車載向けパワー、MCU、センサは急増へ〜GaN-on-Si、MCU、ミリ波レーダー
世界的なSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の運動が拡大する中にあって、車載向けの省エネに世界の注目が集まっている。もちろん焦点は排出ガス削減であるが、とにもかくにも、まずはエコカーに移行する際のパワーデバイスの開発と生産増強が焦点になっていくのだ。
パワーデバイスについては、ウェーハ生産能力で言えば、2022年段階で650万枚以上に拡大する見通しであり、2018年に比べ100万枚以上になるとSEMIは見通している。しかしながら、こんなペースではとてもではないが、EV(電気自動車)やHV(ハイブリッドカー)などのエコカーの加速にはキャッチアップできない、との考え方も強い。これゆえに、パワーデバイス各社は一気に投資を上げてきている。
Infineon Technologiesは、世界で唯一、ドレスデン工場で300mmウェーハによるパワー半導体を量産しているが、2カ所目の300mm工場を、オーストリアのフィラッハに立ち上げている。パワーMOSFETとIGBTの量産を開始する予定。このInfineonに対し、出資を表明したのがデンソー。また一方で、ルネサスエレクトロニクスへの出資比率も引き上げた。さらにデンソーは、京都のFLOSFIAとも資本提携し、酸化ガリウムパワー半導体の車載応用に向けた共同開発を進めることにも合意した。トヨタ自動車から半導体/電子部品の生産事業を全部移管する方向にある。
ON Semiconductorも300mm生産に具体的な動きを見せている。GlobalFoundriesが保有していたニューヨーク州イーストフィッシュキルの300mmライン(Fab10)を買収した。三菱電機もまた、拠点の熊本工場に300mmウェーハの本格的な導入を内定している。広島県福山工場は当面、後工程の拠点として活用する。しかしゆくゆくは、熊本が満杯になれば、福山での300mm生産も検討課題。富士電機は、2023年度までの5年間で総額1200億円の設備投資を実行する。前工程では、8インチ能力を約3倍に拡大する。300mmについては検討中であるが、それよりはSiCの量産ライン構築に関心が強い。
GaN on Siについては、熱耐性が急速に高まっている。これまでは車載は難しいとの判断もあったが、ほとんど遜色なく車載対応の条件を備え始めたことに注目したい。何と言っても、SiCに対してはコストの安さが拡大の要因になるだろう。世界初のスピントロニクスMRAMの一部少量生産を開始している東北大学の国際集積エレクトロニクス研究開発センターは、これをリードする遠藤哲郎教授の指導のもとに、MRAMとGaN on Si、つまりはパワー半導体の組み合わせを考えており、これと連動するスピントロニクスマイコンも作り上げた。
昨今のEV、PHV(プラグインハイブリッド)さらにはFCV(燃料電池車)などのエコカー移行の動きが急速に広がっている。こうなれば、ECU(Electronic Control Unit)無しには車を走らせることができず、現在でも高級車では100個以上のECUが搭載されている。車載ECUの市場はすでに8兆円を超えてきており、2030年にはほぼ倍増の15兆円まで成長すると言われている。
ECUを構成するセンサ市場については、2030年にはこれまでの倍増の約2兆円まで成長すると予測されている。市場規模がもっとも大きいのは、温度センサである。圧力センサも大きな伸びが期待されるセンサの一つである。磁気センサもエンジンマネージメントや変速制御、電動モーターを中心に搭載が進む。もっとも大きな伸びが期待されるのが、イメージセンサである。ソニーによれば、完全自動走行運転を実現するためには、1台の車にソニー製のCMOSイメージセンサを32個積みこまなければならないとさえ言っている。
車載マイコンもまた、重要な市場である。ルネサスは車載用マイコン/SoCにおいて、世界トップクラスのシェアを持っている。先端マイコンの品質不良率で0.1ppm以下(1000万個に1個以下)を実現しており、抜群の車載品質を備えていることで、ユーザーからは非常に高い評価を得ている。28nmプロセスのフラッシュメモリー内蔵マイコンが量産の時を迎えている。エコカー、自動走行、さらにはコネクテッドカーという流れの中では、これまでの制御マイコンの2倍〜3倍を使うことになる。すなわち、二重制御、または三重制御という形になっていくわけであり、これだけでルネサスの車載マイコンは売り上げが2〜3倍になっていくのだ(編集室注)。
ミリ波レーダーは、前方監視向けの77GHzと周辺監視の24GHzに加えて、今後79GHzが法整備されることで成長の時を迎えている。77GHzミリ波レーダーMMICでトップシェアを持つのがNXP SemiconductorsとInfineonであるが、これまで後塵を拝してきた日本勢が巻き返しに出ている。デンソーは、電波を送受信するところの2カ所にICを集積することでセンサの薄型化を実現しており、トヨタのカムリなどに搭載し、拡大を狙っている。また、古河ASは、マツダのCX5向けに24GHz準ミリ波レーダーを量産している。古河電工グループが有する大容量の光通信機器などで培った信号伝送技術や高周波技術を応用する。住友電工の24GHzレーダーも出てきた。
電子デバイスがSDGsに大きく貢献するというのは、間違いのないところである。今回は、取り上げなかったが、日本電産のモーターやミネベアミツミのリチウムイオン電池保護IC、村田やTDK、太陽誘電の積層セラミックコンデンサなども一大注目の電子デバイスなのだ。これを徹底的に追っかけなければ、との思いが筆者にはとてもとても強いのである。
編集室注
制御マイコンはほとんど全てのECUに使われるが、全てのECUを二重化するわけではない。人命にかかわる、いわばミッションクリティカルな機能の所は冗長構成をとる(二重化する)が、コストとの兼ね合いになる。