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中国半導体、28/45nmプロセスでシェア過半数へ〜30年までに14兆円も投入

中国半導体産業に黄色信号が灯っていると多くの人が指摘している。中国企業および政府系は、半導体分野に開発および量産を含めて、なんと16兆円を投入してきたのである。その結果として、中国の生産シェアは日本にほぼ並びかけたという見方も出ているが、正確な発表はされていないので、いかんせん推定レベルに留まっている(編集注1)。

泉谷渉の視点

こうした動きに対して、米バイデン政権は徹底的な中国包囲網を築いている。23品目にわたる最先端の製造装置、半導体材料、さらには先端半導体そのものを輸出することを禁じるといった動きの中で、ここに来ては日本の装置業界や材料業界にすさまじい勢いで発注が来ている。つまりは、「止められる前にいっぱい買ってしまえ」というわけなのであろう。こうした状況に対し、著名アナリストの南川明氏は、やや憂い顔でこう述べるのである。

「バイデン政権がやっている施策は、すさまじいものがある。要するに中国叩きなのであるが、米国の業界団体であるSIAは、中国が輸出禁止の対象とはなっていない旧型のレガシー半導体に大規模な投資を行っていることに懸念を強めているのだ。こうした半導体は、多くの軍事用途に対して十分に要求を満たすことができる。そしてまた、日本や欧州勢が得意としているパワー半導体などの牙城を中国勢が大きく浸食してくる可能性が強まった。はてさて、どうしたものか」。

そしてまた、最近になって中国ファーウェイが、国内全土で自社名を隠した形で半導体製造施設の建設を秘密裡に進めているというのであるからして、まさに驚きだ。名前の挙がった5カ所の半導体工場は、次のようなものである;

(1) Qingdao Si’En : Power ICs and Microcontrollers / Qingdao
(2) Fujian Jinhua : DRAM / Quanzhou
(3) SwaySure : DRAM / Shenzhen
(4) PXW : Image sensors, RF chips / Shenzhen
(5) PST : Logic / Shenzhen

ちなみに、これらの5カ所の隠れファーウェイ工場が作っている半導体は、DRAM、パワー半導体、CMOSイメージセンサ、マイクロコントローラ、RF IC、ロジックICなどである。ファーウェイは、2022年から半導体生産に乗り出しているが、政府と深圳からなんと4兆3700億円の資金を受け取っており、2つの既存工場を買収し、3つ以上の工場を建設中なのである。

「中国政府が半導体への投資を取りやめる、またはシュリンクする可能性などはほとんどない。半導体を制するものは世界を制する、と言われているからだ。ただし、先端製品へシフトすることが不可能であれば、当然のことながらレガシープロセスに行くだろう。2030年まで14兆円の投資を断行し、23カ所の新工場を作るという情報もあるのだ」(南川氏)。

中国政府の戦略は、ここに来て大きく変更している。先端品が作れないことになるのであれば、28nm〜45nmで勝負をかけて、こうしたレガシー半導体で世界シェア50%以上を獲ると断言しているのだ。そんなことをされたら、まずもって困るのは、パワー半導体メーカーである。世界トップをいくドイツのInfineon Technologiesをはじめとして、onsemiやSTMicroelectronicsなども中国台頭に直撃されるだろう。当然のことながら、三菱電機、富士電機、ローム、東芝デバイス&ストレージ、ルネサスエレクトロニクス、新電元工業、サンケン電気などのパワー半導体メーカーもまた、大きな負の影響を受けることになる。

さらにシリコンバレーにおいては、中国向けの先端デバイス輸出を規制されることは、売り上げ計画に大きな支障が出るとして、バイデン政権の動きに反対を表明する動きが広がっている。米中半導体戦争の行方はどうなるのか。様々な矛盾と、様々なサプライズがこれからも生まれてくるに違いないだろう。

産業タイムズ社 代表取締役会長 泉谷 渉


編集注
1. 日本に本社を置く半導体企業の市場シェアは2022年に円安の影響で9%に下がったが、日本に存在する工場の生産能力の世界シェアは21年に15%、20年も16%という数字は複数の調査会社から出ている。中国工場の生産能力シェアは20年に14%だったが、21年には16%で日本を抜いたという数字は、調査会社Knometa Research社発行のGlobal Wafer Capacity 2022に掲載されている。

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