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半導体の新時代は台湾TSMCを中心に回り始めた!〜日本にも第2工場構想中〜

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何かと話題が集中する熊本県下を取材サーキットしてみた。何といっても注目の的は、台湾TSMCの熊本県菊陽町に建設される新工場である。すでに鉄骨がくみ上げられており、まさに突貫工事で立ち上げが進んでいた。今後はさらに建設人員を増やしてとにもかくにも急ピッチで稼働に持ち込む考えだ。

敷地面積は約23万m2と広大、回路線幅は10〜20nmのプロセスであり、300mmウェーハ換算で月産5万5000枚を生産する予定である。12月の出荷開始を見込んでおり、約1700人が従事するのだ。この経済効果はすさまじい。中長期的には熊本県下に3兆円とも4兆円とも言われるTSMC進出効果が見込まれるというからであるからして、驚きである。

またTSMCはこの日本初となる熊本新工場に続いて、第2の量産工場を日本国内に進出する意向もほのめかしている。日本政府はもしそれが実現するのであれば、大歓迎であり、必要な補助金はきっちりと準備するというのだ。何と決まってもいないのに金をだすことだけをちらつかせている。軍事防衛予算の引き上げを図るべく1兆円の財源確保にも四苦八苦してきた政府であるが、ことTSMCのことになるとやたらと気前のいいことを言っている。

それはともかく、TSMCは、同じく2024年稼働開始予定で米国アリゾナ州に1兆7500億円を投入し、新工場を立ち上げている。熊本の投資額の1兆円をはるかに上回るスケールなのである。バイデン大統領はTSMCのアリゾナ工場の装置搬入式典に参加し、お祝いの言葉を述べた。それだけ重要な工場なのである。ちなみにTSMC熊本の場合には岸田総理は出席しなかった。これを見ても半導体強化は最重要課題としながら、国のトップが示す対応は全くといってよいほど異なるのだ。これでは日本国民の間で「半導体を制する者は世界を制する」という世論を形成することはできない。

TSMCのアリゾナ工場に最初に納入された装置は6台であり、AMAT、Lam、KLA、ASM、ASML、東京エレクトロンがそれである。この米国新工場の顧客はApple、AMD、NVIDIAになると言われている。

さらに加えてTSMCは現在建設中の拠点に隣接するところに、米国での2カ所目の工場設立を検討しているという(編集注1)。こうなればTSMCのアリゾナはトータル投資額が400億ドル(ざっと5兆円)という巨額になるわけであり、4nmファブ、ならびに3nmファブという最先端半導体を量産することになる。これまた熊本よりは、はるかに上位のものになるのである。

こうしたやつぎばやのTSMCの日本および米国進出は何を意味するか。言うまでもない。仮に中国政府が台湾に侵攻してきた場合のリスクヘッジと見るべきであろう。そしてまた米国側の意向としても、現在半導体製造シェアが12%しかないために、これを20年代末までに30%に引き上げたいのだ。IntelのGelsinger CEOは、「台湾は重要な役割を果たしているが不安定な状態であり、半導体の世界は地理的にバランスがとれたサプライチェーンが必要」とコメントしている。

すなわち次の50年は半導体製造工場がどこにあるかが重要なのだ。現在ではアジアの製造が世界の80%を占めているというアンバランスであり、米国はこれを是正することがNATO各国の国家安全保障に繋がると本気で考えているのである。


産業タイムズ社 代表取締役会長 泉谷 渉

編集注
1. TSMCのニュースリリースによると、第2工場の建設を始めている、という表現をしている。

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