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TSMCがEUVで独走、20年設備投資1.8兆円〜米中対立で台湾への回帰急ピッチ

世界で半導体を最も多く生産する地域はどこであろう。それは韓国ではない。米国でもない。実は、世界の地域別半導体生産能力は台湾がトップであり、全体のおよそ4分の1を占める。

半導体ファンドリ業界では最大手の台湾TSMCの独走態勢がより鮮明になってきた。EUV(波長13.5nmの軟X線に近い紫外光)露光装置の導入で世界の先陣を切ったことの意味は大きい。5nmさらには3nmへの道を切り拓き、いまやフル稼働で絶好調だ。同社はEUV露光でのナノプロセスにおいて、韓国Samsung、米国Intelよりも先行しており、いわばTSMCの独擅場となっている。

メモリやロジック、マイコンなどを含む世界全体の半導体ファンドリを見渡してみても、TSMCは市場シェアの約半分を握り、圧倒的な力の差を見せつけている。IntelのCPUの歩留りが上がらない一方、競合するAMDはTSMCを活用することによって一気にシェアを上げてきているのが現状だ。

他方、台湾の輸出の約3分の1はICをコアとする電子部品が占めている。2019年の輸出は、電子部品が1.6%増、電子機器は20.8%増と堅調であった。主な要因は、米中貿易戦争の激化に伴い、台湾に依頼する案件が増えてきたことと、中国を迂回して台湾からの輸出入に切り替えるという動きが加速したからである。台湾の地域別輸出先は依然として中国向けが断トツの1位であるものの、2019年は4.8%減少した。これに対して米国向けは17.2%も増加している。

現在、台湾製造業の61.6%が中国に工場または営業拠点を有しているが、米中貿易摩擦を理由に投資先や工場・サービス拠点の変更、移転が進んでいる。ASEANへの移転を検討中の企業は18.5%、台湾回帰を検討中の企業は12.3%に上る。

これには台湾政府当局が開始した台湾回帰投資支援策の影響もあるだろう。この支援策は2019年1月から2021年まで実行されるもので、条件を満たした企業は土地、水、電力の供給や労働力確保などの優遇措置が受けられる。昨年の1年間に承認された台湾回帰投資支援案件は160社に及び、投資予定額は2兆5549億円に上る。2021年までの3年間で、3兆6000億円の投資と9万人の雇用機会創出を見込んでいる。

事実、中国に進出している台湾企業の台湾回帰や第三国移転は急ピッチで進んでいる。EMSの世界最大手である鴻海は台湾、ベトナム、インド、米国などに移転または生産移管している。同じくEMSのWistronはフィリピンとインドへ。QuantaとInventecは台湾に生産回帰。Compalは台湾回帰とベトナム生産移転。Pegatronは台湾、インド、インドネシアに生産を移すなど、枚挙にいとまがない。

さて、半導体や電子部品業界はここに来て急回復してきた。世界最大手のIntelの2019年第4四半期の純利益はなんと前年同期比33%増を記録した。電子部品の最大手である日本電産もまた、2019年第4四半期は営業利益が前年同期比15%増となっている。2020年の半導体については、かなり明るい展望が出てきたと言ってよいだろう。

では、2020年に最も大型の設備投資をする半導体企業はどこか。それは誰が見てもTSMCである。EUV露光プロセスで圧倒的に先行する同社は、2019年に1兆3000億円の設備投資を断行したが、2020年は1兆8000億円以上投資するという情報が飛び交っている。5nm、3nmの独走状態を固めたいのである。

こうなれば「もう先端プロセスではTSMCにはかなわない。それならいっそ自前の工場増設を止めて、みんなTSMCに頼んでしまえばよい」というメーカーが続出してくるかもしれない。すでにTSMCの売り上げは4兆円を超えており、生産の世界ランキングではIntel、Samsungに次ぐ3番手に浮上してきた。5〜6年後にはTSMCが半導体生産の世界チャンピオンになるかもしれない、と夢想するのは筆者だけではないだろう。

産業タイムズ 代表取締役社長 泉谷 渉
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