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環境車ベンチャーの時代〜民主党政権は前例を無視して直接の助成金

「日本の粉体加工技術はおそらく世界でぶっちぎり状態だろう。ニッケル水素やリチウムイオンなどの二次電池技術が車載向けに注目されているが、素材という点ではやはり日本は世界をリードするだろう。」

この1月12日に、ある証券会社が主催した環境・新エネルギー産業創出セミナーの席上で、日本粉体工業技術協会電池製造技術分科会の仲田眞三氏は、ひかえめな口調で、しかしはっきりとこう言い切った。電気自動車やハイブリッド車の開発・量産はいまや世界的な課題となっているだけに、その心臓部分である二次電池に対する関心はいやがうえにも高まっている。世界に冠たる日本の素材力がこれを支えていくのは、間違いのないところだろう。

ところで、こうした環境車については、いまやベンチャーが縦横無尽に活躍している。米国においては、フィスカーオートモーティブが高級プラグインタイプの開発・量産に成功しており、160億円を投じウィルミントンに新工場をスタートさせる計画だ。また中国においては、すでに電気自動車のベンチャー企業が40〜50社はいると見られており、規制が緩いお国柄だけあり、もはや勝手に作って、勝手に走らせているようだ。しかしながら、リチウムイオン電池は、ソニー、三洋、パナソニックですら、携帯電話やパソコンで爆発事故を起こしており、安全基準のない電池を採用して自動車事故を起こしたらどうするのだろうと少し心配してしまう。

国内においては、特にソニー出身の二人が作った先端技術情報総合研究所とエナックスがにわかに注目を浴びてきた。前者は藤原信浩氏が09年10月に作ったベンチャーであり、後者は小沢和典氏が96年にスタートさせたベンチャーである。いずれも次世代の車載向けリチウムイオン電池の開発に注力するものだ。ちなみにソニーは1000億円を投じ、福島県郡山に車載向けリチウムイオン電池の新工場建設を予定しており、早ければ今夏にも着工する。こうしたソニー出身のベンチャー企業の技術を導入するものと見られている。

電気自動車のインバータなど、電力変換装置の設計開発を手掛けるベンチャーとしては、横浜のマイウェイプラスがある。同社は93年に設立されており、当初は建設機械向けの電動駆動装置の開発に注力していたが、最近では独自のモーター検査装置を生かして、電気自動車の開発を進めている。2013年にも株式公開を目指しており、自前で新工場建設も計画検討中だ。

こうした環境エネルギーベンチャーの開発量産を後押しする政策もかなり生まれている。米国においては、オバマ大統領がリチウムイオン電池やそれに使われる材料を手掛ける企業に対しては、最大で2000億円の助成金を出すことを決定した。この裏には、リチウムイオン電池に関する日本の強さを懸念する多くの議員団の声がある。ある技術検討部会の席上で、政府系の議員は机を叩いてこう叫んだという。「車載向けに注目されるリチウムイン電池の材料の90%は全て日本製で占められている。このままでは次世代自動車の心臓部分の技術を全て日本企業に握られてしまう。冗談じゃない。」

ところで、わが国政府においても、環境エネルギーの設備投資を後押しする政策が登場した。それがグリーン立地助成金というものであり、環境エネルギーに関連する材料メーカーが工場を建設する計画があった場合に、政府は直接補助金を出すというのだ。これは実のところサプライズの政策だといえる。工場建設に関して、地方自治体が助成金を出したことはあっても、国が直接助成を行った例はない。鳩山民主党政権は、それだけ環境エネルギーに賭ける気持ちが強いのだろう。とりあえず、今年度の第二次補正予算では300億円を積み上げており、新年度予算では2000億円を要求するというのだからただごとではない。いわば前例を破ってまで、鳩山民主党は環境エネルギー振興に邁進するのだろう。

産業タイムズ 取締役社長 泉谷渉
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