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5G用半導体消費の増加も新型コロナウィルスが最大不安要因〜20年の市場予測

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「2020年の世界半導体市場は5G端末、エッジでのミニデータセンター、通信業者の投資が引っ張るだろう。これまでのテレビ、パソコン、スマホというシンプルな市場構造から、いわゆるニューウェーブが登場してきたわけで、このインパクトは大きい。しかし最大の不安要因は、何と言っても中国・武漢発の新型コロナウィルスの世界的な蔓延である。残念ながら、すべての市場予測は下振れするしかない」。

いつものように明快な口調でありながら、少し顔を曇らせてこう語るのは、世界的に著名な半導体アナリスト、南川明氏である。南川氏によれば、中国経済はこの2年間にわたり、米中貿易戦争が大きく影響して相当に足腰が弱っているという。外貨準備高は4兆ドルから3兆ドルに激減した。さらには、ここ1〜2年で返済しなければならない有利子借金が2兆ドルにも膨れ上がっている。こうなれば90%補助金を出すという驚きの中国製造2025にも暗い影を落とすことになるだろう。

ところで、IoT時代を迎え、データセンターの市場規模は今後も急拡大すると言われている。5Gや4K・8Kへの移行などがけん引するデータセンター投資は、これまで超巨大なセンターが中心であった。しかし、最大の問題は20msの遅延が生まれてしまうことだ(編集室注)。これではドローンやロボットを遠隔操作することや、自動運転における瞬間的な操作は事実上、難しい。この問題を解決するために、ユーザーの近くに冷蔵庫ほどのミニエッジデータセンターが常に置かれることが必要になってくる。もっとも車載の場合には、エッジデバイス操作になるケースが多いだろう。

一方、YouTubeなどコンテンツメディアの動画配信が通信トラフィック全体に占める割合は2017年で60%以上になっており、2021年には70%まで上昇すると見込まれている。金融やヘルスケアの分野においても動画配信は増えてくる。これまでは放送業界がテレビやラジオを牛耳り、大衆をコントロールしてきたわけだが、今後は配信された動画を端末で見ることが主役になり世界は大きく変わるだろう。筆者の周りにも、「家の据え置きテレビは一切見ない。スマホかタブレットで見た方が絶対にいい」と言う若者は多い。

「ここ1〜2年の間にも、すべてのデータセンターのうち20%がエッジでのミニデータセンターになるだろう。これはかなりの半導体の牽引車と見てよい。そしてまた、最近の変化は、ソフトバンク、KDDI、楽天、NTTドコモなど国内通信サービス業者が自らデータセンターを作るという傾向が強まっている。世界的にもそうである。これまた、半導体にとっては良いことなのだ」(南川氏)。

さて、2017年をピークにスマホの出荷台数は鈍化している。2019年については、推定13億台程度にとどまっているだろう。最大のポイントは経済の失速により、中国というビッグマーケットが動かなくなってきたことだ。しかし、5Gの流れは確実に半導体消費の増加を招く。5Gのハイエンドモデルは7nmおよび5nmのロジック需要をけん引するのだ。そしてまた、スマホ1台あたりのDRAM搭載容量は4GBから8GBへ倍増する。NANDフラッシュメモリの搭載容量も64/128GBから256GBへ一気増大していく。

「世界経済がほぼまともであれば、こうした5Gなどニューウェーブと呼ばれる半導体の引っ張り役が出てきたことで、前年比5〜10%の成長は遂げるとかなりの人が予測してきた。しかし、電子機器の44%は中国で製造されているのだ。IHSは2020年の世界電子機器成長率を4.5%と予測してきたが、もし中国の電子機器工場や半導体工場が1カ月停止すれば、1.1%のマイナスで考えなければならない。2カ月にわたれば大変なことになる。ただ、いたずらに慌てないで欲しい。SARSやMERSで大騒ぎになった年にあっても、下期には一気に大きく回復してきたのだ」(南川氏)。

産業タイムズ 代表取締役社長 泉谷 渉

編集室注)
5Gにおけるレイテンシ(遅延)の20ms(目標値は1ms以下)とは、あくまでも、端末(エンドポイント)とエッジ基地局(携帯端末が直接通信する基地局)との間の遅延時間を指している。その先のエッジ基地局からコア基地局(電子交換設備やサーバなどを備えた基地局)、さらにクラウドへつながるネットワークおよびデータセンターでの遅延は考慮していない。4Gまでは端末とエッジ基地局の間でさえ、ビルや地面での電波の反射などによるマルチパスの影響やエッジ基地局での処理も含め数十〜100ms程度はある。5Gはマルチパスも含め20msまでに落とそうというもの。

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