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45兆個のセンサが必要になるのだ!!〜医療、農業、社会インフラにセンサ革命

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「トリリオンセンサの時代がやって来たことに対し、鈍感な人たちがまだたくさんいる。バイオ、医療、ネットワークなどに必要なセンサの数を指数関数的に計算すれば、何と45兆個のセンサが必要になるのだ。しかし、その多くは、まだ開発されていない」。

しっかりとした視線で静かにこう語るのは、住友精密工業の前社長である神永晉氏である。同氏は現在、一般社団法人・次世代センサ協議会の副会長の任にあり、兵庫県立大学院の客員教授、英国王立航空協会フェローなど様々な要職を務めておられる。しかして、今日ではかなりの一般用語となってきたトリリオンセンサが実現するAbundance(潤沢な世界)の話を日本で初めて聞いた人なのだ。

神永氏はMEMSセンサという分野において、国内における先駆けの役割を果たしてきた。世界的に知られるMEMSの権威である東北大学の江刺正喜教授と深く親交を結び、企業側におけるMEMSの発展に多く尽力されてきたのだ。トリリオンセンサという概念は、当初米国で80名の産業人が話し合ったバークレーの会議で生まれたという。

つまりは、飢え、医療、清潔な飲料水の提供、大気汚染、エネルギーの枯渇といった地球規模の問題を解決するためには、すべてのモノやコトにセンサを付けてネットワーク接続することが重要なことなのだ、とそこに集まった人たちは考えた。そしてまた、ビッグデータ時代が到来しつつある現在においてM2M(Machine to Machine)やIoT(Internet of Things)、IoE(Internet of Everything)という世界が到来するわけであり、この実現には膨大なセンサが必要になると結論づけた。(編集室注)

ちなみに、この80名の会合に参加していた日本人は神永氏ただ1人であった。日本の企業も研究開発機関も一人も参加していなかった。しかし、CiscoやHP、Motorolaなど欧米勢の熱気に包まれながら、神永氏は「この新世界を実現する技術力は圧倒的に日本人の方が上だ」と考えていたという。

こうした小さな集まりがやがて大きなうねりを作っていく。2013年10月23日〜25日に米国カリフォルニア州のスタンフォード大学で第1回トリリオンセンササミットが開催の運びとなった。ここではトリリオンセンサユニバースを10年以内に実現するロードマップの作成が宣言された。この第1回サミットに集結したメンバーはかなりの人数になった。

「MEMSセンサの世界は日本が世界の先頭に立って切り開いてきた。そのほか、あらゆるセンサの分野の開発と量産で常に世界をリードしてきた。ああそれなのに、である。米国が世界に発信するセンサ革命の意義と意味を日本の人たちは全く分からなかった」。

この会議では多くのことが話し合われた。これからのAbundanceを実現するためにはIoTやデジタルヘルスのように、多様に出現する地球規模の経済的な潮流が必要とされ、医療、ヘルスケア、農業、社会インフラなどのあらゆる部分がセンサで覆われ、ネットワークに接続される必要がある。ここで策定されたロードマップに従えば、2023年には年間1兆個のセンサ使用を目指すとされた。これは現在のセンサ需要の100倍に当たり、世界の70億人が年間142個のセンサを使うということになる。世界人口は2050年までには20億人以上増え、90億人を突破するという予想があるので、さらにセンサ需要が増大する。

「指数関数的に言えば、3Dプリンタ、次世代コンピュータシステム、人工知能、ロボット産業などを加えれば今後、45兆個のセンサが必要になる。しかし問題は、過去のセンサ開発には試作から量産まで30年を要している。圧力センサひとつを取っても60年代に登場していたのに、マスプロまでには20〜30年はかかった。このままでは新しいセンサの製品開発に時間を要し、Abundanceの実現に遅れをきたしてしまう」(神永氏)。

米国におけるこのトリリオンセンササミットの開催は多くの衝撃を世界に与えた。「スマートフォンの次はセンサ革命だ」という声が多く上がってきた。これまでのITとかなり違うところとして、特にウエブを使わないセンサネットワークが多く出て来ることが注目された。つまりはセンサとセンサが話し合って、次々と様々なことが実現できる社会の到来も予想される。

2014年11月には米国サンジェゴにおいてトリリオンサミットが開催された。2014年12月には東京開催が実現し、多くの人たちが押し寄せた。ようやくにして日本の企業や学会、行政が目覚め始めた。2015年は秋に米国で開催されることになっている。

MEMSという世界は、長い間、量産アプリの世界が見つからなかった。しかし、トリリオンセンサの時代が到来すれば、ある時点からMEMSがネットワークデバイスの主役になる可能性が十分に出てきた。それでもこのチャンスに対し、日本の企業や政治の動きがまだまだスピードがないことが問題だ。こんなことでは世界の潮流にとり残されてしまう」(神永氏)。

産業タイムズ 代表取締役社長 泉谷 渉

編集室注)センサは、M2MやIoT、IoEなどの端末を構成する一つの部品であり、M2MやIoTは、センサとマイコン、送受信機のついた端末モジュールである。IoTあるいはIoEはセンサネットワークの端末やM2Mなどを含めたシステムの総称である。一つのIoT端末にセンサを複数個入れておけば、IoTを設置した場所の温度や圧力、加速度(力)、などを測定できる。その測定データをインターネットへ飛ばし、クラウドコンピュータでデータ処理する。それも数秒おき、あるいは数分おきに測定しデータを送れば、その蓄積されたデータがやがて数ヵ月もすればビッグデータとなり、さまざまなセンサからのデータを含めた多変量解析が必要となる。ビッグデータの解析によって、想定していなかったようなデータが強く相関したり、関係ありそうだと思っていたデータが関係なかったり、想定外のことがわかるようになる。これを商品のマーケティングに利用することで販売増につなげる、といった応用に展開される。
IoTとセンサとは切っても切れない関係がある。IoTはネットワークトポロジーによって、メッシュ構成にしたり、M2Mのようにモバイルネットワークへ直接飛ばしたりする。通信システムやセキュリティの担保にもネットワークトポロジーは深く関係する。センサそのものは、大量に使われることになると同時に、スマートフォンに加速度センサが搭載されて以来、安く大量に作ることができるようになった。セミコンポータルでは「センサが今後のモノづくりを変える〜少量・高価格から大量・低価格へ」という記事を紹介したが、これは今後センサ革命が起きることを示唆した記事である。

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