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ソニー半導体はメタバース革命で爆裂的成長の気運〜月産100万枚のライン〜

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猫も杓子もメタバースに注目、と言い張って止まない。直近の半導体マーケットがいささかの低空飛行に入ってきただけに、2023年以降は新たなメタバース市場に期待したいという思いが強まってきたのであろう。実際のところ、メタバースは初めのマーケットとしては、何と言ってもゲーム市場が開花するのである。

2024年段階で、メタバース関連のゲーム市場は10億ドルになると見られている。そして株式市場で見れば、ゲームとeスポーツでメタバース関連の時価総額は倍々ゲームになる、とも言われている。かなりいやらしい映像の世界を思い浮かべる人は少し考え直した方がよい。メタバースが切り拓く世界の本命は、産業向け市場にあるのだ。遠隔医療、リモートでの作業、さらにはリアル溢れる仮想現実の会議など、メタバースは人類が初めて時間、空間、距離を超えていく、ある種の産業革命と言ってもよいことなのである。

注目される端末は、やはりスマートグラスとスマートウォッチであろう。スマートグラスにおけるマイクロLED、スマートウォッチにおけるMRAM採用など、半導体においてもゲームチェンジの時代がやってくる。

一方で、22年のスマホの出荷数量を見れば前年比11%減の12億台に留まっており、2013年以来、最も少ない水準にある。新型コロナウイルスによる消費不振、ロシア・ウクライナ戦争による影響など様々なことが言われているが、スマホの後退は新たな端末の登場を予想される出来事なのだ。

それはともかく、先ごろ帝国ホテルで行われた講演会で「プレステの父」と言われる久夛良木健氏(ソニー元副社長)にお目にかかった。現在、久夛良木氏はアセントロボティクスの代表取締役であり、近畿大学の教授の任にも就いているが、講演の中ではひたすらメタバース時代の到来は革命的、と強調していた。もちろん、同氏はゲームの世界を知り抜いている方であるが、ソニー半導体がメタバースに多大貢献することも考察しているようであったのだ。

ソニーのCMOSイメージセンサは、光を電気信号に変換する半導体デバイスであるが、ひたすらに市場拡大が続いている。普通に考えても、CMOSイメージセンサ市場は2022年で200億ドル規模となったようであるが、ソニーは約50%のシェアを握っているとみられる(編集注1)。2030年までは毎年10%成長を遂げていくとみられ、400億〜500億ドル程度は十分に見通せる状況である。

ところで、CMOSイメージセンサの破壊的なイノベーションが技術的には始まっている。たとえば、有機光電変換膜を用いたイメージセンサ、量子ドットを用いたNIRセンサなども登場してきている。ソニー自身も、世界初の二層トランジスタ画素の積層CMOSイメージセンサ技術を最近になり確立し、従来比2倍の飽和信号量によるダイナミックレンジ拡大とノイズ低減を実現した。

「DXの根幹をなすのがトリリオンセンサの世界である。つまりは、ただ画像を認識するだけではなく、人間の心の中にある情緒の世界まで踏み込む。リンゴの表面を見ただけで中身が腐っているかわかる。人間の顔色を見ただけで、悲しいか楽しいか悩んでいるかがわかる。そして、これを取り込んだ上で、AIを活用するのである。センシングして、スマート化の頭脳であるAIとつなげれば、まさに産業の変革が起きる。時間という概念の形成も変わってくる」。

こう語るのは、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリングの元社長である上田康弘氏である。上田氏は、第4世代のイメージセンサはインダストリ5.0(編集室注2)に対応し、あらゆる「モノ」がお客様の好みにより進化し、気持ちに寄り添って機能する、というのである。交通のスマート化、安心安全のスマート化、産業のスマート化、サービスのスマート化、医療のスマート化を進めるために必須になるのが、CMOSイメージセンサを中心とするトリリオンセンサであるとする。どこまで行っても人間中心であるが、AIとロボットとトリリオンセンサの組み合せによって社会変革がされるという新時代の到来を予言しているのだ。

ちなみに上田氏は、AIに画像データを食わせる世界になれば、100億個のセンサが必要になるわけであり、このためには30mmウェーハで月産100万枚の巨大ライン構築が必要になると指摘する。しかし筆者は、この数字を聞いて、なんというサプライズ!という気持ちになった。

月産100万枚というのは、いまや半導体生産という点で事実上の世界チャンピオン(売上高9兆7000億円)である台湾TSMCが持つ生産能力と同じ水準になる。ソニー半導体は今後、巨大設備投資を実行していく以外にはないだろう。九州エリアで大型新工場立地を数件、考えていると推察され、熊本県西合志の新工場は間違いなく大型のものになるであろう。

産業タイムズ社 代表取締役会長 泉谷 渉


編集注
1. ソニーが今強いのはスマートフォン向けのCMOSであり、そのシェアは50%以上を持つ。ただし、車載用はまだ弱く、onsemiやOminivisionなどよりもシェアは少ない。しかし、LEDフリッカー対策と広いダイナミックレンジを両立させた新構造の画素により車載用を伸ばす方向にある。
2. Industry 4.0の概念がドイツで発表されてからまだ数年しかたたないのにIndustry 5.0をEU(欧州連合)が打ち出している。Industry 4.0はIoTやDXを使って生産性を上げ、売り上げ増につなげる技術であり、単なる情報化社会のIndustry 3.0とは明確な違いがある。しかし、Industry 5.0はさらにサステナビリティと人間性(ヒューマンーセントリック)を加味し、レジリエント(回復力の強い)欧州産業への変換を加えたものとしている。言葉遊びの意味合いもある。

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