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中国の電子製品/新エネルギーに大変調!!〜PV、LED、LCDも一気にダウン

「あのEMS大手のFoxconnですら、中国ではもはや儲からない。赤字続きで嫌気がさした首脳部は、ついに次期大型工場を中国ではなく、ブラジルに新設することを決めてしまったのだ。こんな状況下で、日本メーカーが中国で儲かるわけがない」。

筆者が所属する半導体産業新聞は7月15日に中国・上海で特別セミナーを開催し、多数の企業の参加をいただいたが、この席上で上記のような会話が飛び交っていたのだ。コストの安い中国を活用してのビジネスモデルは欧米系、韓国、日本などがこれまでに確立し、成果を上げていたことは事実だが、ここに来て状況は一変した。20%ずつ上昇するという人件費は、上海エリアではついに5万円/月となり、ここ数年のうちには九州・鹿児島あたりに工場を作った方がましだという声すらある。パソコン最大手のHPも、中国工場をあろうことか日本に移転してしまうとアナウンスしており、「ものづくり大国」中国の屋台骨がゆらぎ始めた。

人件費が急上昇していることにクロスオーバーし、最近の物価は単月で6%も上がり、かつての日本の狂乱物価よりもすさまじい現象を見せている。政治不安、暴動といったカントリーリスクを懸念する企業も多く、ここに来て欧米系企業の中国撤退も目立ち始めたという。

アナログからデジタルへの変換が次々と世界各国で進められる昨今にあって、どういうわけか液晶テレビはまったく売れない。欧州の経済クライシス、米国の経済回復のもたつき、日本の大震災による部材不足で自動車、エレクトロニクスの世界的なトーンダウンが影響して、大型テレビは在庫の山を積み上げている。テレビ世界最大手のサムスンですら、3割も在庫を抱えているという噂もあり、「今年いっぱい大型液晶はまったくダメ」と頭を抱える液晶関係者も多い。にもかかわらず、「行け行けドンドン」であった中国では、北京のBOE、サムスン蘇州、南京のCECを始めとして第6世代の液晶工場が一気に立ち上がりつつあり、さらに品物はだぶついてしまう。中国における液晶プロジェクトはいよいよ終わりだ、という向きは多く、昆山に予定されていたFVOの7.5Gプロジェクトはついに解散してしまった。一方で、KONKAは内モンゴルに進出し、年間300万台の液晶テレビ工場建設を進めている。何と、ついに、モンゴルなのだ。北京エリアの市場開拓という意味もあるが、とにもかくにも人件費、物価の高い沿岸エリアにはもう先端工場は作れないということの証左でもある。

液晶テレビが売れないのであるから、当然のことながら、バックライト光源の白色LEDもヤバイことになってきた。中国政府はLED製造の要となるMOCVD(何と1台2億円もする!)を購入する企業には、1台あたり1億3000万円の補助金を出すという政策を断行している。このため、世界のMOCVDの出荷数の半分は中国が買っていると言われ、中国全土で40〜50件のLED工場プロジェクトが進んでいる。照明用途はともかく、テレビ用途が急落する中で、LEDもまた市場にだぶつき、価格崩れを起こすだろう。

民生電子機器だけではない。今や世界シェアの50%近くを持つと言われる中国の太陽電池(PV: photovoltaic)もとんでもないことになっている。昨年の太陽電池は一気に上昇し、出荷量は世界全体で16.6GWになったとされるが、このうち55%はドイツ、イタリアが買っている。イタリアはギリシャに続く債務危機国と言われており、補助金なども後退した。欧州全体が大きくトーンダウンしたことで、これまた「ガンガン行こうぜ」と雨あられのように建設されている中国の太陽電池メーカーは困ったことになってくる。現状の判断では、作りすぎが悪く影響し、世界は太陽電池不況に突入したと言い切ってもよいだろう。それにしても、現状で10GW分の在庫があるというのだから、本当に大丈夫かと心配する関係者の悲鳴が聞こえてくるようだ。

北京オリンピックは大成功させたが、GDP成長率は明らかに鈍化し、物価上昇、人件費高騰、さらには電子製品/エネルギーの生産不況突入に苦しむ中国の姿は、1964年に東京オリンピックを成功させ、その直後に大不況に突入した日本の姿とだぶってしまう、と思うのは筆者だけだろうか。

産業タイムズ 取締役社長 泉谷 渉
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