日米台などの半導体サプライチェーン強化で日米合意、「日の丸」掲げず
2022年5月23日、米国のバイデン大統領が来日し、岸田総理と共同記者会見を開催した。日本と米国が半導体サプライチェーンの強化で合意したことを明らかにしたが、この時「日の丸半導体で戦う」という従来の日本政府の方針が劇的転換を迎えたことに何人の人が気付いただろう。
半導体産業が単なるハイテク技術の集積ではなく、世界の政治経済、安全保障、軍事防衛にまで及んで来た時代を象徴することが背景にある記者会見ではあった。つまりは日本のスタンスとしては、自国の半導体復活よりも基本的価値観を共有する米国、台湾などの同志とタイアップし、地域連携し、半導体などの産業競争力を強化することを優先すると言うのである。
ロシア-ウクライナ戦争を契機に世界の緊張感は高まり、とりわけ社会主義国に対しての自由主義国の結束は固くなった(編集注1)。そして「半導体を制するものが世界を制する時代」であるからして、半導体徹底強化に走る中国の包囲網をさらに強固なものにすると言う米国の姿勢は当然なのだ。
時あたかも中国の半導体新工場22社の内12社がパワー半導体で大増産をかけることがアナウンスされた。300mmウェーハによるパワー半導体は、重慶、杭州などで立ち上がりつつある。技術者の手配もついている。中国政府による信じがたいレベルの補助金も続行されている。そしてまた重要な半導体技術が中国に流出する例は後をたたない。
こうした動きに対し、台湾調査当局は中国企業100社への調査を開始した。人材や情報を入手するべく、中国が非合法な手段を用いた場合にはきっちりと対応する構えなのだ。実際のところ、上海の半導体企業が台湾のデータ分析企業を装い、台湾から中国へ半導体の設計図を送信したケースも明らかになっている。
そしてまた、台湾は中国などのスパイ行為に対して「経済スパイ罪」の制定を急ぐ考えを固めている(編集注2)。5年以上12年以下の懲役刑、さらには最高4億3000万円の罰金を科すというかなり厳しい内容になっている。中国大陸に赴任する際には、事前に台湾の審査委員会の許可も必要になるのである。はてさて我が国日本は知財の流出にはゆるゆるの国であり、台湾並みの対応が出来るかどうか、お手並拝見といったところだ。
それはともかく、一方で中国経済の危機は迫りつつある。中国のGDPの三分の一は不動産であり、まことに不健全と言わざるを得ない。近頃、中国不動産価格の一気凋落が見えて来ており、かつての日本と同じバブル崩壊のリスクがはっきりと視野に入ってきた。ここに来てコロナも押さえ切れず、人民の不安と反抗も表面化している。
セミコンチャイナも、当初の6月15日〜17日開催が10月5日〜7日に延期されてしまった。巷間で言われる中国の台湾侵攻など実行できる状況では全くないのだ。ともかくも経済立て直しは中国政府の緊急課題であり、それが故にロシアの侵攻を積極支持しないという態度にも表れている。NATO加盟国も増えてしまう情勢も中国には逆風なのだ。
もちろん独自の社会主義市場経済をフル活用して中国はリーマンショックも乗り切ってきた。様々に言われるクライシスも政策の妙で克服してきた。ただ半導体による中国囲い込みについては、いささか手を焼いていることは確かなのである。
世界における全半導体の1%は軍事防衛向けに使われており、ロシア-ウクライナ戦争の影響で世界各国は軍事予算を大きく拡大しようとしている。この方面でも(嬉しくはないが)、半導体需要は増すばかりなのだ。
そうした状況下で、我が国日本は日の丸先行を捨てて、新たな枠組みの中での半導体強化策を迫られている。ただ最大の輸出国である中国にも気を配らなければならない。行くべきか?行かざるべきか?――まさにシェイクスピアのハムレットのような心境にある日本の選択の道は、細くて厳しい。
岸田総理の新しい資本主義の実行計画には半導体に関する新戦略が盛り込まれることになっているが、その内容をしっかりと注視したいと思っている。
編集注)
1. ロシアはソ連崩壊により社会主義から資本主義へと国家の経済体制を切り替えた。このため、社会主義対自由主義ではなく、専制主義対民主主義という言い方を採用するメディアやアナリストは多い。
2. 2022年5月21日の日本経済新聞は、「経済スパイ罪」を台湾の立法院議会で可決成立させた、と報じている。