2020年も半導体産業は大型事業再編の年に!!〜キーワードはやはりIoT
2020年の半導体産業の成長予測については、様々な分析および憶測が流れている。一般的によく引用される予測で言えば、WSTS(世界半導体市場統計)は、2020年の世界半導体市場が前年比5.9%増の4330億ドルとなり、回復を見せるとしている。5Gの立ち上がりやデータセンサー関連の投資が牽引するというのだ。
その他、IHSなどをはじめ、あらゆる市場調査会社、証券筋、メディアなどが2020年の半導体市場予測をしているが、一番低いところで2%くらい、一番高いところで9%くらいとなっているようだ。ちなみに筆者については、2020年の半導体は前年比10%増と考えており、もしかしたら一番強い予測かもしれない。
もちろんこれには、それなりの理由がある。データセンターの着工については、インテルのCPUが豊富に出てくることによって、間違いなく大きく回復すると分析している。スマホについては台数の伸びは見込めないものの、CMOSイメージセンサの搭載数がかなり増える見通しであり、2眼から3眼使いに移行する速度が速まる。ファーウェイに至っては次の最新モデルに7個使いまで考えているという。そうなれば、CMOSイメージセンサのトップシェアを持つソニーには超追い風が吹いてくるだろう。
AI向けチップについても、改造型が出てくることにより、ローコストかつ超高速が実現されることで台数の伸びが飛躍的に引き上がると見る。それに加えて、MRAMプロセスによるAIチップが投入されることによって、新たな市場が切り拓かれる。見逃せないのは、次世代ゲーム機の登場により、ゲーム機本体およびゲーム向けクラウドの伸びが期待されることである。そしてまた、5Gに関する基地局などのインフラ投資もある。防犯および軍需防衛強化の観点から、セキュリティカメラが数億台のレベルで上昇してくるのは間違いない。
そしてまた2020年は、半導体の大型事業再編がさらに増えてくると思われる。2019年6月〜12月までの半導体関連の買収案件を集約してみれば、なんと買収総額は3兆円を大きく超えてきている。このうち最大のものは、ドイツのインフィニオンの案件であり、サイプレスを1兆880億円で買収する(編集室注)。サイプレスの持つASIC技術と強誘電体メモリ技術を車載向けチップに活かしたい、というのが本音であろう。第2の案件は、米国エヌビディアのメラノックスの買収計画であり、実に7480億円が提示されている。エヌビディアはデータセンターやAI向けチップに注力する姿勢を固めており、この設計に強いメラノックス(Mellanox)がどうしても欲しいのだという。3番目はインテルによるイスラエルのハバナ(Habana)の買収であり、AI向け半導体開発を強化したいことが目的となる。買収金額は2190億円。こうした大きな案件は、すべて米国企業であった。
日本企業の動きを見れば、まず京セラによる米国AVXに対する完全子会社化提案がある。提示した金額は1000億円。東芝メモリは台湾ライトロンのSSD事業を173億円で買収することを決めた。そしてまた、ミネベアミツミは国内のアナログ半導体中堅のエイブリックの買収を344億円で決めた。
2020年についても、かなり大型の買収案件が出てくることが予想される。その最大のものは、マイクロンによるウェスタンデジタルの買収であり、これはメモリ業界にとっては大変な出来事になってしまう。つまりは、マイクロン-東芝連合が誕生する可能性もあるわけであり、サムスンに匹敵する大型メモリメーカーが誕生する可能性もあるのだ。
また、そのサムスンは非メモリ強化を打ち出しており、車載、5G、AIの分野における買収先を血眼になって探している。SKハイニックスもまた、非メモリ事業強化でどこかを買収することは間違いない。ちなみに、韓国のマグナチップ買収を一時は検討していた。一方で、ブロードコムは無線チップのRF部門の売却を模索しているという。
日本国内においても、今後、大型事業再編は加速するだろう。はっきり言って、この国に三十数社の半導体メーカーが存在するのはあり得ないことだ。やはり適切な事業再編によって、世界と競争できる半導体企業を次々と誕生させる以外にはない。こうしたことを考え合わせれば、2020年はやはり激動の年にならざるを得ないだろう。
産業タイムズ 代表取締役社長 泉谷 渉
編集室注) 2020年1月7日現在、InfineonによるCypressの買収はまだ完了していない。海外で製品を販売している以上、各国で独占禁止法に違反しないかを事前にチェックするためだ。