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世界半導体、ファウンドリ3強時代に突入!〜TSMCにサムスン、インテルが乱入

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台湾TSMCといえば、今や半導体ファウンドリ企業の代表格である。世界の半導体産業の流れがファブレス、ファブライトに向かう追い風を受け、ひとり勝ちともいうべき繁栄の時代を迎えている。世界最先端のSPICEモデルを一手に集め、回路設計も多種多彩のひな型を常にウォッチングし、しかもプロセス技術も超一流と来れば、もう言うことは何もない。モーリス・チャンが築き上げた帝国はまさに「わが世の春」を迎えている。

そのTSMCの2013年の設備投資はついに1兆円規模にまで拡大すると聞いて、ああ本当に時代は変わったのだと実感している。昔の言葉で悪くいえば、たかが下請け、良く言ってもブランドを持たない製造専業だけのファクトリがかくも出世を果たしてしまったのだ。2013年の半導体設備投資は筆者推定で約5兆円、前年に比べれば少しは好転すると見ている。それにしても、1兆円の規模を投じるメーカーはインテル、サムスン、TSMCの3社であり、おそらくは全世界投資の60%以上がこの3社によって占められることになるのだ。群雄割拠の時代は終わりをつげ、半導体産業の成熟化と共に強いものと弱いものが明確になっていく図式が浮かび上がってくる。

「インテルがファウンドリ事業に進出してくることはほぼ決定事項といってよいだろう。何しろ、パソコンがピークの4億台から一気に下降しており、2013年は3億2000万〜3億3000万台まで落ち込むという状況下で、このCPU1本で戦ってきたインテルの成長性にはいずれ限界がくるのは見えている。そうなれば3次元立体構造トランジスタ、450mmウェーハなどの技術で先行し、台頭著しいロジック系のファブレス企業から最先端ファウンドリを引き受ける、という新たなビジネスモデルがインテルの出口となるのだ」。

こう語るのは、今や国内でも最古参の半導体アナリストとして知られる南川明氏である。南川氏によれば、この数年のIT不況下において世界各国の半導体企業が巨大設備投資というリスクを回避し、ファブを作らずファウンドリに依存するという風潮はいやが上にも高まっているという。確かに世界の上位メーカーを見ても、テキサス・インスツルメンツ、ルネサスエレクトロニクス、STマイクロエレクトロニクス、インフィニオンテクノロジーズなどかつての英雄たちは、膨大な兵隊をそろえるよりも借りてきた軍隊で戦う方式――すなわちファブライトに走っている。勢い、TSMC、UMC、グローバルファンドーリズなどの専業メーカーの仕事は増えていく一方なのだ。

サムスンは既にスマートフォン向け(要するにアップル)のメーンCPU(アプリケーションプロセッサ)のロジックファウンドリを引き受けてそれなりの成功を収めている。しかし、同社の場合も主力のDRAMがパソコンの下降現象に比例して苦戦しており、今後はファブが余っていく方向にあると見てよい。そうなれば、インテルと同様に世界最高レベルのプロセス技術/量産技術を活用してファウンドリ本格参入を狙うということになるのだ。ファウンドリの利点は、何といっても営業販促にかかわるコストが低いことであり、またファブレスおよびセット機器大手の開発計画をきっちりとキャッチしておけば、それほどリスクのあるビジネスでもない。

「TSMCの最大のライバルは、UMCでもグローバルファウンドリズでもない。それはサムスンであり、いずれはインテルになるだろう。新しい時代のファウンドリ3強の戦いは熾烈を極め、投資合戦の様相を呈してくる。危険な賭けにはもう出たくない日本メーカーはかなりの数がこの3強に頼っていくだろう。パナソニック、富士通、ルネサス、シャープなどはもはや自前のファブは作らないかもしれない。しかし、これで本当に勝てるのかという疑問も生じてくる。」(南川氏)

確かに、専用デバイスで強みを持つメーカーは、自分のポジションを守る意味でもファウンドリには出したがらない。IGBTの世界チャンピオンである三菱電機、CMOSセンサーで世界トップを疾走するソニー、LEDでいまだに世界一の量産/技術を誇る日亜化学などにとっては、ファウンドリビジネスはむしろ遠い世界かもしれない。しかして、NANDフラッシュメモリの分野でサムスンと首位争いを演じ、次世代メモリのMRAMで最先行する東芝でさえ、ファウンドリ活用比率は増えつつあるといわれている。

「これだけ落ち込んできた半導体の世界も、メディカル、環境エネルギー、次世代自動車などの新アプリでもう一度活性化、再び高い成長の時期が来るかもしれない。しかし、眼を開けて見れば、そこにはまったく異次元の世界が拡がっていることが、十分予想されるのだ。社会の変革と共に歩んできた半導体の歴史は、今や塗り変えられようとしている。」

ため息をついてこう語るのは、日本のファブレスベンチャーとして著名なザインエレクトロニクスの創立者である飯塚哲哉氏である。それにしても、垂直統合型産業の典型であった半導体産業を、「いずれ、必ずファウンドリの時代に突入する」と予言したTSMCのファウンダー、モーリス・チャン氏の慧眼には恐れ入るばかりだ。それは、今から20年以上前のことなのだから、凡人にはとても及びもつかない。それでは、今から20年後の半導体産業のビジネスモデルをきっちりと言い当てる人が現在いるのだろうか。いるかもしれないが、その人は今、狂人扱いされている可能性も否定できない。

産業タイムズ株式会社 代表取締役社長 泉谷 渉

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