セミコンポータル
半導体・FPD・液晶・製造装置・材料・設計のポータルサイト

環境エネルギー企業の設備投資なら国は補助金を出す〜42件、300億円を投資

|

「これはまさにサプライズです。明治期の官営八幡製鉄所や富岡製糸工場の時代ならともかく、国が直接民間企業の工場建設に補助金をバラまくということはありませんでした。しかしながら今回は、環境エネルギー関連であれば、という条件付きではありますが、ついにその禁じ手を破ったのです」。

こう、ため息をつきながらも鋭い分析の目を輝かすのは、日本政策投資銀行関西支店にあって、副調査役を務める坂田枝実子氏である。同氏は「関西力の復権」をキーワードに、とりわけ環境エネルギー関連の調査分析に全力を挙げている。同氏によれば太陽電池やリチウムイオン電池などのグリーンニューディール関連産業の集積は圧倒的に関西が多いとしている。おそらくは、7割以上が関西をコアに西日本エリアに工場が集積されているという。ちなみに物流機能についても、関西の優位は明らかになってきており、リチウムイオン電池の輸出はトップが大阪港(38%)、ついで神戸港(31%)と圧倒的である。これまで主役の横浜港は追いやられた形となっている。

さて、国(経済産業省)が今回取り組んだ ‘バラまき’ の正式名称は「低炭素型雇用創出産業立地推進事業費補助金」である。この補助金の趣旨は、低炭素社会の基盤となり、将来の大きな成長が見込まれる市場において信頼性の高い技術力を有するなど、国際競争力が高い企業による設備投資に対し、国が直接支援し、国内雇用の創出を図るというものだ。今回採択された補助金の件数は42件であり、予算総額は約300億円。補助事業によって支援する工場では今後4年間で延べ1万人以上の雇用が創出される。このインパクトは他の関連産業や流通業などにも裾野を広げ、最終的には延べ5万人以上の雇用創出につながるとしている。

今回採択された企業の投資計画を一覧すれば、圧倒的にリチウムイオン電池の材料および装置関連が多いことがよくわかる。関東甲信越では日立ビークルエナジー(茨城県)、NECトーキン(神奈川県)、東芝(長野県)、長野オートメーション(長野県)、などがリストアップされている。近畿エリアでは、田中化学研究所(福井県)、リチウムエナジージャパン(滋賀県)、旭化成イーマテリアルズ(滋賀県)、新神戸電機(滋賀県、三重県)、日立マクセル(京都府、富山県)、三洋電機(大阪府、兵庫県、徳島県)、ユミコアジャパン(兵庫県)、冨士発條(兵庫県)となっている。これらの企業はすべて2010年度(平成22年度)に設備増強を計画し、実行することが確実なのだ。

最大の補助金はリチウムエナジージャパンの滋賀県栗東市内に建設する新工場計画であり、50億円の補助金が投入される。同社の投資額は375億円。2012年度に電気自動車用リチウムイオン電池年産440万セルを製造することになっている。これは直接的には三菱自動車の電気自動車「i-MiEV」5万台分にあたる。

「今回の環境エネルギー関連の民間設備投資に対する補助金は、基本的に設備投資の海外流出に歯止めをかけるものだと考えられます。しかして、思わぬ効果もありました。それは、ベルギーに本社を置くユミコアが、神戸において40億円の投資を実行することです。つまりは海外からの投資を呼び込むことに成功したのです。」(坂田氏)

リチウム電池以外の採択された事業としては、太陽電池、LED照明関連、電気自動車用モーター、風力発電向け部材などがある。経済産業省は、2010年度(平成22年度)についても、この補助金を継続し、かつ拡大したいとして予算のぶん取りに躍起となっている。確かにこれは、雇用創出、新産業創出という点において効果のある政策だからだ。ところが、またしても蓮舫率いる民主党の ‘必殺仕分け人’ が手ぐすねを引いて待っており、この実りある予算を切り捨てる懸念はある。

産業タイムズ 取締役社長 泉谷 渉

月別アーカイブ