SDGs時代に必要なのはアジャイルチップ!〜技術研究組合RaaSの黒田忠広氏〜
「DX革命が加速度的に進んでいるが、(このままでいくと)2030年には現在の総電力の2倍、2050年には200倍もの電力をIT機器だけで消費してしまう。データセンターの電力に至っては、2022年に対しては2030年に9.4倍になる。エネルギー危機の解決なくして、データ駆動型社会の持続可能な発展はあり得ないのだ」。
こう語るのは、経済産業省のニッポン半導体の復活プロジェクトを推進する技術研究組合RaaS理事長の黒田忠広氏である。黒田氏は、よく知られているように、かつて東芝半導体にあって著名なエンジニアであり、現在も東京大学大学院の教授の任にもあり、同学のシステムデザイン研究センターの最高責任者の地位にもある方である。
黒田氏によれば、世界的なSDGs革命が進む中にあって、エネルギー危機の原因はいつにかかってAIにあるという。AIの演算量は10年で4桁も増大しているのに、プロセッサの電力効率は10年で1桁しか改善していないと示唆する。こうなれば、何としてもAIに代表されるすべてのIT機器において、圧倒的なエネルギー消費低減の方法論を考えなければならない。
「テクノロジーによる解決としては、3D集積のチョークポイントを押さえるべきだ。微細化は海外が強いが、日本は3D集積については強みを持っている。これまではひとえに、半導体工程は前工程に大型投資をやってきた。しかし今後は、後工程の投資を拡大することにより、エネルギーを激減させることができるのだ」(黒田氏)。
後工程の中でもパッケージ組立に滅法強いのが日本なのである。データ移動するエネルギーは3D集積により桁違いに低減できるわけであり、パッケージ技術の集積のある日本勢の出番なのだともいう。
もうひとつのエネルギー効率を高める方法論は、専用チップを開発することにあるとも指摘する。つまりは、エネルギー効率が桁違いに高い専用チップ(3D-ASIC)の時代がやってくる。これまでは、プログラム内蔵のノイマン型チップが圧倒的に多かったが、今後はハードワイヤード論理のチップの開発を加速することで、多くのことが解決される。ハードワイヤード論理チップの代表格はFPGAである。今後は、並列的に実行する専用ICを作ることで、電力効率は100倍改善されることになるのだ。
「専用チップの開発コストは7nm量産の場合、100人で1年間かけて50億円にもなる。しかしながら、プログラムを書くようにチップを設計し、プログラムをコンパイルするようにチップを試作すれば、ソフトと同様にチップもアップデートでき、開発・改良のサイクルをすばやくアジャイルできる」(黒田氏)。
こうした観点から、黒田氏はアジャイル-X(革新的半導体技術の民主化拠点)の拠点長として、さらなる仕事に携わることになった。これを支援するのは文部科学省である。すなわち、黒田氏は経済産業省と文部科学省の半導体セクターをクロスオーバーするというとんでもない重要任務を担う人物になってしまったのである。
チップの民主化という言葉は、どうも耳慣れない。しかし海外においては、チップの民主化運動はここに来て巻き起こっているのだ。技術革新を加速させるのは集団脳であり、特定のインテリジェンスを持つ人だけでなく、普通の人が普通にできるチップの民主化が今こそ求められている。
問題は、国内から専用チップを作れるエンジニアがどんどん減っていることだ。一番大切なことは、アジャイル設計プラットフォームをこなせる人材の育成にある。設備投資の巨大化で勝つのではなく、アジャイル設計のエンジニア育成で勝つというのが、黒田氏の言うニッポン半導体復活のキーワードになっていくとはこれまであまり多くの人たちが考えなかったことなのである。