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スマホ時代続く〜アップル向けファウンドリ発注で前工程装置は一気に繁忙へ

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筆者が所属する電子デバイス産業新聞では現在、熊本県の産官学をテーマにした企画を連載している。2014年秋から冬にかけて何と10回以上も熊本県に足を運ぶ有様となった。
2014年の12月初旬に熊本を訪れ、下通りの居酒屋で一杯やっていたところ、装置関連業界と思われる人たちがどやどやと入ってきた。口々に忙しくなったね、といいながらビールを口に運んでいた。

ご存知のとおり、熊本県は日本一の半導体立国ともいうべき県である。ソニー、ルネサス、三菱電機などの主力デバイス工場がある一方で、東京エレクトロン、荏原製作所、テラダイン、平田機工などのデバイス関連装置メーカーが数多く主力工場を構えているところでもある。

何とはなしに彼らの話を聞いていたら、2014年夏ごろまではかなり暇であった工場の操業度が一気に引きあがったという。これを聞いて筆者は東京本社に電話し、この装置業界の時ならぬ活況はどこから来ているのかと聞いた。次のような記者の答えが返ってきた。「アップルのiPhone 6sのA9(16/14nm)プロセッサの第2次発注がTSMCに決まったからです。ちなみに第1次発注は全量がサムスンでした。6sを契機にTSMCから前工程装置の大きな発注がされたのです」(編集室注1)。

記者の話によれば、東京エレクトロン熊本はまさに大わらわの繁忙に入っているという。また、CMPの大手である荏原製作所は何と38台の注文を受け、8台は藤沢工場、30台は熊本工場で一気に作り上げなければならない。それゆえに同社も嬉しい悲鳴を上げている、ということであった。

iPhoneに代表されるスマホは、急成長を続けてきたが、ここに来て伸びは鈍化している。2014年の世界出荷台数は約13億台、2015年についてはサムスンの急下降、中国スマホの踊り場などにより、成長はするものの14億台程度で終息しそうだ。2016年についてもせいぜい15億台程度だろうとの見通しが強い。

しかしながら、台数ベースの伸びは止まっても、使う周波数がさらに増えてくれば全く影響を受けない業界がある。それは、積層セラミックコンデンサ、SAWデバイスなどを主力とする電子部品業界だ。先ごろ村田製作所の村田恒夫社長にインタビューを試みたが、「村田の場合、台数が鈍化しても高周波になればなるほど部品点数が増えるわけだから、2016年も20%増の成長を遂げるだろう」と明確に言っておられた。

iPhone 7についてはディスプレイに有機ELを採用するというアナウンスもされており、これを契機にLGは何と1兆円を投入する新工場を建設するという。またスマホやデジカメのCMOSイメージセンサ市場シェア1位のソニーにも追い風が吹く。iPhone 7は複眼カメラになることがほぼ確実であり(編集室注2)、1台あたりのCMOSセンサの搭載数が増えれば出荷台数以上の伸びが期待できるからだ。さらに触覚で機能を変えるハプティクスもiPhone7をはじめ(編集室注3)、サムスン、ソニー、中国メーカーのスマホに大量採用されるというニュースもある。これを量産する日本電産によれば、この触覚センサは7000億円以上の巨大市場に化けるとしている。

次世代スマホにはこの他に多くのメディカル機能が付加されてくる見通しであり、ウエアラブル端末の市場を横取りしてしまう、という声もある。中国スマホが一つの限界状況を迎えたといわれるが、中国勢はもう一つの巨大人口国インドに向けて出荷を加速している。2016〜2017年にかけては、インドにおける一大スマホブームが来るのは間違いないだろう。こうして見れば半導体、電子部品、ディスプレイなどの電子デバイス企業およびこれに関連する装置メーカーや材料メーカーにとって、やはり「スマホの次もスマホ」という考え方が横行するのも無理なからぬことであろう。

産業タイムズ 代表取締役社長 泉谷 渉


編集室注1)
セミコンポータルが捉えている情報では、iPhone 6sのアプリケーションプロセッサA9は最初からサムスンとTSMCの比率が約半数ずつで、第2次発注にこの比率が変わると言われている。22nmプロセスのA8までは全数サムスンがファウンドリを請け負っていた。

編集室注2)
iPhone 6、6sとも通常のカメラ(iSightカメラ)と自分を映すためのFaceTimeカメラの2台がすでに搭載されている。iPhone 7では、iSightカメラが2台の合計3台搭載される模様である。

編集室注3)
アップルは、スクリーンを強めに押すとブルッと震え、新しい機能やコマンドを追加できる、タプティック(taptic)と呼ぶ機能をiPhone 6sから搭載した。これは一般的な触覚を意味するハプティック(haptic)とタッチ(touch)との合成語である。パソコンのキーボードのように押すというクリック感をスマホ上で新しいエクスペリエンスとして追加した。日本電産のソレノイドで、「震える感」を実現している。

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