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車載パワーデバイス、2兆円市場に成長へ!!〜富士、ローム共2200億円強の投資

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自動車向けパワーデバイスは、いよいよ急速な上昇気流に乗ってきた。世界的な電動化シフトが進む自動車分野は、まさに「超オイシイ市場」になりつつあるのだ。

IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)で世界トップシェアを持つ三菱電機、トヨタ系に強い富士電機、さらにはSiCパワー半導体で世界トップを狙うローム、これに続く東芝、サンケン電気、新電元工業などの投資計画も急増する勢いであり、目が離せなくなってきたと言えるだろう。世界の自動車向けパワーデバイスはここ数年で2兆円以上の大型市場に成長すると見られ、設備投資で先頭を切っているのが 名立たる日本企業であることに注目したい。

地味で慎重だといわれる富士電機が、2023年度に売上高1兆円、営業利益800億円という新中期計画を発表したことで、関係者は一様に驚いている。アナリスト筋はどよめいていると言えよう。これを達成するために、パワー半導体に重点投資をするとして、何と2019〜2023年度にかけては、前5ヵ年比43.2%増の2200億円を充てるというのだ。年間平均でいえば400〜500億円は確実に投資することになる。

富士電機はトヨタ系の納入実績が多いことは確かであるが、同社の半導体設備投資は2015年度に74億円、2016年度に89億円、2017年度に111億円という水準であり、徐々に引きあがってはいるものの、いわば小規模投資がずっと続いていたのだ。2018年度は一気に332億円に引き上げ、EV向けIGBTの量産を進めている。IGBTとダイオードをワンチップ化したタイプを強化しており、一方でオールSiCのトレンチ型MOSFETの量産化にも取り組むのだ。合わせて電源製品や車載向け圧力センサも拡大していく。

一方、IGBTの世界チャンピオンである三菱電機は、ここ数年、設備投資自体を抑えてきた。2013年度に360億円という大型投資を敢行したが、2014年度以降は100〜165億円の間をうろうろしていた。要するに徹底的にアウトソーシングを進めてきたのだ。投資リスクを回避することが同社の基本スタンスであり、半導体の売り上げランキングでいえば、2019年3月期に約2000億円で国内8位に留まっているが、当然のことながらさらに上位を狙っている。

そこで三菱電機もまた2018年度には552億円の設備投資を久方ぶりに断行した。売上比率でいえば全生産金額の約3割を投資するという積極姿勢をついに見せ始めたのだ。フルSiCパワー半導体モジュールはすでに完成しており、東京大学との共同研究で、ドレイン抵抗の大きさを左右する電子散乱の要因を、世界で初めて解明したことが同社には追い風となっている。

ロームはまさにSiCまっしぐらという作戦をとっている。同社も2016年度は421億円程度の投資であったが、2017年度に559億円に引き上げ、2018年度には780億円にまで急上昇させた。ロームアポロの福岡県筑後工場に新棟を建設する一方、グループのラピスセミコンダクター宮崎にも新ラインを導入した。2021年にはSiCデバイスの生産能力を現状の3倍に相当する月産1万2000枚(6インチ換算)に引き上げるというのだ。現在SiCでトップを行くウルフスピードを抜いて、世界チャンピオンになることを内部的には表明している。そしてまたこの3カ年で2500億円の投資をする予定であり、ルネサスから買収した滋賀工場の8インチラインもIGBTの量産に振り当てるのだ。

東芝もまた主力の加賀東芝エレクトロニクスの8インチライン拡大を考えている。月産15万枚の能力があり、IGBTをはじめとするパワーデバイス増強に全力投球の構えだ。2021年度にはディスクリート半導体だけで売り上げ2000億円を目指し、とりわけ車載に急速シフトを打ち出しているのだ。

サンケン電気の18年度の半導体デバイス事業は1518億円となっているが、自動車向けが794億円と非常に大きい。2018〜2020年度の設備投資は総額440億円を投じて、山形サンケンおよび米国子会社の8インチ能力を増強していく。

新電元工業もパワー半導体の車載シフトを打ち出している。これまでのデバイス事業は整流ダイオードにあったが、今後はICを中心にしていく考えを固めている。既存のダイオード製品に加え、MOSFETとパワーモジュール製品が成長ドライバーと考えており、デバイス事業の売り上げ規模は500億円突破を狙い、車載比率50%を目指している。

トヨタ自動車から半導体工場のほとんどを引き受けたデンソーは、半導体部門の売り上げを公表していないが、少なくとも3000億円以上はあると言われている。半導体の50%は半導体センサであり、残りはASICとパワーモジュールが占めている。車載SiCデバイス供給に向け準備をしており、新日本無線を通じてオーディオ用SiC、パワーデバイスの供給を開始した。こうしたこともあって、新日本無線は新工場建設を予定しているようだ。また富士通から手に入れたデンソー岩手も今後強化の方向にある。半導体IPの開発・設計を行う新会社エヌエスアイテクスを設立したことで、自動運転向けの次世代プロセッサ開発に全力をあげる一方、低損失のパワーデバイスの新規開発にも注力している。

こうした日本メーカーの車載向けパワーデバイスシフトは、世界の流れの中で誠に顕著な出来事である。日本勢以外でまともにパワーに投資しているのは、欧州のインフィニオンくらいであるが、今後は中国勢がパワー半導体で急速にキャッチアップしてくるとの情報もあり、全力を挙げて世界の流れから抜け出していく強い意志を固めていると言ってよいだろう。

産業タイムズ 代表取締役社長 泉谷 渉

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