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市況急回復に乗り遅れるニッポン半導体〜過剰品質のカルチャーは変わらない

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「ある日本のロジック半導体メーカーが、台湾のTSMCに生産委託したら、工程数が3分の2に短縮された。めちゃめちゃに安く作れるようになった。相変わらずの高品質維持で日本の半導体はいたずらに工程数が多すぎるのだ。機械も多く買わなければならないし、人も必要以上に多く使う。これでは日本の半導体が儲かるわけはない。」(アイサプライ・ジャパン 南川明副社長)

さて、半導体市況が急回復している。ギリシャ問題に端を発するEU不安はあるものの、マクロ経済の回復と歩調を合わせ、電子機器需要の急回復が半導体を支えているのだ。

世界のGDPは約6000兆円であり、このうち電子機器生産は約120兆円を占めている。GDPの約55%はなんといっても個人消費であり、これが電子機器の売り上げに直結する。ちなみにこの比率は米国70%、日本60%となっており、相変わらずこの二つの国が消費の中心であることは間違いない。しかしながら、中国、インド、ロシア、ブラジルなどの新興国需要は急速に拡大しており、現在ではこれがバカにならない。世界のエレクトロニクスの消費人口は約10億人の中・高所得者層となっているが、これに新たな低所得者層の10億人が加わってきた。

日本は基本的に中流志向であり、この国民性にあった高品質、高機能の製品を開発し、これを欧米に持っていき、中・高所得者層を中心に確実にヒットしてきた。しかしながら、超大国アメリカの回復の足取りは重く、EUもまた経済不安から抜け出せない。日本のターゲットとなるエリアに元気がないのだ。こうなれば、世界経済を引っ張るのはやはり中国であり、インドであり、低所得者層が多く存在する新興国が主役となる。その低い購買力に合わせた韓国、中国、台湾などのエレクトロニクス製品が闊歩することとなる。日本製品が売れないのは当たり前のことなのだ。

日本の半導体産業は、新興国を中心とするグローバリゼイションにあきらかに乗り遅れている。なにしろ、生産の6割が、日本メーカー向けであり、輸出はわずか4割にとどまっている。なまぬるい内向き志向といわれるゆえんだ。しかし、様々な要因がマイナスに働いていることも事実なのだ。かつて、メインフレームコンピューターの最盛期である80年代後半に日本の半導体は世界1位を取った。その最大の理由は25年間も保証できるのは日本メーカーだけであり、その高品質がとにかくものをいったのだ。しかしメインフレームが衰退し、PCが急拡大するとともに日本の半導体はシェアを失っていった。この間に韓国・台湾メーカーは3年保障のDRAMを大量に安く販売して、シェアを拡大した。それでも日本は、25年保障の品質を守り続け、結果として敗北していった。

ニッポン半導体は、いまやコスト競争で負けている。韓国のサムスンやハイニックスの後塵を拝しており、液晶テレビなどの分野でもLGに勝てない。よほど思い切った戦略を取らなければ、キャッチアップすることは容易ではない。にもかかわらず、日本メーカーの開発部隊は開発だけ行いコスト意識が著しく低い。機能がてんこ盛りの製品を作り喜んでいる。コストの問題は工場の仕事だと考えている。一般的にも、日本人はひたすら部分最適に走るが、それは全体最悪になる場合が多いのだ。

外国の半導体メーカーはこうした日本の姿を見てこうつぶやくことが多い。「きめ細かいことはいいことだ。毎日お風呂に入る清潔感も素晴らしい。しかしながら、2〜3日は風呂に入らなくても香水をかければよいという気構えがこれからは必要だろう。でもきっと、2000年の歴史を持つ日本人のカルチャーは変わらないだろうね。」

産業タイムズ 取締役社長 泉谷 渉

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