがゴーグルを装着し、仮想空間で顧客に自社製品の取り扱いを説明しているシーンであった。3次元空間で自社製品を両手で操りながら、さも実際に扱っているかのごとく解説していた。もちろん、ゴーグルを着けていない他の人から見れば、ダンスをしているようにしか見えない。題名のように、この場合の“人”は女性セールスエンジニアであろうが、DXは“人”に最大の力を付与している。

―感想
前報(参考資料2)で述べたように、6月に津田編集長から受けたメールで始めたWebinarやオンライン視聴も、この2ヵ月で筆者の生活の中に急速に入り込んでいるので、講演者が冒頭で、現状のDXの進展具合を「2年分が2ヵ月で」と表現されたのは、実感となって耳に入ってきた。

仮想空間の活用などで、これなら確かに在宅勤務でも、生産性も上がるだろうと納得した。他にもWebで調べると、「日本MS、3D空間で仮想イベント」というタイトルで既に日本経済新聞から2020/6/16 13:49に配信されている(参考資料3)。また日本マイクロソフトでは、既に仮想空間で展示会を開催する試みも行っていると報道されていた(参考資料4)。

前報(参考資料2)で筆者はウェビナー(Webinar)と比較してリアルの展示会の良さも述べたが、この講演では仮想空間展示会には触れられなかったのが残念である。「一目瞭然」ともいうように、実際の展示会見学で得られる情報量は、読み取ったり聞いたりする情報量に比べて、格段に多い(と思う)。もう後戻りできない現状では、ぜひリアル展示会見学と同等の情報が、リアル感とでも言うのか、実際のスピード感で得られるよう、この種のデジタル技術開発を更に進展させて頂けることを望みたい。

既に例えばIT Media社はバーチャルEXPOを春(参考資料5)と秋(参考資料6)に開催しており、withコロナ時代、実際に展示会をリアルに体験できない環境下で、非常に役立つ情報を提供している。時宜にかない、大変有難いことだと思う。

但し筆者は使い方に慣れていないためだろうが、直列にブースを並べた画面を順番に見ていくと、どうしてもリアルと異なって、あたかも視線をいつもまっすぐに固定して歩くような違和感を覚える。時折周囲を見渡すとか、振り返ってみるということができないものだろうか。もちろんブースのコマを戻せばよいのだが、そこにタイムラグを感じて、リアルの見学との違いを気にしてしまう。それも仕方がないのかもしれないが、歩きながら技術動向を肌で感じるには、周囲を見渡す動作も必要と思うので、少しでもバーチャル感を増し、かつ使い勝手をよくする改良改善が積み重ねられること願っている。

New Normal時代を勝ち抜く新たなデジタル戦略の実践(デル・テクノロジーズ)
―講演内容
デル・テクノロジーズ代表取締役社長の大塚俊彦氏はアンケート調査を示しながら、新型コロナショックはIT産業を加速していると分析し、コロナショックから回復するための同社のデジタル戦略を披露した。急速にV字型回復とは行かないだろうが、ボトムからU字型回復を始めるトリガーとして、先ずトータルコストの削減を掲げており、具体的には損益改善、生産性向上、継続の保証、収益源確保などの方針を強調している。

更にそれを具体的に進める手段として、ITの競争力強化、xFH(Everything from Home)の実現、デジタル競争力強化のためのプラットフォーム、社会インフラ改革の取り組みを掲げていた。

その実現のため先ずはas is(現状)を可視化して、いかにto be(将来)モデルを構築するかという計画企画が重要になる。また今後はテクノロジーそのものがビジネス戦略になる。マルチクラウド(参考資料7)でコストを削減し、柔軟なファイナンシャルモデルを構築することも重要で、その際、国内・海外の事例知見も活用すると述べていた。

―感想
企業向けのみならず、個人向けも含めて幅広くパソコンを提供している企業が、今後はプラットフォームやクラウドも視野に入れている。コロナショックからの回復戦略と方向、方針を示しながら、それを具体的に進める戦術を描いた講演との印象を受けた。

ITを競争力の源泉に変えるための処方箋〜DXからPXへ(Nutanix)
―講演内容
仮想化環境のプラットフォームを提供しているNutanixコーポレートバイスプレジデント兼ニュータニックス・ジャパン社長の町田栄作氏は、ITを競争力の源泉に変えるための処方箋を述べていた。講演冒頭、「コロナで露呈した日本企業の課題」として、「デジタル化は単にビデオ会議を増やすだけではない」「実際の生産性と本当に結びついているのか」と問いかけていた。

「2025年の崖(参考資料8)をいかに乗り越えるかが大事だ」として、競争力を高めるにはITが鍵であり、Lift and Shift(参考資料9)はできるところからバランスを考えつつ着実にステップを踏んで進めなければならない。利用と所有(他社の活用と自社開発)のバランスをとることと、人材(人財)の育成、登用、再配置が重要であると述べていた。

―感想
本当の意味でオンライン化による利点を万民が享受しているだろうかと日頃から疑問に思っていた。そこへ「露呈した企業課題」として、「ビデオ会議が増えただけで、本当にそれを生産性に結びつけているか」との講師の問いを受け、やはりと思った。

「単にコロナ以前に後戻りするのでは意味がないので、着実にバランスを取りながらDXを進めていかねばならない」という指摘は、他の講演者も述べており、共に頷ける内容である。

今、描くべき未来と実現へのアプローチ (NTTデータ)
―講演内容
NTTデータ代表取締役社長の本間洋氏は、日本の現状として、ICT投資は横ばいで推移しており(参考資料10)、また学校のIT機器普及度はOECDで最下位である(参考資料11)というデータを示しながら、新しい社会を目指したデザインと、そのためのシステムやデータの徹底活用が重要であると説いていた。

Withコロナ終息の後、Afterコロナで元に戻るのではなく、先の未来を描かねばならないとして、withコロナの現状分析と課題を以下のように総括している。

(1) オンライン化は進展したが、企業内制度整備は追いついていない。中にはむしろ生産性が低下しているとの声もある。例を挙げれば、
(2) オンライン教育では、オンラインでの教え方と学び方を適切にデザインしない限り、元に戻るだけである。
(3) オンライン治療に関しても、患者―医師―創薬企業―病院を巻き込んだ医療全体のデザインが必要であり、
(4) リテール分野でも通販・EC(電子商取引)サイトとリアル店舗とを結びつけた、メーカー・卸―消費者、物流―店舗・ECの総合的なデザインが必要になる。
(5) 将来のスマートシティとして教育・医療・リテール・交通・製造などと総合的に整合性を持たせたデザインが必要である。建築家の隅研吾氏が「建築デザインとは街の風景・暮らし方をデザインすること」と述べている(参考資料12)。DXのデザインも全く同じであると説いていた。

圧倒的に人材(人財)不足で、全体構想ができるTop Architectとそれを支えるすそ野の広い専門性の高いスペシャリスト層によるArchitect が必須であると述べている。またビジネスと技術分野のそれぞれの専門Architectが必要で、デジタルコア人材育成が喫緊の課題と指摘していた。

―感想
前記講演と同様、日本の現状を詳細に分析しているのが、先ず印象的だった。DXは進展しても、その実態にはいろいろ問題がある状態なのは、経営トップの方々も当然気づいておられるのだと思った。このように具体的な戦略まで示されているので、後は実行あるのみであり、効果を期待したい。

DXが実現する人と社会のハピネス (日立製作所)
―講演内容
日立製作所フェローの矢野和男氏の講演である。「指数関数的に発展する場合は、標準化して横展開するだけでは追い付かない。実験と学習が必要でそれを繰り返し、自己完結する機動力を持て」と強調しておられた。「幸せだから生産性が高いのであって、その逆ではない」と指摘され、従業員の幸せを追求する重要性から、講師が開発された、データを使った幸福度測定の話になった。

―感想
講師の幸福度測定に関してはあまりにも有名(参考資料13)なので、ここでは省略させて頂く。詳細を知りたい読者は、参考資料13をご覧いただきたい。

デジタル技術で、新たな成長としなやかで豊かな社会へ(日本IBM)
―講演内容
日本IBM 代表取締役社長の山口明夫氏はDXデジタル変革で、日本企業の置かれた立場に触れ、次いで最新のテクノロジーを使った事例を説明された後、最後に量子コンピュータと人材(人財と表記されていた)育成に関して述べられた。

外変に対応できる企業にしなければならない。そのためには(1)リモートワークの推進(人事)、(2)顧客とのバーチャル接点の構築(営業マーケティング)、(3)事業継続性の強化 コンティンジェンシーを見直す(IT)、(4)機能性と効率化(COO、経営企画)、(5)サイバーセキュリティリスクの対処、(6)コスト削減とサプライチェーン継続性の強化を、それぞれ括弧内の部署を中心に、全社ベースで行う。

またデジタル変革の進捗を「見える化」するため、ビジョン、テクノロジー、組織力と人材育成の3分野にわたって、15項目、45項目を整備した。
 
例えばテクノロジーに関しては、ITについてどこまで進んでいるかという観点から、(1)アプリケーション、(2)データ&AI、(3)仮想化基盤、(4)インフラサービス、(5)セキュリティに関して、レベル1からレベル5までクラス分けして、図表上に「見える化」しながら日本と米国を比較していた。

デジタル変革が進んでいる企業の特徴は(1)トップ自らがリードしている、(2)外部との協創が進んでいる、また(3)テクノロジーの積極的活用、(4)試行錯誤推進の文化、(5)人材育成が進んでいる点で共通していると分析している。

事例として、(1)日本航空のハイブリッドクラウド(参考資料14)、(2)藤田医科大学のデータドリブン統合基盤(参考資料15)、(3)全日空のマーケティングセンター(参考資料16)やコロナ対策支援、(4)長野県と東京電機大学(参考資料17)のITプラットフォーム及び環境データ、(5)りそなのアジャイルでオープン協創基盤(参考資料18)を一覧表の形にまとめて説明された。

また金融プラットフォームや医療プラットフォームなどオープンプラットフォームの説明もあった。

世界に目を向けて、UPSにおけるAIで配送ルートを最適化する例(参考資料19)や、Food Trustにおけるブロックチェーンの例(参考資料20)が取り上げられていた。ロッテルダム空港のIoTとクラウドでデジタル化を進めた例(参考資料21)の説明もあった。

最後に量子コンピュータに関しては慶応大学にIBM Q network hubを構築したこと(参考資料22)と、東京大学との間にJapan-IBM Quantum Partnership(参考資料23)を結んだことなどが紹介された。これは前編で五神総長が量子イノベーションイニシアティブ協議会活動として触れておられたことと同じである。創薬や量子化学、AI/Deep learning分野で最適化やリスク分析を行うと述べていた。

人材(人財)育成に関してはダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包摂)を重視するとのことである。対話と協同が大事で、イノベーションは人と人がどう対話するかによって産れるものだと締めくくっていた。

―感想
「対話と協同が大事。イノベーションは対話の中から産まれる。」と述べておられるのが印象に残った。いかにオンライン上でもリアルのような対話を進めるか、その工夫がDX進展と共に重要と感じる。

ポストコロナ時代を勝ち抜くDcX戦略~データデバイド解消に向けて (インテル)
―講演内容
インテル代表取締役社長の鈴木国正氏は、インタビューを通して「情報格差(digital divide)、あるいはデータ格差(data divide)を解消するためには、いかにして使い易くするかという点にエネルギーを傾注しなければならない」と説いていた。

―感想
情報格差に触れられた数少ない講演者であった。日本の代表的IT企業が揃って、経営トップによる密度の濃い立派な講演が続いたが、残念ながら以降は前報で書いたIEEE東京支部のWebinarと重なり、十分聴講できなかったので、割愛する。

まとめ
視聴後の感想を一言で言えば、第一線の経営トップの方々の、大変元気のよいご講演に敬服した。というより、その元気さに圧倒されたというのが正直な気持ちである。Zoom講演に慣れていなかったための目新しさなのかもしれない。自分の言葉で、情熱をもって講演されるお姿に惹かれた。そうでなければならないし、またそれが当然と思いながらも、その若さがつくづく羨ましく思えた。流石、日経BP社に選ばれた講師陣である。

印象に残ったのは、どこも現状分析をして、それを基にafterコロナを見据えながら未来像を描いていたことだった。コロナショックの早期終息とV字(あるいはU字かもしれないが)の早期回復を期待している。

また急速なDXの進展に追い付いていない側面に触れ、その克服策を論じていた講演者が多かったのも印象的だった。その一つとしてイノベーションには送信側と受信側の対話の重要性も指摘されている。教育現場などでも急速に進んだオンライン授業に、従来の「リアル」に比較して、「オンライン」の負の面を強調する声も実際には多い(参考資料24)。オンライン上でもいかに講師は受講生との対話を行い、受講生に合った講義にするか、また受講生はいかに受講の効果を上げるかなどといった、講師側(送信側)、受講生側(受信側)双方の、より一層の工夫が求められるのだろう。

要はリアルの対話から得られていたメリットを、いかに今後のDXの中に取り入れて発展させていくかが重要と思われる。例えば仮想空間の活用などがその解決方法の一つではないかと感じた。

謝辞
セミコンポータル編集長津田建二氏にはいつものように査読を賜った。一人になるとどうしても情報が少なくなってしまう。最新の見識で原稿を査読して頂けるのは大変有り難く、心より厚く御礼申し上げたい。

参考資料(後編)
1. 講演ではどなたかの言葉の引用だったような記憶があるが、メモを取り損ねた。
2. 鴨志田元孝、“ウェビナーを視聴して見えてきたもの” Semiconportal (2020/09/11)
3. 日本経済新聞
4. 東将大、“日本MSが仮想空間で展示会を開催、リアルの良さを取り込む試行錯誤は続く” 日経XTECH(2020/06/22)
5. 例えばITmedia Virtual EXPO 2020春
6. 例えばITmedia Virtual EXPO 2020秋
7. 講演者は「マルチプルクラウド」はいくつかのクラウドを使うことであり、「マルチクラウド」はそれを統合して製品に結びつける意味であると、両者の違いを説明していた。
8.「2025年の崖」に関しては経済産業省のweb 参照
9. Lift and Shiftの解説は、例えばhttps://www.beex-inc.com/blog/lift-and-shift-concept/
10. 例えば総務省統計
11. 例えば文部科学省
12. Webを探したが出典は見つからなかった.
13. 例えばwebならhttps://www.dodadsj.com/content/190725_hitachi/
 書物なら「データの見えざる手
 その他 矢野和男、湊長博、稲川貴大、唐津治夢、「ハピネスを求めて‐AIエンジン・免疫と癌・民間ロケット」武田計測先端知財団編、丸善プラネット(2018) など
14. 例えばhttps://japan.zdnet.com/article/35143201/
15. 例えばhttps://www.ibm.com/jp-ja/case-studies/hospital-fujita-hu
16. 例えばhttps://active.nikkeibp.co.jp/atcl/r/19/RSP537738_15072020/
17. 例えばhttps://japan.zdnet.com/article/35152189/
18. 例えばhttps://dcross.impress.co.jp/docs/usecase/001696.html
19. UPSはUnited Parcel Service, Inc, 国際輸送サービス
20. IBM Food Trustに関してはhttps://www.ibm.com/jp-ja/blockchain/solutions/food-trust
21. Webで検索したが該当する記事は見つからなかった
22. https://www.keio.ac.jp/ja/news/2018/5/22/27-44149/
23. https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400129072.pdf
24. Web上では多数あるが、例えばhttps://gooddo.jp/magazine/education/online-education/10155/

2020年9月10日投稿
2020年10月3日修正

技術コンサルタント 鴨志田元孝

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