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ニッポンの風力発電ベンチャーに注目〜導入量最低レベルでも技術開発は最先行

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2009年の世界における風力発電導入量実績は3810万kWで、これまでの累計で言えば1億6000万kWとなっている。これを国別で見ると欧米が多く、北米、ドイツ、スペイン、中国、インドでトップ5を形成している。わが国は09年次の累計で、設備容量218万kW、設備機数1683機であり、先進国では最下位レベルの10位以下となっている。

なにゆえに日本の導入量は低いのか。やはり欧米と比較して、風力に適さない自然環境である点が一番大きい。平均風速6.5m/秒は必要であり、風の乱れが少ないことも重要だ。ところが日本は海陸風、山谷風など小規模な局地風が多く、風速および風向が変則的で一定していない場所が多い。こうした状況下で風力発電を再生可能エネルギーの柱に立てるという風潮にはない。

しかしながら、他の再生エネルギーと比較した場合、最もポピュラーな太陽電池と比較すると、発電効率の点で優れている。具体的には発電効率ではシリコン結晶系太陽電池の2割程度に対し、風力発電はほぼその倍である。

また、世界市場におけるメーカー別シェアでは風力発電の老舗であるヴェスタス(デンマーク)をはじめGEウィンド(北米)、ガメサ(スペイン)、エネルコン(ドイツ)、スズロン(インド)、シーメンス(ドイツ)など海外勢が強い。日本企業は三菱重工業、日本製鋼所、富士重工業などが参入しているが、日本トップの三菱重工業でさえ08年次で第10位となっており、海外勢とは大差をつけられている。

ところが風力発電後進国である日本において、意欲的なベンチャーカンパニーが次々と登場している。小型風力発電というスタイルがキーワードになるのだ。実用化という点では、大型風力発電におよばないものの、日本メーカーの技術力はトップレベルとして世界から注目を集めている。

新潟に本社を置くWINPROは2003年に創業された。技術的な特長は、地面に対して垂直に位置する垂直軸型と、独自工法による3枚ブレードが特徴だ。航空力学に基づく断面構造、および独自技術であるブレード裏面に切り込みを入れる、このことで優れた受風構造と空力特性を実現する。また、ギアを一切使わないダイレクトドライブシステムも採用している。同社の専務取締役である亀井隆平氏は、今後の展開についてこうコメントする。「出力200W型の街路灯向けを中心に、1kW型発電機などを販売している。09年度までで100台以上を出荷した。この街路灯は風力発電、太陽光発電、LED照明を組み合わせたものであり、国内外で需要が急激に拡大している。」

特に中国向けは引き合いが強く、青島や天津、西安などにパートナー企業との合弁会社を設立し、工場立地を進めているという。また最近ではフランスのある中核都市から受注があり、11年度中に1000台を出荷する計画であるという。売上は2010年度で15億円。11年度は25億円。IPO取得後の13年度には50億円を目指すという。

川崎の太陽電音は、駅構内やデパートの案内放送システムを開発するベンチャーであるが、先ごろから小型風力発電装置を軸にした環境事業に力を入れている。風力と太陽光のハイブリッド発電システムを手がけており、案内看板などをLED照明で照らすという手法で、新潟のWINPROの方法論と基本的には同じだ。いまのところは、区役所など官庁に設置する発電システムに注力するが、今後は農業関係にも売り込みを図る。

秋田のMECAROは、世界初のスパイラル円柱翼を採用した風力発電機の製造販売で一気にその名を知られてきた。マグナス効果の原理を利用し、「低回転で静か・安心・長持ち」を武器とする。製品の特徴は、一般的なプロペラ型の1/4という低い回転数で、見る人に安心感を与える。風車の稼働音は回りの風の音とほぼ同じレベルであり、バードストライク現象が起こりにくい。実に国内外10カ国で特許を押さえている。2011年には40機を売る計画であり、12億円の売上が見えてきた。トヨタ自動車系のトヨタ紡織にも納入実績があり、引き合いは急増している。同社の村上信博社長は、今後の展開についてこうコメントする。「量産が効けば、100〜200機を作ることも夢ではない。その段階では新工場立地も検討する」。

風力発電にはブレーキ装置、可変ピッチ、風車制御駆動装置、パワーコンディショナなど、多くの電子機器が使われている。パワー半導体やマイコンなどにもインパクトがあり、半導体や電子部品業界はこうしたニッポン風力ベンチャーの動きを静かにじっと見つめている。

産業タイムズ 取締役社長 泉谷 渉

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