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期待のMEMSは半導体の1/40の市場規模〜ファンドリ30社がひしめき利益が出ない

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「ナノテクノロジーの有望株と言われたMEMSデバイスは、ここにきて曲がり角を迎えている。現段階で6000億円から7000億円の市場はあると思われ、年間成長率も10%強で推移しており、半導体デバイスの約2倍。しかしながら、市場規模全体から言えばMEMSは半導体の約40分の1という小さな世界で、インパクトが少ない」(アイサプライジャパン 南川明副社長)。

MEMSの将来性に対し、多くのアナリストや技術者、またメディアが過大なる期待を寄せた時期があった。確かに半導体と組み合わせて従来のLSIでは実現できなかったシステム性能を達成するという点では、評価できるものがある。MEMS市場において上位を占めているのは、実のところはシステムメーカーのキャプティブ市場であり、自社のシステムのキー部品としてMEMSデバイスを自社開発し、活用しているケースが多い。つまりは、MEMSデバイスに必ずしも収益性は求めていないのだ。おそらくは、MEMS市場の約70%はTI、HP、Bosch、キヤノンなどの大手が占める。残る3割の小さな市場に多くのメーカーがひしめいており、この状況下で収益を出すのはほとんど難しい。

MEMSデバイスは、自動車のエアバッグ用加速度センサーとして、一時期大きくはじけた。特に2軸から3軸への移行が進んだ。しかし、各社がこのマーケットに群がり市場は混乱し、価格はめちゃめちゃに下がり、要するにみんなが大赤字を積み重ねた。デジカメの手ぶれ防止やシリコンマイク、加速度センサーなどにも使われているが、こちらも価格が安くて撤退するところが多い。

ところで、任天堂のWiiは、加速度センサーやジャイロセンサーを使って、体を動かしてゲームをするという新世界を開いた。MEMSデバイスをこう使うとは、誰も考えなかった。この発想こそが任天堂の天才的なところだ。大不況下にも関わらず、莫大な利益を上げる任天堂は、安くて使い勝手の良い半導体をうまく使うという点でも天才的だ。しかしながら、任天堂のWiiに使われている加速度センサーは日本製ではない。いったい、日本の半導体メーカーは何をやっているのだろう。身近にこれだけのすばらしいセットメーカーがいるのに、食い込めないところが情けない。

さて、MEMS専業メーカーが収益を出すのは難しいが、その一つには開発費の負担ということもある。アイディアの段階から製品化まで非常に長い時間がかかり、下手をすれば15年から20年以上に上るわけで、これではR&D資金を回収できない。生産数量も少ないために、かけた設備投資も回収できない。一方で生産数量が増えてきた場合は、製品がコモディティ化するので、参入企業が一気に増え、価格が激落し、これまた投資の回収ができない。まさにあり地獄のような世界なのだ。

もちろん、今後MEMSによる革新が期待できる分野は数多くある。特にオバマ米大統領のグリーンニューディール革命の主役となる環境/新エネルギーには、新アプリが多いと言われている。マイクロ燃料電池や振動発電、各種の省エネルギーシステムなどにMEMSを活用しようという動きが出始めている。また、旧エネルギーにおいても海底の油田を探索したり、地下300m下に埋め込む原子力廃棄物の地盤調査にもMEMSは活用できるのだ。

ここ数年の間に大手企業のMEMSファンドリ事業参入が相次いだ結果として、アジア地域で10社以上のラインが存在する。この他にも欧米にやはり20社のファンドリが存在する。日本のファンドリの代表格はオムロンや大日本印刷であるが、まったく利益は出ていない。小さな市場に30社のファンドリが乱戦を繰り返す。しかもみんな儲かっていない。これではどうにもならないだろう。

ところで、日本国内にはただ1つだけ黒字化しているMEMSベンチャーがいる。それが仙台に拠点を置くメムス・コアであり、こちらは今後は新工場建設まで考えるとしており、期待が高まっている。儲かっている理由は1つだけ。大手のMEMSメーカーが不採算のため、開発・試作をメムス・コアに丸投げするからだ。「大手MEMSは疲弊しており、メムス・コアに少量産もやってくれとの依頼が多い。ドライエッチングやメッキ設備などの設備投資が今後必要となるわけで、この投資負担が重い。しかし、中長期的には新工場建設の夢は捨てていない」(メムス・コア専務 小切間正彦氏)。

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