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日本の電機再編は意味あるか〜ルネサス/NECエレの経営統合がもたらすもの〜

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ルネサステクノロジとNECエレクトロニクスが統合するとの一部報道があり、世間を騒がせている。これをスクープした日本経済新聞の論調は、この両社を合わせた生産額は、およそ約130億ドルとなり、インテル、サムスンに次ぐ世界第3位の半導体メーカー誕生と持ち上げている。しかしながら、辛口で知られる高名なアナリストにこの経営統合をどう思いますかと聞いたところ、次のような答えが返ってきた。

「負け組み同士が、お互いの傷を舐めあって何があるというのか。何もない。見るのもつらい」

実際のところ2009年3月期については、ルネサスが2060億円の赤字、NECエレクトロニクスは650億円の赤字を計上しており、この両社が統合したところで、シナジー効果が生まれるかどうかについては、疑問視する向きが多い。両社ともにマイコンとシステムLSIを得意にしているが、この有力なアプリケーションが今後急速に拡大するとは思えない。世界のデジタル家電製品は、ローコストのロープライス版が主流となっており、値段の高い高付加価値型のマイコンやシステムLSIが多く採用される動きにはない。

「世界最大の携帯電話メーカーであるノキアの普及タイプ6085には、日本メーカーの半導体はひとつも入っていない。iPhoneについても、残念ながら日本メーカーの半導体はただのひとつも入っていない。さらに言えば、LGのフル装備のスマートフォンにも日本製の半導体がひとつもない。これらの製品は、90ナノプロセスの半導体をせいぜい2〜3個使っている程度であり、きっちりとロープライスを実現している。ワールドワイドの普及型のセット商品を見れば、日本の最先端システムLSIが登場するステージはどこにもない」(アイサプライジャパン 南川 明副社長)

日本の半導体が内向き志向であり、その生産の60%がほとんど日本国内で消費されていることはサプライズだ。言わば、江戸時代のような鎖国状態にあり、とてもグローバリゼーションできているとは思えない。その主な原因はどこにあるのだろう。

第一に最近の半導体アプリケーションは、デジタル家電25%、パソコン25%、携帯電話16%、自動車7%となっている。つまりは、半導体消費が企業・産業向けから個人・家庭向けにシフトしているのだ。ようするに産業用よりも民生用が強いマーケットになっている。しかも、とりわけ台数の多い携帯電話を引っ張っているのは、先進国ではない。世界の携帯電話保有者は、今や35億人に達しているが、その三分の二は先進国ではない。このことが意味するのは、1万円程度の電子機器でなければ買えない層が現状の半導体市場を支えているのだ。とにかく高付加価値で値段が高いという、日本製部品の出番がないことはこれでよくおわかりだろう。

第二には、EMSの巨大化という現象がある。世界最大の半導体ユーザーは、今やノキアではなく、EMSのFOXCONNなのだ。現状においては、半導体を購入するユーザーの30%は、EMSだと言ってよく、これが近い将来に40%までに上がっていくだろう。ちなみに2000年頃はEMSの購入比率は10%以下であった。調達先が大きく変わったのだ。しかしながら、日本の半導体メーカーは内向きで、恥ずかしがりやで、おしとやかだから、EMSへの販売ルートをほとんどまともには持っていない。このルート開拓しようとしているが、欧米メーカーやアジアメーカーにすでに市場を侵食されており、なかなか太いルートが築けない。そんな状況で日本の半導体が世界のステージに躍り出るのは考えられない。

もっとも、次世代照明として有力な白色LEDは日本勢が圧倒的に強い。最先端パワー半導体のIGBTはこれまた日本勢が強い。デジタルカメラなどに使用されるCCDも日本のお家芸だろう。何から何まで弱いわけではない。しかしながら、コモディティ製品である携帯電話やパソコン、液晶テレビなどの世界で本流の半導体を取れない限り、日本の飛躍はない。

今回のルネサス/NECエレクトロニクスの経営統合を皮切りに日本においても業界再編がさらに進むことは間違いない。それにしても、日本国内のちまちまとしたマーケットだけで勝負するのであれば、いくら再編を進めても縮小再生産になるだけだろう。

ところで、今回の経営統合劇を見て感じさせられたのは、日本の業界再編において、東芝と日立が組むと言うことは絶対にないということだ。同じくNECと富士通が組むこともあり得ない。さらに言えばソニーとパナソニックが連合軍を組むことは100年たってもないだろう。このことを前提に考えれば、日本の電機業界の再編は、すごく簡単な図式だと思えてならない。

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