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政府の言う数兆円規模の半導体支援策–〜パワー半導体のシェア目標4割は評価

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世界各国で大規模な半導体産業の支援策が実行されている。バイデン大統領は5.7兆円の半導体産業投資を含む法案を上院議会で通した。中国では2014年からトータル5兆円を超える半導体産業支援の大規模投資が実行されている。欧州では2030年に向けたデジタル戦略でロジック半導体、量子コンピュータなどに17.5兆円を投資すると言い出した。台湾においても投資回帰を促す補助金の優遇策が始動しており、ハイテク分野を中心に累計で2.7兆円の投資申請を受理している。

こうした世界各国による大規模な産業政策が展開されている中で、腰が重かった我が国もようやくにして国家の威信をかけての半導体産業基盤の強靭化につながる政策を打ち出し始めた。「異次元ともいうべき予算を組まなければどうにもならない」との判断が政府自民党にはあるという。米国や欧州にも匹敵するほどの金額を用意すべきだという意見も多く出されており、数兆円規模での実行プランを策定中であるとも聞いている。

既に動き出しているものとしてはAIチップ設計拠点、3次元実装技術開発拠点、RISC-V(リスクファイブ)設計拠点、スピントロニクス省電力ロジック半導体開発拠点など最先端ロジック半導体の設計開発拠点を整備していくことにかなりの予算がさかれることになっている。

また併せて、我が国が失った先端半導体(40nm)未満について海外ファンドリの協力を得て、新たに工場を設立することも内定している。これが言うところのTSMCの日本への誘致であり、今のところは九州エリアに進出すると言われている。5000億円から1兆円程度の投資が実行される見通しであり、かなり多額の補助金を政府が用意しているようだ。

またわが国のお家芸ともいうべきパワー半導体強化についても打ち出した。2020年段階で日本勢のパワー半導体の世界市場シェアは3割となっているが、さらなる競争力をつけるために徹底支援するというのだ。超高効率の次世代パワー半導体(SiC、GaN、Ga2O3)の実用化に向けて研究開発支援をするとともに、導入促進のための半導体サプライチェーンの設備投資支援などを実施していく。政府にしては珍しく、この次世代パワー半導体については数値目標を出している。すなわち2030年までに省エネ50%以上の次世代パワー半導体の拡大を進め、日本企業が世界シェア4割(1.7兆円)を獲得することを目指すと言っているのだ。

加えて、日本の黄金技ともいうべき光技術と半導体の融合を図るための施策も打ち出している。オプトという世界は日本がすでに先頭を走ってきた。光配線化によるデータセンターの省エネ化を進め、2030年の5G/6Gのオール光時代を見据えて光エレクトロニクスデバイス、光電融合プロセッサの開発も進めるというのだから、全くもって素晴らしいと言って良いだろう。

しかしこうした経産省の打ち出した産業政策について疑問を唱える向きも少なくない。まず2nmプロセス以下の半導体をまともに作れる施設を持たないで、あくまでも外国企業を誘致する施策は、何とノンアクティブであるかということだ。現状で2nmプロセス以下を達成できると思われる企業は台湾TSMC、韓国Samsung、米国Intelしかない。東芝やソニーは40nmプロセス以下のところで、かなり躓いてしまった。他国に最先端ナノプロセスを依存するという形でどのような開発を進めても、自国のものにはならない。

そしてまた工場を作るリスクを恐れていては、世界では戦えない。海外ファウンドリを呼ぶのではなくて、日本が自ら政府と民間のジョイントベンチャーを作って最先端プロセスを持つ半導体工場である「ジャパンファウンドリ」を作ってこそ本物だという声も強い。しかし経産省はこれを回避している。すぐ手に入らないからと言って、中長期の未来戦略を投げ出してはならないだろう。

かつての70年代後半に日本政府が命をかけて行った超LSI開発プロジェクトは、10年から15年先を見据えた開発であった。そのために血も流し汗も流した。しかし「やれる範囲でやればいいさ」という気風がどこかに流れているような気がしてしょうがない。

もちろん10数年ぶりに、どでかい半導体産業に対する政策プロジェクトを出したわけであるからして、これはかなり評価している。ただ画期的な領域に踏み込み、世界の最先頭に立つくらいの気構えが欲しいのだ。それは夢であろうか。いやそうではない。かつての日本人はそれを成し遂げたことがあるからなのである。

産業タイムズ社 代表取締役会長 泉谷 渉

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