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Li+電池で世界トップシェアの日本勢は設備投資急加速〜産学連合もスタート

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リチウムイオン電池は、現状において需要の8割以上が携帯機器に使われている。しかし、全体のパイが拡大していく中で、将来的には8割が自動車向けになるとの見方があるのだ。2010年から始まったエコカーブームは、リチウムイオン電池の需要拡大を促し、各社とも車載向けに積極的な投資をスタートしている。ただ、安全性と信頼性という観点から多くのハイブリッド車は現状でニッケル水素電池を採用しており、リチウムイオン電池の主用途は、やはり、今のところは電気自動車(EV)に限られている。

さて、環境対応自動車に向けて三洋電機をはじめ日立ビークルエナジー(日立製作所、日立マクセル、新神戸電機合弁)、リチウムエナジージャパン(三菱自動車、GSユアサグループ合弁)、オートモーティブエナジーサプライ(AESC)(日産、NECグループ合弁)などの電池メーカーが意欲的な投資を決めている。リチウムイオン電池の分野で日本勢は、50%(2008年時点、資源エネルギー庁長官石田徹氏による「5展合同特別講演:新たなエネルギー社会システムの構築に向けて〜三種の電池関連施策を中心に〜」より)
の世界シェアを持ち、アジア勢の急追をブロックするためにも設備投資拡大が必要なのだ。

 三洋はニッケル水素をホンダ、フォードに供給しているが、今後、フォルクスワーゲン、プジョー向けにも出荷する。同電池の拠点は洲本工場(淡路島)。また、リチウムイオン電池は、フォルクスワーゲンに出荷する計画で、これに合わせて同電池の主力拠点である徳島工場に加え、兵庫県の加西事業所内にも新工場を立ち上げた。

 アイ・ミーブ向けにリチウムイオン電池を生産しているリチウムエナジーは今後数年間で設備投資を加速させていく。滋賀県草津工場においてアイ・ミーブ2300台分の生産能力でスタートしたが、この1年間で約3倍に能力を引き上げた。また、京都工場(GSユアサ内)でも増強投資を行っており、1万台分以上の能力が整備されたようだ。

 日産自動車向けにリチウムイオン電池を供給するAESCは、120億円の投資を行い、日産座間事業所(神奈川県座間市)内に生産ラインを新設した。生産能力は当初年産1万3000台分、将来的には6万5000台分となる。これに合わせてNECエナジーデバイス(NECトーキンの大容量リチウムイオン電池事業を継承)は、110億円投資し、NEC相模原事業場(神奈川県相模原市)内にAESC需要に合わせた電極ラインを構築している。

 日立ビークルは、いすゞ自動車、三菱ふそう、イートンなどのHEV、EV向けにリチウムイオン電池を供給しているが、今後はGM向けにも供給していく計画だ。このため、現状、茨城・ひたちなか工場にて月産4万セル規模にて生産しているのに対し、早期に同数十万セルにまで拡大していくという。

 さて、車載用リチウムイオン電池に力を入れるGSユアサは、最近になって国内外で大型の投資プランを公表した。まずは、スペイン、オーストリアなどを候補地として、欧州に世界最大規模のEV向けリチウムイオン電池の新工場を建設することを決めた。2011年初めにも着工し、2012年内の稼働を目指す。この計画は、同社と三菱商事、および北米の自動車部品大手のマグナインターナショナル社の3社合弁で実行するものであり、投資額は約400億円、約5万台分のEV用電池を量産する。プジョーシトロエングループのスペイン工場に供給するものと思われる。一方、国内においては、400億円を投じ、滋賀県栗東に年産5万台のEV向けリチウムイオン電池の新工場を建設する。GSユアサの京都事業所と合わせれば、GSユアサのEV向けリチウムイオン電池の生産能力は12万台となり、一気に抜け出す考えだ。

 リチウムイオン電池で疾走する日本ではあるが、ここに来てさらに大型の国家プロジェクトを策定している。日本政府が7年間で約210億円を投じ、電気自動車の走行距離を2020年までに現在の3倍に伸ばすことを考えているのだ。自動車大手は揃って参加し、電池メーカーもGSユアサ、三洋など7社、大学は京都大学、早稲田大学など10機関が参加する。いわばオールジャパンの連合軍で世界に圧倒的な差をつける次世代電池を開発しようというのだ。

産業タイムズ 取締役社長 泉谷 渉

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