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半導体産業は9月にも大パニックの恐れ〜製造装置が全く足りないという懸念

「半導体産業はまさに一気V字回復の機運が高まった。設備投資も前年度比倍増以上の勢いで伸びるだろう。しかしながら問題は、製造装置が全く足りないことだ。9月頃になれば一大パニックが起きるかもしれない。」

半導体産業のアナリストとして国内最古参の南川明氏(アイサプライ・ジャパン副社長)が目を輝かせて言った言葉である。半導体産業は、リーマンショックの影響をまともに食らった形で、約2年間に渡り生き地獄とも言うべき低迷ぶりを満天下にさらした。生産や投資は10年以上前の水準に逆戻りした形となり、もはや半導体のカリスマ成長神話は終わったとさえ囁かれた。

しかして、またもや神話は生きていたのである。インテル、サムスン、TSMCの大手三社は、2010年に設備投資として150億ドルを投入することを決めており、国内勢においても東芝がNANDフラッシュメモリーに8000億円の大型投資を行うことを決めた。これを受けて、装置大手の東京エレクトロンも、凍結していた宮城新工場計画を再開することになった。

「東京エレクトロンの最先端ナノレベル向けの製造装置は、おそらく2010年末までの分が全て売り切れになっているだろう。この例を見てもわかるように、これからデバイスメーカーが追加の設備投資をしようとしても、装置が全く間に合わないだろう。」

これは、半導体の主要材料を扱うメーカーの幹部が漏らした言葉である。つまりは、市況が一気急上昇して強い投資計画が策定されても、装置が間に合わず、注文に対し作りきれないという懸念が強まってきたが、市況回復の最大の要因は、世界市場におけるノートPCの急激な伸びが一番大きいだろう。さらに中国を中心とするアジアにおける液晶TVの急上昇もこれに追い討ちをかける。液晶パネルもまた不足が明らかになる見込みであり、この液晶偏光板保護用TACフィルムを作る富士フイルム(世界シェア80%を保有)が水面下で500億円を投じる新工場計画を策定中だ。

加えて、ハイブリッド車、電気自動車、風力発電、太陽光発電などに使われるパワーデバイスや次世代照明の本命である白色LEDの需要急拡大が新たな牽引車となっている。既存のIT分野の急回復に環境エネルギー系がクロスオーバーするというのが今回のシリコンサイクルのヤマを形成していく。

LEDについてはサムスンや台湾勢などが大型投資を構える一方で、日亜化学工業、シャープ、昭和電工なども大型投資を決めつつある。しかしこちらの方でも装置の逼迫は目に見えている。すなわち、LED製造にもっとも必要と言われるMOCVD装置が全く足りないのだ。アイクストロン、ビーコ、太陽日酸などの装置メーカーも、MOCVD装置増産に向けて準備しているが、需要が強すぎて全く追いつかない。2010年秋は、かつて映画のワンシーンとして観たような光景がよみがえってくる。つまりは、半導体が全く足りず、一大パニックで、各社の購買部は目を血走らせて奔走することになるだろう。

産業タイムズ 取締役社長 泉谷渉
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