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ニッポンの有機EL巻き返しに注目〜既存企業、ベンチャーが続々立ち上がる

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有機EL照明のマーケットについては、現状でカウントできるものは少ない。富士経済によれば、2020年には3500億円程度まではいくとしており、その潜在的な市場性に寄せられる期待は大きい。

一方、ディスプレイ向けの有機ELについては、量産フェーズに移行できたのは現時点で韓国・サムスンだけで、同社は年間2億台に達する自社の携帯電話に有機ELを採用し、端末の差別化を図ることでセールスを伸ばしてきた。スマートフォン「GALAXY S」の成功はそれを物語る。有機ELディスプレイ市場におけるサムスンのシェアは、90%をはるかに超え、限りなく100%に近い。

しかしながら、有機ELディスプレイの研究開発はもともと日本メーカーが世界の最先端を走っていた。現状を招いたのは、実用化に最も近い位置にいながら、どのパネルメーカーも大規模量産に踏み切らなかったことがこの代償ともいえる。また、ガラパゴスと揶揄された日本の携帯電話メーカーが、莫大なパネルニーズを生み出せなかった結果でもある。世界初の有機EL量産に成功していたパイオニアは、現状で少量にとどまっている。それを追いかけていた三洋電機、ソニー、キヤノンなどは、いずれもつまずいてしまったといえるだろう。

しかしここにきて、日本勢の巻き返しも始まってきている。大手ではセイコーエプソンが東京エレクトロンとタイアップし、新型有機ELの開発を進めており、量産移行目前とも言われている。また、パナソニックは住友化学とタイアップし、有機EL量産の道を探っている。三菱化学や東レなどは材料開発にとどまらす、有機ELを量産する計画を水面下で進めているもよう。シャープ、コニカミノルタ、昭和電工もまた独自の開発で有機EL本格量産の道に向けて努力している。ところで、有機ELのデバイスでは日本は弱体であるとはいえ、この基本材料については出光興産と新日鉄化学の2社で世界シェアの大半を押さえていることは驚きである。

一方、ベンチャーの動きも加速してきた。山形県米沢に誕生したルミオテックは、世界初の白色有機ELを開発した山形大学の城戸淳二教授の開発成果を実現するために作られたベンチャーカンパニーだ。すでに商業量産に踏み切っており、今後の拡大が期待される。また、先ごろ山形大学工学部キャンパス内に25億円を投じ、有機エレクトロニクス研究センターが立ち上がった。研究テーマは有機ELを始め、有機太陽電池、有機トランジスタの3分野。また、その次のステップとして、実用化に向けての有機エレクトロニクスイノベーションセンターの建設も決まった。2011年度内にも着工し、2013年春の稼働を目指す。

横浜に本社を置くエイソンテクノロジーは、画期的な素子構造のエイソン型を引っさげ、いよいよ有機EL量産移行のときを迎えた。この素子構造により、スタックが幾段でも可能となり、かつシンプルな生産装置で量産できる。世界最高水準の輝度と長寿命を実現している。コストについては、従来に対して20分の1以下に下げることも想定される。現在は滋賀県下で試作少量産の段階にあるが、これから30億円前後の設備投資を実行し、量産ライン構築に入っていく。

東北方面においては、六ヶ所村にあるOLED青森が注目される。カネカの出資を仰いだことで具体的な投資戦略を策定中であり、現状では2型換算で月産60万枚の有機EL照明パネルを作っている。また、有機ELのベンチャーのイー・エル・テクノは、2012年6月をめどに熊本新工場を立ち上げ、店舗照明向けを量産することになった。

九州においても、大きなプロジェクトが立ち上がろうとしている。有機薄膜研究を九州大学や熊本大学がコアとなって、官民共同プロジェクトとして推進するというもの。この有機ELを前面に押し出した大型プロジェクトの先頭に立つのが九州大学の足達千波矢教授。安達氏は、高効率化を目指しエネルギー差(注)の少ない新規材料の探索に取り組んでおり、これが世界のエレクトロニクス学会の大注目を集めている。また、一方で液体有機ELの研究も進めており、これまた国内外の関係者から驚きの声が上がっている。

産業タイムズ社 代表取締役社長 泉谷渉

編集室注)三重項準位と一重項準位とのエネルギーの差が小さいと、熱失活しやすい三重項準位から、蛍光として光る一重項準位へ励起子が移動しやすくなるため発光効率は上がる

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