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国内半導体設備投資、世界の10%のみ〜東芝とソニーが引っ張る展開

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「世界全体の半導体設備投資は、アップルの不振が明らかとなってきた以上、下期に減速する恐れはある。それでも、今のところは2015年を上回る勢いで進んでおり、前年を少し上回る6兆5000億円以上が想定されるだろう。それにしても日本勢の存在感はない。大型投資を構えるのはひたすら東芝とソニーだけだ」。

ため息をつきながら大手証券の有力アナリストはこう語るのである。彼が慨嘆するのも無理はない。電子デバイス産業新聞調べによれば、国内半導体28社の2016年度設備投資額は、15年度比12%減の6600億円となる見込みである。ルネサスエレクトロニクスはまだ投資額を公表していないが、前年並みだと仮定しての数字なのだ。

2015年度はソニーが2600億円の大型投資を断行し、CMOSイメージセンサの急増産に走ったが、16年度は一気に半減以上の1100億円まで抑制している。これは何といっても、大手ユーザーのアップルのスマートフォンが減速していることが大きい。中国勢の活躍はあるものの、スマホの伸びはほぼ止まっており、15億台に行くかどうかという情勢である限り、ソニーの増産ペースはスローダウンする以外にないのだ。

一方、日本半導体の盟主ともいうべき東芝は、2015年度実績の2008億円を大きく上回る2850億円を投入する計画であり、前年度比41.9%増の上げ幅となる。注目の東芝四日市工場の3DNANDフラッシュメモリの64層タイプで巻き返しを図る一方、1兆4000億円を投じる新工場建設の準備にも入った。ナノインプリント露光を活用するとみられる次世代メモリのReRAMの量産体制も構築していく考えだ。

その他では、ロームがSiCやピュアシリコンのパワーデバイス強化に動いている。LEDの世界チャンピオンである日亜化学工業は、高水準投資を続行している。

それにしても、世界全体の中で見れば日本勢の設備投資は10%程度であり、かつての勢いがないのは事実だ。なにしろ、DRAMを量産するエルピーダメモリを、Micronに取られてしまったために投資額は急減した。また中国市場の不振を背景に、三菱電機を筆頭とするパワーデバイスメーカーに今一つ元気がない。そして何よりも、パナソニックと富士通がソシオネクストというファブレス設計カンパニーを設立したことで、生産のほとんどをファンドリに投げてしまうために自前の投資額が一気に急下降したのだ。

「今後はIoT革命を背景にデータセンターにおけるフラッシュメモリの大増産が予想されるために、東芝には追い風が吹くだろう。ソニーはスマホやデジカメ向けの生産能力は十分にあるため、お家芸のCMOSイメージセンサの次の拡大は、車載向けが本格化する2018年以降になると思う。それにしても、国内半導体メーカーの2016年度の生産額は、5兆円強(電子デバイス産業新聞調べ)程度であり、世界全体の40兆円から見てもあまりにもシュリンクが進みすぎた。正直言って、これだけの生産額しかないのに、国内には34社のメーカーがひしめきあっている。何らかの事業再編を進めていかなければどうにもならない」

くだんのアナリストは、こう分析するのであるが、しかし、希望がないわけではない。筆者が注目するのは、世界最高レベルの一般電子部品メーカーの半導体部門進出の動き、自動車のティア1メーカーによる半導体事業拡大、アナログ半導体における事業再編などである。そして何よりも、あのソフトバンクが次世代IoTのカギを握るARM社を買収したことにより、ニッポン半導体の存在感がブランドイメージとして定着していくことも大きなインパクトになると見ているのだ。

産業タイムズ 代表取締役社長 泉谷 渉

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