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2025年100兆円の水処理ビジネスにもIT活用〜IT・素材・商社にチャンス

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「水をめぐって、多くの戦争が起きたことを、あまり日本人は知らない。なぜなら、日本はすばらしい水に恵まれているからだ。しかし世界で、まともに飲める水は、おそらく2.5%しかない。残りはすべて海水なのだ。」

こう語るのは、“もったいない”をキーワードに、全国区の有名人となってしまった滋賀県の女性知事である嘉田由紀子氏である。滋賀県と言えば、日本一の湖「琵琶湖」を持ち、近江八景に代表される山紫水明、四季折々の風情が楽しめる自然が多くの人を魅了している。里山の風景が、いたるところに広がっており、まさに環境立国ともいうべきところだ。そこに魅入られた嘉田知事が語る水の重要さ、ということを少し考えてみたい。

国連によれば、2025年段階で、世界の水使用量は00年比で30%以上増えることが確実と言われている。なにしろ、世界人口が80億人を突破してくるわけであり、この3分の2の人たちが、水不足に直面するのだ。こうなれば、海水を真水に変えるというウルトラ技術が必要になってくる。それが逆浸透膜という技術であり、メンブレン素材の登場で可能になり、膜ろ過により溶液に含まれる物質を分離、精製、濃縮するというものであるが、実はこの技術のベースを作ったのが、半導体産業なのだ。つまりは、半導体工場における超純水製造がこの技術の基礎であり、これが今や世界の水資源事業という環境産業に結びついていくのだ。

とりわけ、排水処理や水不足に悩む中国においては、水処理施設の巨大投資が予定されている。双日は、工場から出る排水のリサイクル事業に乗り出す考えで、まずは河北省唐山市に約40億円を投じ、1日当たり5万トンの処理能力を持つ設備を導入する。リサイクル装置は、油や固形物を分離させる装置と排水をろ過する水処理膜で構成される。同社は、水処理膜などで優れた技術を持つ旭化成や日東電工などと装置を共同開発する考えだ。2012年度には、中国の20カ所程度で事業化する考えで、この中国関連だけで100億円の売り上げを目指すという。

帝人は、中国の江蘇省南通市にある繊維の染色会社の工場内に排水リサイクルの実証設備を導入した。日本の素材メーカーは、水処理膜などの部材の販売が中心であったが、帝人はリサイクルの設計、建設、エンジニアリングなどをトータルでサポートする。2011年度では、水処理事業全体で現状の3倍の30億円を達成していく。

旭化成もまた、ソニーケミカルの蘇州工場向けに排水リサイクルのサービスを始めた。これを中国全土に展開し、08年度には100億円であった水処理関連の事業の売り上げを5年後をめどに300億円に増やしていく考えだ。また東レは、中国化学大手の中国藍星集団と合弁会社を設立、2010年春の稼動を目指して水処理膜工場を建設している。

伊藤忠商事は、オーストラリアにおいて、大規模な水資源事業をスタートする。総事業費2800億円を投じ、ビクトリア州に大規模な海水淡水化プラントを建設し、2011年末からメルボルン市向けに日量40万トンの水を供給する。これは、フランスのスエズ社などとの共同出資で実行する。

商社が参画する水資源事業は、この他にも三菱商事、三井物産、住友商事、丸紅など、多くの積極的な投資計画が続出している。

水資源ビジネス市場は、2025年には現在の60兆円から100兆円に拡大するといわれており、日本の総合商社の底力および世界に誇る「ニッポンの素材力」がものを言うときがきた。

ここにきて米国のIBMは、2014年までにITによる水管理ビジネスで、2兆円の新市場が生まれると予測し、スマートグリットの概念を応用したシステム構築に躍起となっている。また同じく、環境分野の巨大企業となりつつあるGEも、高機能排水浄化膜のシェア世界一の地位にあり今後、中国を中心とする排水処理ビジネスを一気に拡大する。環境という分野に、ITの光が当たりはじめたことを象徴する出来事だと言っていいだろう。

産業タイムズ社 専務取締役 編集局長 泉谷渉

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