パワーデバイス爆発の条件は整った〜東芝の設備投資拡大が意味するもの
「東芝のパワーデバイスに対する設備投資拡大の機運が高まっている。よほど大きなアプリケーションを見つけているのだろう。メモリーに集中してきた投資がパワーにも軸足を移しつつあるという傾向は注目に値する」(アイサプライ・ジャパン 副社長 南川明氏)。
実際のところ東芝は、主力となるフラッシュメモリーなどの半導体増産投資をほぼ凍結している現状にあるが、省エネルギー用途のパワー半導体については、例外とも言ってよいほどの積極姿勢を見せ始めた。IGBTを始めとするパワー半導体の拠点は、石川県能美市にある加賀東芝エレクトロニクスであり、延べ2万3000平方mの新工場棟を立ち上げている。ここには、8インチウェーハを導入し、月産6万枚〜7万枚に引き上げる計画で、2010年までに550億円を投入するとアナウンスしている。しかし、実際上の計画は800億円以上を投入すると見られ、ウェーハ枚数も月産10万枚近くまで一気に上げていく計画だ。8インチラインは、三重県四日市のフラッシュメモリー生産ラインを転用して使う。
パワー半導体でトップをいく三菱電機を打倒するのが東芝の最終目的であり、今後の傾向としてはメモリーに対する投資よりもパワー半導体に対する投資が相対的に増えてくると見ている。加賀東芝は、敷地33万平方mもあり、広大と言われてきたがもう1棟建てれば、ほぼ満杯になる見通しだ。このため、中長期的には新工場立地もいよいよ視野に入ってきた。
世界経済危機の影響で堅調といわれたパワーデバイスも、この1年間はさすがに失速した。しかし、省エネ半導体として環境配慮の時代にマッチングしているチップであるため、この用途拡大はすさまじいものがあるといわれている。ヨーロッパやアメリカを中心に急速に拡大する風力発電は、現状で補助金などを加えればすでに石炭火力や石油火力の料金を下回っている。風力発電1基には50個以上の最先端パワーデバイスであるIGBTが搭載されるわけだから有力市場といえるだろう。英国などは、7000基の風力発電を2020年までに建設するとアナウンスしており、これだけでもIGBT需要は爆発する。もちろん、環境車といわれる電気自動車やプラグインハイブリッド車の重要部材はリチウムイオン電池とIGBTであり、この需要もばかにならない(編集部注:電気自動車が本格化する時代はSiCやGaNのFETも重要部材になる可能性がある)。
CO2排出量がガソリン自動車の9分の1と少ない鉄道への関心も高まっている。米国では、グリーンニューディール政策の一環として、10路線の高速鉄道整備計画を発表している。2012年に着工するサンフランシスコとサンディエゴをつなぐカリフォルニア高速鉄道は、約1300Kmのスケールで、実に事業費は3兆円を超えるという。中国は、2020年までに1万6000Km以上の高速鉄道網を造る計画であり、ロシア、アルゼンチン、インド、ベトナム、ブラジルなどにおいても新規の高速鉄道プロジェクトが進む。鉄道関連産業の市場規模は現状で約16兆円であるが、この数年のうちには20兆円以上に達する見通しだ。ここにも最先端のIGBTや多くのパワーデバイスが大活躍するステージがある。
IGBT生産で世界の2位をいく富士電機は、いよいよ期待のマレーシア新工場において本格的な一貫量産に踏み切る。これまでは後工程のみが稼働していたが、この10月からは6インチウェーハで月産1万5000枚の前工程をいよいよ導入することを決めた。パワーデバイス再上昇の足音が聞こえてきたからにほかならない。
加えて、来年から半導体産業並みの巨大投資が始まると言われる太陽光発電についても、パワーコンディショナーのところにかなり多くのIGBTなどパワーデバイスを採用する。環境/新エネルギーをキーワードにパワーデバイスの巨大投資断行の基本的な条件は整ったと言えるだろう。