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半導体設備投資一気回復に沸く装置業界〜東芝・サムスンは3Dメモリ量産激突

「これはどうしたことだ。このような一気に来る発注はさすがに見たことがない。長らく半導体設備投資が低迷したためにこれを作る設備や人員がすぐには間に合わない。凄まじい発注は超嬉しい限りだが、納期のことを考えると夜も眠れない」これは国内のある半導体前工程の装置メーカーが悲鳴を上げて、なおかつ顔は笑っていった言葉である。

この投資の一気大旋風を巻き起こしたのは、何といっても台湾TSMCのファブ14の投資が再開されたことによるだろう。この300mm工場は20nm世代の配線工程やダブルパターニング技術をそのまま16nm世代に流用できることをアナウンスしていた。それにしても筆者が聞いたその装置メーカーの発注された台数はとんでもないものであり、確かに納期は厳しいだろうなと思う。

半導体業界の世界的な団体であるSEMIもまた半導体製造装置投資額が急回復していることをアナウンスした。2014年には前年比24%増になる見通しを明らかにし、2015年には過去最高の投資記録を打ち立てると分析する。

半導体設備投資はここ数年間5兆円前後で止まったままであった。半導体生産額がやはり30兆円前後でもたもたしていたわけだから当然のことだろう。それでもさすがに設備投資が引っ張る業界だけに、生産額の15%から20%はコンスタントに金を突っ込んでいかないとこの産業は継続することができない。台湾TSMCの設備投資再開に続いて韓国の雄、サムスン電子も積極投資に転じることは明らかだといわれている。何しろ、今や半導体設備投資は約5兆円のうち、インテル、サムスン、TSMCの3社で60%を占めるといわれており、この3社がどう取り組むかで装置業界や材料業界の生産計画は決まってくるといっても過言ではないだろう。

もっとも、日本勢においてもようやく大型投資断行の機運は出てきた。東芝は米国サンディスクと共同で三重県四日市に5000億円を投じる次世代半導体メモリの新工場建設を先ごろアナウンスした。スケールはクリーンルーム延べ2万7300屬任△蝓15nmプロセスによる最新の微細化対応ラインを導入する。特徴的なことは、3次元構造のプロセスを完成させ、データセンターに導入されるサーバー向けのストレージやSSDとして大容量で高信頼性の次世代NANDフラッシュメモリを量産することだ。つまりは、これまでのNAND型フラッシュメモリの主用途であるスマートフォン、携帯電話、デジタルカメラ向けではなく、発電所や企業の物流センターさらには各種の通信センターなど社会インフラに近いところのチップを量産するということなのだ。

最大のライバルであるサムスン電子も中国西安に同様の3Dメモリの最新鋭工場をこのほど稼働させている。サムスン電子は既にサンプル出荷を開始しており、マーケティングの面では東芝に1歩先んじた格好となっている。しかしサムスンのラインは、まだまだ多段積層化技術や大容量化の点で製造歩留まりや製品コストなどに課題があるとされている。サムスンを追いかける形の東芝は、技術的にこうした課題を解決し、またもやサムスンとガチンコ勝負で世界トップを争うことになるだろう。

一方、ソニーの半導体設備投資は、前年度比ほぼ横ばいの650億円を投じるが、このうち7割に相当する450億円を得意とするCMOSイメージセンサの量産に振り向けていく。同社の場合、量産拠点の熊本を中心に鹿児島、長崎でこの製品を手がけているが、先ごろルネサスから取得した山形県鶴岡工場をリニューアルし、月産能力を現行の6万枚から7万5000枚に増強する考えだ。ソニーはCMOSイメージセンサ分野においてダントツの世界トップシェア33%(ちなみに2位は米国のオムニビジョンで同16%)を保有しており、今後も積極設備投資でマーケットシェアを高めていく考えだ。

ずいぶんと長い間にわたって、半導体製造装置業界は元気がなかった。それは、半導体が伸びず投資も低迷していたからだが、ここに来ての一気の設備投資上昇は多くの装置メーカーの嬉しい悲鳴を呼び込んでいる。筆者は30数年間にわたって半導体業界を見てきているが、この業界はどうしてジェットコースターのように一気に上がったり下がったりするのかは、未だにきちんと分析できていないのだ。

産業タイムズ社代表取締役社長 泉谷渉
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