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アベノミクス効果が半導体産業に投影される日〜劇的な円安による競争力に期待

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「夏の参院選までに安倍政権は、躍起となって成長戦略を実行に移すだろう。医療産業の世界展開と女性労働力のフル活用という新たな機軸も前面に押し出し始めた。ところで、このままいけば年末には株価1万8000円まで行くことは十分に考えられるんだ。また為替レートは1ドル120円だって考えられちゃうんだぜ」。

上記のコメントは、筆者が言い放ったことではない。国内最大手の証券カンパニーのアナリストが筆者に向かって強い口調で言い切った言葉だ。もちろん筆者は心の中で「マジかよ!」とつぶやいていたし、相手にわかからないように唇に手をやり、その唾を眉にすりつけていたのだ。

それはさておき、実際のところアベノミクス効果はじわじわと現れ始めた。すでに非製造業の分野では設備投資の拡大や賃金上昇の動きが顕著になっている。たとえばセブンイレブン、ローソン、ファミリーマートなどの2013年度の出店計画は過去最高レベルに引き上がっている。百貨店やスーパー、専門店などを含めた商業・サービス分野では、賃金を上げる動きが明確化しており、消費の拡大を狙っている。

動きの鈍かった製造業においても、投資拡大の気運はようやくにして出始めた。自動車でいえば、ダイハツ工業は2014年3月期の設備投資額を前期比57%増の1150億円にすると発表。年度ベースで過去最高額となる。古河電気工業は、2013年度からの3カ年で900億円の設備投資を決定し、久方ぶりの飛躍を狙うアクティブ戦略に出てきた。大手電機のソニーは、前々期で672億円の赤字を出し、2013年3月期も微増がいいところとの大方の予想を裏切り、実に営業黒字は一気に2300億円に押し上げた。

何のことはない。何の改善もされていないのに、株高と大幅円安のアベノミクス政策だけでこの数字を上げたわけだ。6月には大手各社の決算が出揃うが、大幅黒字を背景に、積極的な設備投資計画が出てくることが期待できるであろう。そうなれば、雇用拡大、賃金上昇、物価上昇の好サイクルに入るわけであり、まさに20年ぶりのデフレ不況脱出に筋道がついてくる。

「ウチの工場の操業度は全く上がらない。このままでは第二のリストラも考えなくてはならない。安倍ちゃん効果なんて何にも関係ねえ。こんなに低迷しているエレクトロニクスの状況を安倍ちゃんは本当に理解しているのか」。これまた筆者が語った言葉ではない。半導体関連の下請け企業の工場主が筆者に唾を吐きかけんばかりに語った言葉である。実際のところは少しだけこの男の唾が眉に飛んできたので、「これってやっぱしマユツバ?」と心の中でつぶやいた。

さよう、まことにものづくりの現場においては、なかなかアベノミクス効果を実感できない企業も多くあるのだ。しかしてその多くはエレクトロニクス関係者である。なにしろ、昨今のメディア筋は、「さしものミラクル成長のアップルも成熟した」と論ずる輩が多い。世界全体のITマーケットが成熟期を迎えていることはまちがいなく、あのアップルでさえ、今後のバラ色の高成長戦略を描くことができなくなっているのだ。

国内半導体メーカーもこうした状況を反映し、決して顔色は明るくない。半導体産業新聞の調べによれば、国内大手11社合計の2012年度売上高は、前年比9%減の3兆5000億円程度になったもようだ。

しかしながら、2013年度については、たぶん数パーセントの範囲にとどまるが、各社ともプラス成長を想定していることは間違いない。見逃せないのは劇的な円安の定着で、競争環境が改善されてきたことだ。なにしろ現在の為替レートがさらに円安に振れていくならば、自動車産業でも起きていることが、半導体産業にも起きる。つまりはこれまで韓国勢や中国勢などのアジア勢に対し、全く価格で対抗できなかったニッポン半導体が、十分に戦える価格設定ができるようになる。

すでに自動車においては韓国の現代自動車は一気に凋落しており、現代にシェアを大きく奪われていたトヨタは、ここにきて凄まじい勢いで巻き返している。こうしたことが、半導体の現場においても十分に起こり得るだろう。

産業タイムズ 代表取締役社長 泉谷 渉

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